100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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第57夜 ブラックなCG世界で真理の探究…『みんなのトニオちゃん』

「あーあ/オレ達ってCGだったんだ…」「全てが虚しいでちゅ」「自分の価値が分かっちゃうと何もやる気出ねーなぁ…」


みんなのトニオちゃん

みんなのトニオちゃん菅原そうた 作、扶桑社『週刊SPA!』、集英社『週刊少年ジャンプ ギャグスペシャル2002』掲載(1999年~2001年)

 5歳児の3人グループ、ジャイタ、スネ郎、トニオは、ヒエラルキーのはっきりしたドライな関係。子どもらしい欲望を子ども離れ(現実離れ?)した方法論で叶えては、暴力的なしっぺ返しをくらって死亡してしまうこともしばしばだ。
 それでも追究をやめない彼らは、女体や合コンといった即物的な次元から、やがて人生の意味や脳と幸せについて、夢、五次元、虚構と現実といったテーマについて「全てをゼロから」考えていく。

街角哲学
 数年前からネット上で「5億年ボタン」という思考実験めいたお題がたびたび話題になっているが、その元ネタが本作だ。「押すと何も無い空間に飛ばされ、飢えや疲労などを感じない状態で5億年過ごす。期間満了後に元の場所へ戻され、5億年分の記憶が全て消去された状態で100万円が貰える」というボタンがあるとして、それを押すか、というものなのだが、1話完結で綴られる本作の内容は大半がそうした思考実験ものである。
 主人公は5歳児の子ども達でありながら、彼らは不良っぽい若者として振る舞う。毎回のオチではたいてい人体破壊によって血しぶきが飛んで主要キャラが死んでしまうが、次の話では何事も無かったように復活しているというスタイルは、本作がまさに思考実験的な寓話であることを示しているように思われる。
 本作が出色なのは、哲学的テーマを扱いながらも、先行する学説や文献といった“道具”を極力用いていないことだろう。本作後半の章題となっている「ゼロから考える」とはそういうことだ。これにより、思考はアカデミックな教室から出て、街角の雑談として読者に愉しまれる。これが、本作の何よりの魅力と考える。翻せば、そうしたテーマを、読者に分かる言葉で組み上げた作者の構成力には驚嘆する。

違う現実感
 スプラッタな描写が多い本作ではあるが、その割に読後感が妙に爽やかなのは何故だろう。“死んでも次の話には復活”というルールがあるからかもしれないが、同じ程度に、やはりCGによる作画であることが寄与していると思う。
 本作の連載が始まったのは1999年。1993年末に格闘ゲーム『バーチャファイター』の第1作、1996年の世界初のCGアイドル「伊達杏子(だて・きょうこ)」が発表され、CGによる描画技術が世間的に認知されてきた頃だった。作者は恐らくは10代でその技術に触れ、兄の菅原勇太がボーカルを務め自らも「GOLDEN MEMBER」とされているロックバンド「B-DASH」のジャケットやPVを、本作とほぼ同時に手掛け始めている。それらの仕事に感じられる軽快さとポップさとは、本作の空気と通底しているように思える。
 本作にせよ「B-DASH」の仕事にせよ、描かれた画面から感じられるのは、違う現実を見せられているという感覚だ。デジカメで撮影した実写を背景として、鏡面処理されたような皮膚をもつキャラクターが配置された画は、白昼夢のようでもあり、しかし奇妙な現実感を伴っている。この空気があったればこそ、悪い夢のような残酷さで明晰な思考を覆ったような本作が成立したと云えるのかもしれない。
 ――ちなみに冒頭のボタンは、自分なら押さないと思う。せめて何か1冊でも漫画を持っていけるのなら違うと思うのだが…。いや、それでも無理かな。

*書誌情報*
 本作単行本は絶版のため、古本やオークションに頼らざるを得ない(2018年7月現在、電子書籍化もされていない)。プレミアが付いているためかなり高価(7,000円程度。続編の『みんなのトニオちゃんRETURNS』はさらに高額)である。重版なり、電子書籍化なりされて然るべきと思うが、どうだろうか。

