「そんなんじゃありませんのだ」 『あずまんが大王』あずまきよひこ 作、メディアワークス(現アスキー・メディアワークス)『月刊コミック電撃大王』掲載(1998年12月~2002年3月) 恐らくは関東にある、どこかの共学高校。そこで繰り広げられる、とも、ちよ、よみ、……
「 100夜100漫 」 一覧
第47夜 お笑いに彩られた、意外とマジな演義…『SWEET三国志』
「天下とって♥」
『SWEET三国志』片山まさゆき 作、講談社『ヤングマガジン増刊海賊版』掲載(1992年~1995年)
ワンス・アポン・ア・タイム、イン・中国、漢の国。劉備玄徳(りゅうび・げんとく)は豪傑の関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)と桃園にて義兄弟の契りを交わした。世は乱れ、イエローフラッグの賊が跋扈し、帝は宮廷で美女とリンボーダンス、そんな先行きの暗い時代にあって、彼らは義勇軍を結成したのだった。
それが彼らの、この国の永きにわたる戦いの時代の始まりだった。戦、お色気、計略、パロディ、論破、時事ネタ、競馬ネタ、楽屋ネタ、何でもアリの超ポップな三国志が開幕する。
イズ・ディス・ジャスト・ア・イミテイション?
ふざけた作品である。けなして云っているのではない。多くの人が知っている三国志演義を、とても気持ちよく壊してくれているのが凄いのだ。一応は春秋戦国から三国時代が舞台なのだが、現代の我々がよく知っている事物がちょくちょく画面に入り込んでくる。例えば天下無双の武将である張飛は「全漢ボディビルコンテスト」の入賞常連、レスラーパンツを履いてサングラスをかけた兄ちゃんとして表現されているし、これに呼応するように猛将として知られる呂布(りょふ)もレスラーパンツで、こめかみにはサイボーグのように大きなボルトが差し込まれている。当然のようにハンバーガーだのコーラだのが出てくるし、武将達が現代日本(連載当時)の競馬やアイドルの話題をするシーンもある。
しかし、予想に反してストーリーは元の演義に忠実であるように思われる。もちろん、大きく省略されている部分もあるが、この分量ではむしろ英断と云いたい。横山光輝の『三国志』は無論名作だし、コーエーのシミュレーションゲーム『三国志』シリーズは壮大な世界をグラフィカルに表現した点で偉大だが、こんなポップな三国志もあっていいと思わせられる内容である。
ファイナリィ,ア・ビット・オブ・ティアーズ
思いもよらない武将のデザイン(曹操はビジュアル系、呉の人々はなぜかみんな関西弁、軍師の魯粛に至ってはなんとナマズ人間!)と出来事の解釈で驚きと笑いをもたらしてくれる本作だが、演義を忠実になぞっている以上、後半はスター武将たちの最期が次々と描かれ、湿っぽいシーンが多くなる(それでも笑ってしまうが)。特に、劉備の死に際した時の諸葛亮孔明(しょかつりょう・こうめい;服装は普通だが何故か鼻に縁日でみるピロピロ笛を挿している)の言葉と、その後に蜀の全権を担った孔明の最後の戦いのくだりは、少しだけ涙がこみ上げてくる。
加えて、最後の空のシーンは、“つはものどもが夢のあと”感が醸し出され、「あれ、この漫画ってそういう路線だっけ」と思わせてくれる。コメディ歴史ロマンという、ありそうであまりない作風を楽しみたい。
*書誌情報*
☆通常版…B6判(17.8 x 12.8cm)、全5巻。電子書籍化済み(紙媒体は絶版)。
☆文庫版…文庫判(14.8 x 10.8cm)、全3巻。絶版。
☆コンビニ版…B6判(18 x 12.6cm)、全3巻。在庫僅少。
広告
-
第45夜 新鋭機と“お役所的仕事”の流儀…『機動警察パトレイバー』
「よくみとくといいや。/志望がかなえばこいつに命預けることになる。」「じゃ……じゃあこれが……/新型の警察用レイバー!?/こ…これは…/趣味の世界だねえ……」「とかいいながらわりと気に入ってるだろ。」 『機動警察パトレイバー』ゆうきまさみ 作、小学館『週刊少年サンデ……
-
第44夜 恋と夢と。彼らが選んだのは…『部屋(うち)へおいでよ』
「ねェ……/これから……/いっしょに…/観よっか…/部屋(うち)においでよ…」 『部屋においでよ』原秀則 作、小学館『週刊ヤングサンデー』掲載(1990年月~1994年月) 東京、阿佐ヶ谷のとあるパブ。ピアノを弾く水沢文(みずさわ・あや)と、客なのに店の手伝いを……
-
第43夜 視線の先の異形達は、己の異形の合わせ鏡…『ホムンクルス』
「波は落ぢづぐなあ……/波は俺(わぁ)を映(うづ)さねえ。」 『ホムンクルス』山本英夫 作、小学館『ビッグコミックスピリッツ』掲載(2003年4月~2011年3月) 新宿西口から程近い場所に建つ一流ホテル。道路を挟んだ向かいの公園には、ホームレスの暮らすテント村……
-
第42夜 恋情も、不安も、諸共に携えて見上げよう…『宙のまにまに』
「21分30秒/ポルックス方面2等級!/はいっ」 『宙のまにまに』柏原麻美 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(2005年9月~2011年7月) この春から高校に入学する大八木朔(おおやぎ・さく)は、父親の単身赴任を期に、かつて住んでいた小杉野市に戻ってくる。文……
-
第41夜 豪華で特濃。中華をめぐる仁義なき戦い…『鉄鍋のジャン!』
「料理は勝負だ! 勝てばいいんだ!! 」 『鉄鍋のジャン!』西条真二 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(1994年12月~2000年3月) 国内最高峰といわれる東京銀座の五番町飯店に、謎の挑戦者がやってきた。飯店のものよりも美味しい炒飯を手際よく作った、……
-
第40夜 神職だって、お金は欲しいし恋もしたい…『神社のススメ』
「神社は宗教だがビジネスなんです/そしてアミューズメントだ」 『神社のススメ』田中ユキ 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(2004年4月~2006年6月) 大神社の宮司の次男、里見信二郎(さとみ・しんじろう)。実家の神社は兄に任せ、自分は好きな舞を仕事にしよう……
-
第39夜 化物と人の野蛮な高貴さに酔いしれろ…『HELLSING』
「私にとって日の光は大敵ではない/大嫌いなだけだ」 『HELLSING』平野耕太 作、少年画報社)『ヤングキングアワーズ』掲載(1997年5月~2008年9月) 大英帝国王立国教騎士団。通称ヘルシング機関は、永くイギリスと王室を怪物――ことに吸血鬼――から守護し……
-
第38夜 杯を満たす葡萄の香に、人生の喜怒哀楽は映る…『ソムリエ』
「本当に正しい組合せというのは/料理とワインの間ではなく/ワインとお客様の間にあるんじゃないかな」 『ソムリエ』城アラキ 原作、甲斐谷忍 漫画、堀賢一 監修、集英社『MANGAオールマン』掲載(1996年1月~1999年6月) パリで暮らす日本人、佐竹城(さたけ……