漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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【探訪】~画業30周年記念企画~ 藤田和日郎原画展…“自然な熱さ”に鼓舞される


 『うしおととら』『からくりサーカス』『月光条例』『双亡亭壊すべし』などなど、100夜100漫の漫画遍歴の中でも大きなウェイトを占める諸作の作者、藤田和日郎氏。その画業30周年を記念した原画展が、東京・池袋で行われている。
 過日(11/16)お邪魔し、写真撮影も可能だったので幾つか画像も交えつつ、その時のことを記録しておこう。

エントランス

 原画展が開催されているのは、過去にも同様の漫画の原画展が催された、池袋の西武池袋本店・西部ギャラリー。到着したのは14時半を少し回った頃だった。
 入場料は当日800円。オリジナルブックカバー(コミックサイズ)が特典に付いた入場券は1,200円。後者については、11/19まで、デジタルチケットや、コンビニ発券チケットのサービスで入手できる。詳しくは、公式サイト(http://fujita-kazuhiro.gengaten.com/index.html)を確認されたい。

 入場してすぐの空間では、まず先生による挨拶色紙がお出迎え。

 先生の監修によると思われる年譜も。漫画に関する事項の間に「仕事場にクーラーを導入」とか「20キロ太る」などの個人的な事件も挟まれていて面白い。

 関係各位からのお花の中には、同じく100夜100漫の中で大切な漫画『3×3EYES』などの作者・高田裕三先生からのものもあった。

 展示の内容は、連載作品の発表順に、おおよそ時系列に沿って原画や構想ノートが置かれているオーソドックスなもの。以下、作品ごとに幾つか原画を掲載したい。

うしおととら

 押しも押されもせぬ連載第1作。太陽と月をモチーフにしたこの作品は、直筆サイン入り複製原画としても販売されており、完売第1号だった模様。陰と陽が混じり合うという、作品のテーマを饒舌に語った名品だと思う。

 みんなのトラウマ、衾も原画として登場。敢えてアップで。

 獣の槍に映る登場人物たち。実際には、槍の先端まで描かれている。

 構想ノートの一部。興味深いことが色々書かれている。『さすがの猿飛』のノートみたいだけど。。

 あの圧巻のラストバウトの原画。ホワイトの活用ぶりがうかがえる。

からくりサーカス

 現在アニメも放映中の連載第2作。いまのところ、藤田漫画では最長連載の作品でもある。こちらは最終巻の表紙画。恐らく作中では実現されなかっただろう場面だけに、味わい深い。

 当初は敵だった、自動人形コロンビーヌの退場シーンの原画。笑顔に魂を感じる。

 「オリンピアの恋人」ことギィを描いた単行本表紙画。退場を示唆していた、と今さらながら納得。

 ペン等でも追い付かず、指で作画したという怒れる鳴海。漫画というか絵画的にも見える。

 構想ノートの一部。前書きに不退転の決意が感じられる。

 つい先日アニメでも描かれたシーン。炎や鳴海の目にホワイト活用の痕跡がある。

月光条例

 連載第3作。こうした版画調の画は、この作品あたりから見られるようになった気が。

 こちらも構想ノートの一部。この作品に限らず、人物の名前などが変転していくのが興味深い。

 アラビアンナイトな月光とエンゲキブを描いた、単行本表紙画。そういえば『100夜100漫』も、大元まで遡れば『千夜一夜物語』が由来です。

 『フランダースの犬』のネロに、男を語る月光の原画。薄墨のような背景を味わえるのは、原画ならでは。

 夏を感じる単行本表紙画2点。あんまり意識しなかったけど、ひと夏(というか夏の半ばくらいまで)の物語だった。

 『青い鳥』のチルチルと、『雉も鳴かずば』の菊のシーンの原画。可哀想な菊の、いつも泣いているような瞳はホワイトで表現されていたことに気付く。

双亡亭壊すべし

 最新連載作。単行本1巻表紙画だが、本では黒っぽく処理されていたのに対して原画は紫が強かった。

 構想ノートには、双亡亭の全容もあった。

 こちらは連載第1回のカラー原稿。鬱屈として幻想的な雰囲気がよい。

 こちらもカラー原稿。青一の瞳と唇の質感が目を惹く。

 青一が戦う時に、身体を変化させて形作るドリル。1色には1色の凄味がある。

 物語中盤(…たぶん中盤)で登場した、黄ノ下残花(きのした・ざんか)少尉と帰黒(かえりくろ)のコンビ。帰黒の白い髪は、やはりホワイトなのだろうか?

ライブドローイング

 一通り見たところで、ライブドローイングの時間が近づいてきた。これは、藤田先生が来展者たちの前でパネルに直筆で作画するというもの。

 既に12日、14日の2日で『うしおととら』『からくりサーカス』の人物たちを描いてあり、この日は『月光条例』の番。来展者が多かったため、前列で見ている人を10分ごとに入れ替えるという方式で行なわれた。
 ライブドローイング中は、見ている人達からの質問に藤田先生が答え、ミニトークライブのようなひと時となった。話題は多岐に及んだが、そのうち5点だけ、印象に残ったお話の要約を以下に示す(間違いなどがあれば、その責は要約した100夜100漫にあります)。
 〇「熱い台詞回し」(藤田節)とよく云われるが、自分にとっては普通な感じで描いている。
 〇『からくりサーカス』の鳴海の名前の由来は、「女子の名を男の子に付けると元気に育つ」という言い伝えから。
 〇自分の漫画で伝えたいことは「なんとかなる」。
 〇漫画家にとって、よく眠ることは大切。
 〇ヒーローとは、“人のために戦う人”。ただヒロインを助けるのは、ヒーローとは云えないかもしれない。

 当初30分程度とされていたライブドローイングだったが、質疑応答の濃さもあったためか(リクエストで“はっちゃん”こと鉢かづき姫を書き加えたため?)、ほぼ1時間というファンとしては嬉しい時間延長となった。
 16日分終了時点でのパネルは上の通り。展示最終日である20日に、パネルを拡張する形で『双亡亭』の人物が描かれる予定である。

帰路

 たっぷりと堪能し、会場を離脱。時刻は18時近かった。ライブドローイングを含めて3時間半は滞在していたことになる。さすがに足が疲れた。

 特典のオリジナルブックカバーと、お土産として購入した図録「拳」。図録は画業20周年の時の記念全集『藤田和日郎魂』と揃えたデザインが嬉しい。

 以上のような感じで、いつにも増して楽しめた原画展だった。「熱い」と呼ばれる藤田漫画だが、その「熱さ」は無理に盛り上げるものではなくて、作者から自然と湧いてきているものだということを、ライブドローイングでのトークを通じて改めて感じた。その自然な熱が、自分を含む読者を鼓舞するのだろう。
 既に書いた通り、会期は今月(11月)の20日(火)まで。気になる方はお早目に。

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