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【一会】『七つの大罪 40』……八つ目の罪、あるいは彼女という現象

   

七つの大罪(40) (講談社コミックス)

 ついに次巻41巻が最終巻と明示された、旧き世界と新時代の英雄達を繋ぐ物語『七つの大罪』。前巻に引き続き、2月17日に刊行された第40巻の内容を追って行きたいと思います。

 ゼルドリスの身体を乗っ取った魔神王との戦いも佳境。〈七つの大罪〉全員一丸となり、立ち向かうところで前巻は終わっていました。
 今巻の冒頭は、魔神王に意識を乗っ取られたままのゼルドリスの精神世界から。仲違いするメリオダスとゼルドリスですが、そんな魔神王のまやかしに、今さら乗せられるゼルドリスでもありません。魔神王を圧倒しながら彼が口にしたのは、兄メリオダスへの理解と信頼。ゼルドリスの精神世界での戦いは、その肉体の本来の主が勝利することで終わりました。

 精神世界でのゼルドリスの勝利は、現実世界にも影響を及ぼします。魔神王は乗っ取っていた肉体から分離し、ゼルドリスは元の姿に戻りました。現実世界で兄と弟が顔を合わせるのも久々のこと。本当の和解が訪れたと云えるでしょう。

既に勝敗は決まっている

 さて、それは良いとして、魔神王はまだ滅んではいません。依り代を失った魔神王が手を伸ばしたのは、ブリタニアの大地そのもの。大ボスが巨大な土塊となるのは、今秋再アニメ化が予定されている『ダイの大冒険』(100夜100漫第90夜)でも見られた黄金パターンですが、その災害級の大きさは、人々に絶望感を抱かせるのに充分だったようです。
 魔神王は咆哮します。戦慄(わなな)け、諦観せよ、と。
 が、しかし。
 その光景を目の当たりにしたゼルドリスが云うように、全員が一つとなった〈七つの大罪〉を前に、魔神王には既に勝機はなかったようです。
 魔力「虚無(デス・ゼロ)」で応戦する魔神王。一方マーリンの「魔力限界突破(パワー・リミットブレイク)」で一時的に限界を超えた〈七つの大罪〉は、それぞれの技に魔力を込めます。全員の攻撃を、さらにマーリンが「全魔力合体(パワー・フルコンバージョン)」で一つに合体。その激烈な力を「全反撃(フルカウンター)」で弾き、魔神王にぶつけ続けるのは団長メリオダスです。
 かくして成った〈七つの大罪〉全員による合技「不倶戴天」は、今度こそ間違いなく、魔神王を討ち倒しました。

光と闇の時代の終焉

 最後の瞬間、息子・メリオダスと父・魔神王は刹那の対話を交わします。ちょっと往年のアニメ『天元突破グレンラガン』での、シモンとアンチ・スパイラルの対話を思い出しましたが、それはともかく。闇を司る魔神王を斃すということは、光である最高神との間で保たれていたバランスを、崩すことに他ならないでしょう。それは、神々による神話の時代が終わりを告げて、人の歴史が始まったことをも示すのかもしれません。
 そうなった時、次に訪れるのは何なのか。メリオダスはそれも理解し、覚悟を決めているようです。

 ともあれ、魔神王は斃れました。「魔力限界突破」で実力以上の力を発揮した余波か、団員たちは誰もがボロボロです。
 が、魔神王は倒したものの、その力の結晶とも云うべき〈戒言〉は残ったまま。このままでは数百年の時を経て魔神王が復活してしまうところですが、同じ魔神王の力を持ったメリオダスならば、その力もろともぶつけて〈戒言〉を消滅させることも可能だと云います。
 そんな力を持っているのなら、新たな魔神王になれるのでは。ゼルドリスが云いますが、答えはもう出ていました。「俺たちが求めたのは力じゃない」。そう兄弟は同意し、〈戒言〉は消滅しました。長い戦いが本当の終わりを告げた瞬間でした。

