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【一会】『七つの大罪 35』……六強激突、強欲の終わり

七つの大罪(35) (講談社コミックス)

 聖騎士を中心とした人間と、悪魔のような魔神族、天使を思わせる女神族など多種族の関係と戦いを描きつつ、やがてアーサー王伝説に至るとされる、鈴木央氏の古英国ファンタジー『七つの大罪』。間が開いてしまいましたが、1月刊行の現最新刊35巻を読みましたので、概要や感想などを書きましょう。

覚悟の団長

 前巻ラストで、煉獄から現世に還るための扉を辛くも通過したメリオダスとバン。現世へと漂っていく2人が語るのは、〈七つの大罪〉の豚的マスコットであるホークの兄にして、前巻では命を賭して2人を援護してくれた煉獄生物ワイルドのことです。猪ライクなマスコット風の見た目に反して天晴れな武人気質だった彼は、前巻末で命を散らしたように描写されていましたが、しれっと生き延びて、ホークと再会してくれる未来を切に希望しています。
 それはともかく。メリオダスとバンは2人揃って現世に帰還と思いきや、しつこい魔神王はメリオダスに追いすがってきました。しかし、自らの本来の魔力を用いたメリオダスはこれを一蹴。この力を用いるということは、即ち現世に居場所がなくなるということのようですが、彼は覚悟を決めたのでしょう。初めて魔神王が焦る顔を見たと「にししっ」と笑うメリオダスの笑顔が、逆に辛いです。

決戦、キャメロット城

 さて、ここで時間が少し巻き戻り、マエルにまつわる衝撃の顛末が明らかになる前の強襲部隊の様子が描かれていきます。
 敵の中枢であるキャメロット城に突っ込むこの部隊は、女神族〈四大天使〉長である「閃光」のリュドシエル、〈七つの大罪〉から「暴食の罪(ボア・シン)」マーリン、同じく「傲慢の罪(ライオン・シン)」エスカノールという3者(と、聖騎士ヘンドリクセンとギルサンダー)による、現状での最強編成。決戦が望まれます。
 一同は、リュドシエルの魔力“聖域(サンクチュアリ)”で身を守りつつ、強烈な暗黒領域と成り果てた城内へ。ほどなく、斃すべき敵たちと対峙します。
 〈十戒〉の一角「敬神」にしてメリオダスの実弟ゼルドリス、兄弟の教育係だったという最上位魔神〈おしゃぶりの鬼〉チャンドラーと、〈うたたねの死神〉キューザック。いずれも尋常でない闘級を誇る3体と、3対3の戦いの火ぶたが切って落とされました。

 20万もの闘級を誇るリュドシエルを中心に、まずは優位に立ったかに思われた強襲部隊。が、それで決着が着くほど甘くはありません。不思議な構えからゼルドリスが繰り出した彼本来の魔力「凶星雲(オミノス・ネヴュラ)」により形勢は一変します。
 ゼルドリスの脳裏に思い描くのは、メリオダスと交わした約束――かつてゼルドリスが愛し、しかし魔神王により処刑するよう命じられた吸血鬼族の娘ゲルダとの再会。ただ悪の体現と思われた魔神族の王子にも、確かに感情があるようです。
 とはいえ、だからといってマーリンたちと和解するつもりもなさそうです。対象を強力な引力で引きつけ攻撃し、逆に相手の攻撃は物理も魔力も無効化する「凶星雲」に、いかに最強クラスとはいえ、個々の攻撃では歯が立ちません。マーリンの取り成しにより、リュドシエルにエスカノールが協力し連携攻撃を仕掛けますが、リュドシエルが思うほど簡単に破れるものではなさそうです。

 攻撃の正体は、ゼルドリスの脊髄反射による神速の斬撃――「全反応(フル・リアクト)」。そうマーリンが看破したものの、「閃光」と名にし負うリュドシエルですらその速度に遅れをとります。対抗し得るのは、やはりエスカノールしか居ないようです。
 時は今まさに正午。強さの絶頂“天上天下唯我独尊(ザ・ワン)”状態に至ったエスカノールの斬撃を、ゼルドリスは弾きます。
 が、ことこの状態のエスカノールにおいては、武器よりも素手の方が強かったり。太陽の力を纏った手刀“聖剣エスカノール”はゼルドリスを捉え(その「太陽」の力に、マエルを知るチャンドラーが驚愕します)、ついに「凶星雲」を解除させることに成功します。さらに次の瞬間、一本抜き手“聖槍エスカノール”がゼルドリスを直撃、エスカノールの勝利――と思われましたが、これを傍観しているチャンドラーではありません。リュドシエルが追撃を試みますが及ばず、深手を負ったゼルドリスの後退を許すことに。

