「きみのいってることは/バカバカしさの中にも/きらりと光るものがあるが/やっぱり大バカモノと呼ばせていただきたいっ」 『こいつら100%伝説』岡田あーみん 作、集英社『りぼん』掲載(1989年4月~1992年8月) 時は戦国、世は地獄。忍術の達人である先生は、そ……
「 100夜100漫 」 一覧
第97夜 不埒な欲望全開で悪霊退治…『GS美神 極楽大作戦!!』
「美神さんっ!!/ぼかあっ…ぼかあもうっ!!」「いーかげんにしなさいっ!!」
『GS美神 極楽大作戦!!』椎名高志 作、小学館『週刊少年サンデー』掲載(1991年4月~1999年9月)
悪霊を除霊し、霊的被害を未然に食い止める国家資格ゴーストスィーパー。そんな彼らの一員、美神令子(みかみ・れいこ)は、ボディコンスーツに包んだその美貌と実力、そしてお金への執着で有名な女性スィーパーだ。アルバイトでアシスタントをしている高校生、横島忠夫(よこしま・ただお)は、時給250円という超薄給ながら、美神の色香につられて足しげく事務所に通っている。
金銭欲と色欲のおもむくままに生きる2人には、依頼人はおろか悪霊まで大困惑。唯一のブレーキ役で元人柱の幽霊、おキヌちゃんも、毎度2人の勢いに押されっぱなしだ。そんな彼らやゴーストスィーパー仲間の仕事と日常をドタバタコメディ時々シリアスに描く物語…だったが、いつしか人間界と冥界全体を巻き込んだ事件が巻き起こされ、彼らはその渦中に身を投じていく。
欲望≒希望
タイトルからするとバブリーでセレブな活躍をする美神が主人公ということになりそうだが、実質的には、妄想の塊で極貧生活に耐えるアルバイト助手、横島とのダブル主人公と捉えてよいだろう。悪霊とのバトル中だろうが構わず巻き起こる、美神の守銭奴っぷり、横島の煩悩まみれっぷり、それに加えて美人揃いの上に曲者揃いの他のゴーストスィーパー達によるドタバタが本作最大の魅力だろう。
そんなシーンでセクハラ的なモーションをかましては痛い目にあう横島がよく見せる笑い泣きの表情は、まさに青年の煩悩と悲哀を体現していて悲しいやら可笑しいやらで、複雑な笑いが込み上げてくる。高橋留美子調の擬音表現が、そんなコミカルな空気を更に高めていると云えるだろう。
幾度ものピンチに、それでもそれぞれの現世的な欲望を捨てない彼らをみるにつけ、欲望と希望はニアイコールなのだと切に感じる。『ハーメルンのバイオリン弾き』(第75夜)にも通じる、こんなにも生への尽きない意志に溢れた人間たちが相手では、並の悪霊や悪魔では敵わないのも当然なのだ。
死を想う
それでも、幽霊=死者を扱うゆえの厳粛さを、本作は隠し持っている。生前、人身御供として山に捧げられたという幽霊少女おキヌのエピソードを始めとして、軽妙なドタバタコメディの向こう側に隠された、人間のひたむきさが描かれるシーンは数多い。普段はがめつい美神も、下半身の欲求に正直な横島も、追い詰められた最後の最後で見せる姿は誇り高い。もっとも、すぐに元通りになってしまうけれど(作者はとっても照れ屋さんとみた)。極めてひねくれた形ではあるが、やはり本作は人間讃歌と云わなければならないだろう。
特に横島には心が震わされる。何だかんだいっても、美神はプロのゴーストスィーパーで、悪霊や悪魔との闘いにおける心構えも覚悟もできている(そうした職業倫理的な部分も見所ではある)。一方で一介の高校生にすぎない横島には何もない。
そんな彼が、いささか動機不純ながらゴーストスィーパーのアシスタントをこなし、少しずつでも成長していく姿は、『ダイの大冒険』(第90夜)の魔法使いポップと同じように読者を励ますだろう。ドタバタギャグアクション、人間賛歌といった側面だけでなく、そうした意味でもお勧めできる作品だ。
*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.8 x 11.4cm)、全39巻。電子書籍化済み(紙媒体は絶版)。
☆ワイド版…B6判(17.8 x 12.8cm)、全20巻。絶版。
☆コンビニ版…B6判(18 x 12.8cm)、全14巻。絶版。
☆文庫版…文庫判(15.4 x 10.6cm)、全23巻。各巻に作者による各人物へのコメント、「寄稿エッセイ&イラストレーション」あり。
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第89夜 少しの不安は、田舎の夜空に溶けてゆけ…『きんぎんすなご』
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