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第56夜 ほの暗い情念のドラマを超えて暁は到来する…『朝霧の巫女』

「柚子/朝霧の「約束」は覚えてるか?/俺はそれを果たすよ/それだけは確かだ/どんなことがあっても/それだけは必ず」 『朝霧の巫女』宇河弘樹 作、少年画報社『ヤングキングアワーズ』掲載(2000年1月~2007年8月)  広島県内陸部に位置する地方都市、三次(みよし……

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第55夜 控え目な瞳が映す、国際都市の温もりと傷跡…『神戸在住』

「――神戸より。」 『神戸在住』木村紺 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(1998年9月~2006年3月)  辰木桂(たつき・かつら)は神戸の大学に通う美術科生。父の仕事の都合で東京から引っ越してきた、昔の洋楽と文庫本を愛する真面目で小柄な女の子だ。  大学の……

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第54夜 星空を仰ぐ何人にも、女神の誘いは降る…『星世界たんけん』

 2013/06/27  100夜100漫,

「星は何千万年何百億年っていう長ーい一生だけど/人間や犬、植物と同じ――/せいいっぱい生きて新しい生命のたねを飛ばして死んでいく――/それをくりかえす生命そのものはずっと続くのよ」「ずっと?」「そう/ずっと――」 『星世界たんけん』加賀谷穣 作・画、山岡均 監修、星……

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第53夜 やせ我慢上手な“恐るべき子供たち”…『こどものおもちゃ』

「…さあ…2人きりよ…私らも子供じゃないんだし…ケツ割って話そうじゃない? ん?」「…「腹」だろ/ケツはもうわれてんだよ」 『こどものおもちゃ』小花美穂 作、集英社『りぼん』掲載(1994年7月~1998年10月)  小学6年生の倉田紗南(くらた・さな)は青木賞作……

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第52夜 誰も彼も汗にまみれて一生懸命にバカだった…『柔道部物語』

「「「俺ってストロングだぜぇ~!」」」 『柔道部物語』小林まこと 作、講談社『週刊ヤングマガジン』掲載(1985年9月~1991年7月)  地元の岬商業高校に入学した寿司屋の息子、三五十五(さんご・じゅうご)は、中学では吹奏楽部でサックスを吹き、成績はトップクラス……

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第51夜 ふたりでいるって、割と素晴らしいこと…『くらしのいずみ』

「俺らももう長いし/そろそろする? 結婚」 『くらしのいずみ』谷川史子 作、少年画報者『YOUNGKING アワーズ増刊アワーズプラス』『YOUNGKINGアワーズ』掲載(2006年4月~2008年1月)  世の中には色々な夫婦がいる。友達のような夫婦、文科系優男……

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第50夜 王への道を征く破天荒元王子の大騒動…『余の名はズシオ』

 2013/06/23  100夜100漫,

「愚民愚民愚民愚民愚民愚民愚民がァアア!!/もっと余を頼れ! 無様にひれ伏せ! 余が怖がっているだと!!!?/余の辞書に撤退の文字わない!!/……/化け物っ! 貴様を倒す者の名をよく憶えておけ!!/余の名はズシオ」「ファイヤー!」「散ったァ!!」 『余の名はズシオ』……

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第49夜 愛のため正義のため、少年達は神々に挑む…『聖闘士星矢』

「いくぞ!!/地上の愛と正義のために!!/命と魂のすべてをそそぎ込んで!!/今こそ燃えろ黄金の小宇宙よ!!/この暗黒の世界に…/一条の光明を!!」 『聖闘士星矢』車田正美 作、集英社『週刊少年ジャンプ』→『Vジャンプ』(完結編のみ)掲載(1985年12月~1990年……

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第48夜 バブル期を映し、同時に諭す両義性…『おぼっちゃまくん』

「これで時価3億でしゅ!/ぽっくんは小さいころから誘拐にそなえて、からだじゅうに貴金属を身につけてるのでしゅ!/歩く身代金と呼ばれとるとぶぁい!」 『おぼっちゃまくん』小林よしのり 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1986年4月~1994年8月)  田園調……

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