「何かあったら心で考えろ…/今はどうするべきか…ってな。/そうして…笑うべきだとわかった時は…/泣くべきじゃないぜ。」 『からくりサーカス』藤田和日郎 作、小学館『週刊少年サンデー』掲載(1997年7月~2006年5月) 両親の都合で中国で暮らしていた青年、加藤……
「 バトル 」 一覧
第28夜 描かれた円の中は、少女の心を映す混沌…『魔方陣グルグル』
「これからあたしたちいよいよ世界を冒険するのね!/あたし世界中の町を見てみたいな/いろんな人に会ったり楽しい事もいっぱい…/どんな世界が待っているのかしら……/……ゆうしゃさまムーンストーンをつかうのよ……」「何考えてんだよ/なんだよムーンストーンって」
『魔方陣グルグル』衛藤ヒロユキ 作、エニックス『月刊少年ガンガン』掲載(1992年7月~2003年8月)
魔王のいるファンタジックな時代。ジェムジャム大陸の小村、ジミナ村。「グルグル様」という守り神の伝説が残るこの辺境の地にも、大陸を納めるコーダイ国王による勇者募集の立て札が立てられた。勇者マニアのバドは、息子ニケを勇者として旅立たせることを決める。ラクして暮らしたいニケは旅立ちを渋るが、父母の熱心過ぎる説得についに観念する。
旅立ちにあたり、しきたりに従って村の古老、魔法オババの家を訪れたニケは、オババから「グルグル」の真の意味を教えられる。それは、ミグミグ族という民族が見出した、魔方陣を描きその図形の持つ力を引き出す魔法のことだった。オババはニケにそれを授けると告げ、13年前にミグミグ族の生き残りから託され秘して育ててきた、民族最後の生き残りの少女、ククリを紹介する。かくして、勇者(?)ニケとグルグル使いククリの2人は、魔王を倒し、世界を救う旅に出る。
父親に多少鍛えられたとはいえ基本的にやる気のないニケと、物覚えが極端に悪く、グルグルを失敗してはヘンなものを召喚してしまう上に妄想癖のあるククリ。不安この上ない2人だったが、大ボケを繰り返しながらも多くの人と出会い、戦いをくぐり抜け、修行を重ねて成長する。そんな中、いつしかククリはニケに恋心を抱く。そのときめきこそが、グルグル最強の魔法を復活させる手がかりともなるものだった。そうこうしているうちにも魔王ギリの侵攻は進む――。
陣の中の混沌
初期の『ガンガン』には、先立ってエニックスの人気漫画シリーズだった『ドラゴンクエスト4コママンガ劇場』出身の作家が多く、本作の作者、衛藤ヒロユキもその例に漏れない。その出自の故か、本作もまたドラクエ的な世界観を下敷きにしたストーリーギャグ漫画だが、話が進むごとにドラクエ的な色合いは薄らいでいく。逆に割合を増してくるのは、コンピューターRPG以前を思わせる民間伝承的メルヘン、ハウスに代表されるダンスミュージック、そしてオヤジと褌(ふんどし)といった作者独自の世界観だ。
まるで統一感のないそれぞれの要素が変な化学反応を起こし、“グルグル的”としか云いようのない空気を創り出している。それは作者の無意識を投影した夢想のようでもあるし、「あらゆる音楽の融合体」と形容されるハウスミュージックのようでもある。作中、ミグミグ族の残した魔法グルグルは色々なものが混淆した“よくわからないもの”として描かれるが、作品世界自体が既にそうなのだ。
乙女心の君
そうしたカオスの世界にはしかし、確たる中心がある。他ならぬククリという1人の少女だ。全ては彼女に収斂する。表面上はドラクエ風世界観でオヤジや褌が乱舞するギャグ漫画ながら、その1つ奥にメルヘン的要素と現代音楽のモチーフが融合された物語があり、更にその最深奥に、ある女の子の、瑞々しく愛らしい、そして時に過激な乙女心がある。この極めて特異な構造を、少年漫画としてつづり、10年かけて最後まで描き切った作者は、まさに“偉大なるグルグル使い”と云えるだろう。
後日譚として、作者は何を血迷ったか(あるいはそれが平常運転なのか)作中で最も有名なオヤジキャラ“キタキタおやじ”をスピンオフさせてハラハラさせられたが、現在は正伝の続編が連載中である。本作を堪能したら、彼らのその後を追うのもよいだろう。
*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.6 x 11.4cm)、全16巻。電子書籍化済み。
☆新装版…B6判(18.5 x 13cm)、全8巻(基本的に、通常版2巻分の内容を1巻としている)。カバー下などの小ネタは無し。