告白

 ゼルドリスは、ゲルダとともに去っていきます。メリオダスと約束した“サシ飲み”は、落ち着いたらということなのでしょう。
 そして、もう一つ。〈七つの大罪〉には、避けられない別れが待っていました。
 命を燃やし尽くしたエスカノールは、人生に悔いは無いと云い、仲間たちに別れの挨拶と礼を述べていきます。団長には「無二の友」という格別な言葉を。そしてマーリンには、はぐらかしてばかりいた想いを。
 それは、この〈暴食〉の魔術士の心に響くものだったようです。この時点では何も明示されていません。しかし、ひとり何かを決断し、罪を背負ってきたマーリンの素顔を、愛ゆえかエスカノールだけが気付いていた。そういうことなのかもしれません。
 最期の時が近づいた時、マーリンのとった行動からも、彼女の心境の一端がうかがえます。愛した人の口元に生きた証を遺し、その幸せを祈るポエムを遺して、「傲慢の罪(ライオン・シン)」の通り名を受けた団員は、虚空へと消えていきました。

不穏

 〈七つの大罪〉の魔神王打倒と帰還を知ったブリタニアでは、盛大な祭りが催されようとしていました。が、エスカノールに命を救われたギルサンダーら若い聖騎士たちは、その死を悼んで3人でしんみりと酌み交わすようです。
 彼らが飲んでいたグリアモールの家では、かつて敵対した者とのまさかの再会が果たされたりもします。いささかコミカルな雰囲気(まぁ彼女も幸せそうなので、良いことなのでしょうけれど)の中で、しかし彼女は気になることを口にしています。
 「光と闇の均衡が崩れる時/神々の時代は終焉を迎え混沌が蘇る/そして世界は生まれ変わる」。そんな言葉を呟いていたのは、他でもない「暴食の罪(ボア・シン)」マーリンだったと云います。

 一方、リオネス城では祝宴の真っ最中。〈戒言〉に魔神王の力をぶつけたことで、メリオダスは魔神王の力を喪失、魔界で暮らさなくてもよくなったとのことで、他の団員たちも含め、全てが大団円へと向かっているようです。――ただ1人を除いて。

混沌の王

 改めて目的を訊かれたマーリンは、一同をソールズベリーの魔法の湖に転移、自分の目的――既に死んだはずだった若きキャメロット王・アーサーの覚醒に着手します。
 人間は「混沌」の種族であり、「混沌の巫女」に選ばれた人間は、混沌を統べる王となる。そうマーリンは云います。アーサーこそが、混沌の王だというのです。
 事実、目覚めた直後に錯乱したアーサーが見せたのは、迸るような「混沌」の力でした。
 マーリンはアーサーに新時代の王として振る舞って欲しいようですが、光と闇すら生み出したという「混沌」の力を、なぜ彼女は欲するのでしょうか。そうしたメリオダスたちの疑問は当然です。
 その疑問に答える声が、ソールズベリーの湖に響きます。

八つ目の罪

 「湖の姫」あるいは「混沌の巫女」と自らを呼ぶ声は、混沌を求めるマーリンの来歴を語ります。これまでもちらほらと言及されてきた、ベリアルインという都に3000年前に生まれたマーリン。彼女の心を支配してきたのは、ある者の愛への渇望と、それを代償してくれるような「混沌」への期待でした。
 彼女にとっての3000年は、あまりにも哀しい時間だったに違いありません。生まれ故郷の名「ベリアルイン」という文字列に含まれる「ベリアル」は、一説によれば「無価値なもの」という意味の悪魔(堕天使)の名前です。彼女はずっと、自らの“虚無”を埋めようと知識の“暴食”を繰り返す、可哀相な幼子のままだったのかもしれません。
 いずれにせよマーリンは、「暴食」に加え、〈七つの大罪〉の他の者たちまでも欺く「欺瞞」や「隠匿」という八つ目の罪をも背負っていたと云えるでしょう。
 そうでありながら、彼女が団員たちに見せた親切や真摯さ、そして愛情もまた、贋物とは考えられません。そういう矛盾を平気で内包できるのが、マーリン――人間という種族だと、「混沌の巫女」は語るのですが――。

 …というところで、今巻の物語は閉幕。最終巻となる41巻は、5月15日に刊行予定です。万感を胸に秘めつつ、その日を待ちたいと思います。

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