 代わって前に出たのは、チャンドラーとキューザック。キューザックと対したリュドシエルの分は悪く、マーリンもチャンドラーに押され気味と思われましたが、マーリンには秘策があったようです。「弱点がない…ならば/弱点を作ればいい」(p.122)と云い放つのと同時に始まった攻撃は、魔神たちにも仲間にも読者にも不可解なもの。その正体はすぐにマーリンが説明してくれますが、リュドシエルのモノローグ通り「反則」的なものです。イメージで云うと、天才ジャズピアニスト、あるいは鬼才バーテンダーという感じでしょうか(?)。
 キューザックの悪あがきにもマーリンは対策済みで、割って入ろうとしたゼルドリスにはリュドシエルが反撃し、これは強襲部隊の勝利と思われた瞬間、一同を衝撃が襲いました。なんともタイミングが悪いことに、エスタロッサ=マエルが明らかになったことによる精神への打撃が、いま訪れたのです。
 エスタロッサ(マエル)を知る両陣営の面々が頭痛に頭を抱えますが、どちらかというとこれは、魔神族の方に有利に働くこととなりました。体勢を立て直した彼らは、ゼルドリスの力を温存し、2体の最上位魔神だけでマーリンたちに対することとなります。
 マーリンたちを強敵と認めた2体は、やむを得ず奥の手を繰り出すことに。聖書における神とルシファーの話を思い出すような昔話を語ると共に、2体の最上位魔神は1体の〈原初の魔神〉へと回帰します。
 〈原初の魔神〉は、彼らが2体だった時よりも段違いに強いに決まっています。マーリンの云う通り、勝機は完全に失われた、のかもしれません。

 ところで、この戦いでは、幾人かの偽りない本音が垣間見られた気がします。
 まずはエスカノール。傲慢きわまりない「ザ・ワン」状態の最中、ゼルドリスに戦う理由を訊ねられて「友のため」と答えています。前後のやり取りから「友」とはメリオダスのことを指しているようですが、傲慢モードの時はメリオダスに対しても批判的でありながら、一方では友情を感じているというのは、なかなか心を揺さぶられるものがあります。
 もう1点は、〈原初の魔神〉へと回帰していったチャンドラーとキューザックです。口ぶりからして、デリエリたちがインデュラ化した時のように、もう元の2体には戻れないのでしょう。それぞれが面倒をみてきたのだろうメリオダスとゼルドリスに対しては、これまでも好意的な言動を見せていましたが、最後までその態度を変えず、それぞれの王子への期待を口にして融合していった彼らは、敵ながらなかなか立派だったと思います。

帰還、そして

 その頃、バンが現世に無事帰還していました。帰り着いたのは、掃討部隊であるディアンヌ、キング、エリザベス、そしてホークたちのもと。ホークを介して煉獄に行ったわけですから、戻ってくるのもホーク経由だったようです。
 エリザベスたちにはメリオダスのもとへ急ぐよう云い、バンは単身で向かうところがある様子。その行き先とは、人間たちの友軍として奮戦する巨人族・妖精族の混成部隊のところ。妖精王の森の聖女として、残り僅かな力を振り絞って戦うエレインのもとでした。
 既に命を落とし、〈十戒〉メラスキュラの魔力によって復活したエレインですが、それはかりそめのもの。力を使い続ければ、遅かれ早かれ再び黄泉路を辿ることになります。
 相思相愛のバンと再会できたものの、ついにエレインにその時が訪れた――かに見えましたが、煉獄で長い時を過ごしたバンは、“強欲の罪”の体現者としての“奪う”とは正反対の“与える”魔力を体得しています。
 バンの“贈与(ギフト)”の魔力により、エレインは今度こそ命を全うする生身の姿に。そして、これによってバンの不死性は消失することとなりました。不死身の身体はバンの強みには違いなかったものですが、当のバンにすれば、それと引き替えにエレインを助けられるなら安いものでしょう。

主人公が死んで「良かった」と思える
物語も珍しいけど、そうとしか云えない。

 エレインを抱きしめるバンを見ていたら、なんだか佐野洋子氏の絵本『100万回生きたねこ』を思い出しました。ちゃんと生きて、エレインと共に死ねるということは、不死ゆえに澱のように溜まっていただろう彼の屈託を晴らすことに繋がるんじゃないか、と思います。そしてそれは、悲劇と転生を繰り返すメリオダスとエリザベスにも云えることかもしれません。

 23巻から実に2年以上をかけて本編に挿入する形で語られてきた過去エピソード「祭壇の王」も、今巻末で完結。ドルイドの里のジェンナとザネリ、女神族・マエル・エスカノールなどの繋がりを描いたものでした。これでひと区切り…と思いきや、本編でのピンチはまだ去っていないと思い直し、次巻を待つことにします。
 次なる36巻は、今からおよそ3週間後の4月17日に刊行の予定。なるべく早く読んで書けるよう、邁進します。。

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