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第21夜 運命・意志・希望…『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風』
「大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている/向かおうとする意志さえあればたとえ犯人が逃げたとしてもいつかはたどり着くだろう? 向かっているわけだからな……………違うかい?」 『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風』荒木飛呂彦 作、集英社『週刊少年ジャ……
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第20夜 闘いに臨む覚悟と、その果ての慈悲…『怪奇警察サイポリス』
「汝の魂に、幸いあれ…!」 『怪奇警察サイポリス』上山道郎 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1991年12月~1995年6月) 新聞部の部長を務める中学2年生、鬼塚勇気(おにづか・ゆうき)。同級生の新聞部員、三原千夏(みはら・ちなつ)に押されつつも部を取……
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第14夜 個人VS個人、その最高水準の衝突…『グラップラー刃牙』
「強くあろうとする姿は――――かくも美しい!!!」 『グラップラー刃牙』板垣恵介 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(1991年9月~1999年6月) 東京ドームの地下には闘技場がある。そしてそこでは、各々の世界で現役を担っている格闘家たちが、夜な夜な真剣……
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第11夜 いにしえの倭国で、二人の視る夢は続く…『邪馬台幻想記』
「…そうだ/オレは伊予を高天の都へ連れていく……/倭国を統一するために…/そしてオレは見てみたい…/伊予が造る理想の国を…」 『邪馬台幻想記(やまとげんそうき)』矢吹健太朗 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1999年2月~6月) 幻想の時代――紀元3世紀。倭……
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第10夜 超古代遺跡を護る闘いに見い出す人の偉大さ…『スプリガン』
「どーせ死ぬなら最後まで納得いくまで戦って死んでやる!!/自分の行動に後悔だけはしたくねー!!」 『スプリガン』たかしげ宙 原作、皆川亮二 作画、小学館『週刊少年サンデー』→『週刊少年サンデー増刊号』掲載(1989年2月~1996年1月) かつて地球上にはいくつ……
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第8夜 弟が愛し憎悪する姉は血と鋼に身を固める…『シリウスの痕』
「さて最後のお別れをしなさい/自分の生身の肉体に」 『シリウスの痕(きずあと)』高田慎一郎 作、角川書店『月刊少年エース』掲載(1999年5月~2001年10月) 脳以外を機械化した人間を殺し合わせる闘犬(ドッグファイト)。犬たちには既に闘争本能しか残されていな……
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第6夜 生者への冥い欲求と暗鬱の中で閃く生命の光刃…『武装錬金』
「死んでもやっちゃいけないコトと、死んでもやらなきゃいけないコトがあるんだ!!」 『武装錬金』和月伸宏 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(2003年6月~2005年4月) 高校2年の武藤(むとう)カズキは私立銀成(ぎんなり)学園の寄宿生。ある夜、怪物に襲われて……
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第4夜 歌舞伎町に垣間見える虚無と、極限の暴力…『殺し屋1』
「思う存分ブッかけてこい!/この歌舞伎町に!」 『殺し屋1』山本英夫 作、『週刊ヤングサンデー』掲載(1998年2月~2001年4月) 新宿歌舞伎町。この街には欲望が渦巻いている。 得体の知れない通称“ジジイ”が率いる3人は、組にも所属できない半端もの揃い。……