漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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「 バトル 」 一覧

第49夜 愛のため正義のため、少年達は神々に挑む…『聖闘士星矢

「いくぞ!!/地上の愛と正義のために!!/命と魂のすべてをそそぎ込んで!!/今こそ燃えろ黄金の小宇宙よ!!/この暗黒の世界に…/一条の光明を!!」


聖闘士星矢 文庫 全15巻 完結セット (集英社文庫―コミック版)

『聖闘士星矢』車田正美 作、集英社『週刊少年ジャンプ』→『Vジャンプ』(完結編のみ)掲載(1985年12月~1990年12月)

 遠い神話の時代より、星座の加護のもと女神アテナに仕え、世が乱れる時には自らの肉体のみでこれを治めて愛と正義を示してきた戦士たち、聖闘士(セイント)。天涯孤独の少年、星矢(セイヤ)もまた、聖闘士となるべく幼い頃から厳しい修行の日々を過ごし、晴れて天馬星座(ペガサス)の青銅(ブロンズ)聖闘士となる。
 正体の知れぬ陰謀による聖闘士同士の諍いを経て、星矢は竜星座(ドラゴン)の紫龍(シリュウ)、白鳥星座(キグナス)の氷河(ヒョウガ)、アンドロメダ星座の瞬(シュン)、鳳凰星座(フェニックス)の一輝(イッキ)たち青銅聖闘士と固い絆で結ばれる。やがて戦いは、アテナと敵対し、地上を我が物にしようと考える神々との戦いへと局面を移していく――。

力の発露の正統性としての神話
 前にも少し書いた(『宙のまにまに』参照)が、自分は幼少時から星空を見るのが好きで、子ども向けの星座の本などもけっこう持っていたのだが、それが当時テレビアニメが放映されていた本作に影響されたのか、それともそれ以前から興味があったのか定かではない。それはともかく、小学校に入った年あたりは本作は大ブームといっていい人気ぶりだった。自分も本作へはアニメから入り、原作をしっかりと読んだのは10代も後半になってからである。
 新鮮だったのは、聖闘士が繰り出す技や、戦闘装甲である聖衣(クロス)の多くに、しっかりとしたモチーフが付与されていることであった。主人公である星矢の技こそ連載初頭に決まっていたためか、その傾向は薄いが、仲間の聖闘士たちの技や装備には、「王女アンドロメダが岩場に繋がれていた鎖を用いた攻撃」だとか「廬山(ろざん)の大瀑布に打たれ続けたため全聖衣中最硬度」といった、“その力を持つに至った経緯”がある。前半では敵役として出てくる白銀(シルバー)や黄金(ゴールド)の聖闘士、後に戦うことになる聖闘士以外の闘士たちも、戦いの最中にその手を休め、丁寧にその力が何に根源を持ち、それを行使する闘士としての正統性をしっかりと教えてくれる。このくだりを皮肉ではなく本心として、非常に面白く感じた。古の戦士や武士同士の戦いでも、同じように自分の振るう武器の来歴など披露しあって、それから刃を交えるといった、野蛮にして高貴な作法があったかもしれないと空想させてくれる。

常時の人間<機械<神<瞬間の人間
 自分は、上の見出しのような不等式を信じている。本作のような人間賛歌は、これを裏付け、神と人間との関係を考える手がかりを示してくれるように思う。
 中盤以降、少年たちは神々との戦いに身を投じていく。常識的には、定義的に神に人間が敵う道理はない。実際、作中でも神の名を冠する存在は圧倒的な力で星矢たちを苦しめる。しかし、「変化し得る」という、ただその一点において、人間は神を凌駕する。少年達が苦難をのり超えて成長し、それまで無かった絆が人々の間に芽生える時、一瞬であるにせよ神をたじろがせることができる。本作の、多く熱血漫画を手がけてきた作者による台詞回しには、読者にそれを信じさせてくれる力がある。
 ギリシア神話を中心とした世界観を説明する広範な設定と、人間の可能性を信じさせてくれる展開は、少年漫画の1つの王道と云えるだろう。

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第39夜 化物と人の野蛮な高貴さに酔いしれろ…『HELLSING

「私にとって日の光は大敵ではない/大嫌いなだけだ」 『HELLSING』平野耕太 作、少年画報社)『ヤングキングアワーズ』掲載(1997年5月~2008年9月)  大英帝国王立国教騎士団。通称ヘルシング機関は、永くイギリスと王室を怪物――ことに吸血鬼――から守護し……

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第35夜 目を逸らさず、歩みを止めないということ…『るろうに剣心

「剣は凶器 剣術は殺人術/どんな綺麗事やお題目を口にしても/それが真実――けれども拙者はそんな真実よりも、薫殿の言う甘っちょろい戯れ言の方が好きでござるよ」 『るろうに剣心』和月伸宏 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1994年4月~1999年9月)  明治初期……

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第30夜 霊とも敵とも共に歩む姿こそが強さ…『シャーマンキング

「そのなんでも知ってる“精霊の王”って奴と友達になれば!!/なんの苦労もしないで毎日のんびり楽に暮らせるんだろ…!!」「ドバカモン」 『シャーマンキング』武井宏之 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1998年7月~2004年10月)→完全版にて完結(2009年4月) ……

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第28夜 描かれた円の中は、少女の心を映す混沌…『魔方陣グルグル

「これからあたしたちいよいよ世界を冒険するのね!/あたし世界中の町を見てみたいな/いろんな人に会ったり楽しい事もいっぱい…/どんな世界が待っているのかしら……/……ゆうしゃさまムーンストーンをつかうのよ……」「何考えてんだよ/なんだよムーンストーンって」 『魔方陣グ……

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第27夜 宵闇に燦然と燃えさかる“人間の姿”…『からくりサーカス

「何かあったら心で考えろ…/今はどうするべきか…ってな。/そうして…笑うべきだとわかった時は…/泣くべきじゃないぜ。」 『からくりサーカス』藤田和日郎 作、小学館『週刊少年サンデー』掲載(1997年7月~2006年5月)  両親の都合で中国で暮らしていた青年、加藤……

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第21夜 運命・意志・希望…『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風

「大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている/向かおうとする意志さえあればたとえ犯人が逃げたとしてもいつかはたどり着くだろう? 向かっているわけだからな……………違うかい?」 『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風』荒木飛呂彦 作、集英社『週刊少年ジャ……

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第20夜 闘いに臨む覚悟と、その果ての慈悲…『怪奇警察サイポリス

「汝の魂に、幸いあれ…!」 『怪奇警察サイポリス』上山道郎 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1991年12月~1995年6月)  新聞部の部長を務める中学2年生、鬼塚勇気(おにづか・ゆうき)。同級生の新聞部員、三原千夏(みはら・ちなつ)に押されつつも部を取……

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第14夜 個人VS個人、その最高水準の衝突…『グラップラー刃牙

 2013/05/18  100夜100漫,

「強くあろうとする姿は――――かくも美しい!!!」 『グラップラー刃牙』板垣恵介 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(1991年9月~1999年6月)  東京ドームの地下には闘技場がある。そしてそこでは、各々の世界で現役を担っている格闘家たちが、夜な夜な真剣……

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第11夜 いにしえの倭国で、二人の視る夢は続く…『邪馬台幻想記

「…そうだ/オレは伊予を高天の都へ連れていく……/倭国を統一するために…/そしてオレは見てみたい…/伊予が造る理想の国を…」 『邪馬台(やまと)幻想記』矢吹健太朗 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1999年2月~6月)  幻想の時代――紀元3世紀。倭国は戦乱の……

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