100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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「 100夜100漫 」 一覧

第107夜 その惨状だけは、忘れずに憶えていよう…『はだしのゲン』

「ぼくは/おとうちゃんがいうた麦のように/なりたいと思っています」


はだしのゲン 第1巻 青麦ゲン登場の巻

はだしのゲン中沢啓治 作、集英社『週刊少年ジャンプ』→市民誌『市民』→日本共産党中央委員会『文化評論』→日本教職員組合機関紙『教育評論』掲載(1973年5月~1985年)

 1945年、広島市。戦況は悪化の一途を辿っていたが、人々がそれを知ることはなく、民間人の間でも軍国主義が支配的だった。中岡(なかおか)家は、両親、4男1女の7人家族。下駄の絵付け職人をしている父親の大吉(だいきち)は反戦思想の持ち主で、そのために一家は町内会長の鮫島(さめじま)に睨まれ、買い物先や学校でも嫌がらせを受けることとなった。
 父の影響を受け、筋の通らないことは許せない三男の元(げん)は、そんな嫌がらせに弟の進次と共に仕返しを仕掛けては騒動を大きくすることもしばしば。それでも元の本心に触れた人が手を差し伸べてくれることもあり、長兄の海軍志願や次兄の疎開などもありつつ、どうにか一家は広島で暮らしていた–その時までは。
 8月6日、午前8時15分。広島の町に原子爆弾が投下され、夥しい民間人が死傷、酸鼻を極める光景が現出された。元は肉親を喪い、それでも生き残った家族と懸命に廃墟の中を生きる。飢餓、“ピカの毒”を忌避する非人情な人々の仕打ち、そして原爆症による身体の異常。襲い来る幾多の苦難に、それでも明るさを失わずに立ち向かうのだった。
 終戦を迎え、広島の町は急速に復興したが、物資の欠乏と原爆症の苦しみは終わらない。元は仲間とともに金稼ぎに邁進しつつ、戦災孤児を使い捨てようとする悪党や、被爆者たちを原爆症の研究対象としてしか見ないアメリカなど、おかしいと感じるものに、手当たり次第に立ち向かっていく。

(さらに…)

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第106夜 湯を介し、癒しで繋がる彼方と此方…『テルマエ・ロマエ』

「浴場の中で心安らげるかどうかは/共に浸っている人間にかかる部分が大きい…/湯に対して全身全霊を捧げる平たい顔族は/一緒に風呂に入るのに最高の人種ではないか!?」 『テルマエ・ロマエ』ヤマザキマリ 作、エンターブレイン『月刊コミックビーム』掲載(2008年1月~20……

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第105夜 開かれた瞳に映る世界は、本質か、かりそめか…『魔女』

「あなたにも きっとみえるはずよ。/わたし達は皆……/“彼女たち”の眷族なのだから。/あなた自身のからだで/世界を確かめていきなさい。」 『魔女』五十嵐大介 作、小学館『月刊IKKI』掲載(2003年4月~2004年11月)   彼女たちはどこにでもいる。文明と歴……

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第104夜 ただ白球を追うだけで笑えた日々…『高校球児ザワさん』

「おい守口ィ!! 何でアイツは練習後なのにビミョーにイイ匂いすんだよ、ああ゛!?」「いっ…いでででで。知らねッスよ自分は……!」 『高校球児ザワさん』三島衛里子 作、小学館『ビッグコミックスピリッツ増刊号Casual』→『ビッグコミックスピリッツ』掲載(2008年5……

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第103夜 一つ屋根の下、可笑しく切なく青春は往く…『めぞん一刻』

「生きていれば――/いろんな欠点も見えてくるだろう。/でも 死人は無敵だ。/彼女の中で理想像が増殖していく。」 『めぞん一刻』高橋留美子 作、小学館『ビッグコミックスピリッツ』掲載(1980年10月~ 1987年4月)  東京郊外の時計坂に建つ一刻館は、風呂なし、……

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第102夜 脱力オチが、疲れた心にじわりと効く…『しょんぼり温泉』

「また来てねー」 『しょんぼり温泉』小田扉 作、集英社『ジャンプスクエア』掲載(2009年11月~2012年1月)  諸堀(もろほり)温泉は、かつてはドラマのロケ地になったものの、特に目玉となる観光スポットもなく、ガイドマップは20年前に作られたきりという寂れた温……

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第101夜 恋と友情は、廻る星座とともに…『星の瞳のシルエット』

「気がつくと/まわりはみんな/そわそわ わくわく/あの人がすき この人がすき/毎日ドキドキきらめいて 14歳――――そうね/憧れ とか/恋 とか/片思い………とか/そんなことばが/いつのまにか もう/似合うときになったんだな」 『星の瞳のシルエット』柊あおい 作、集……

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第100夜 手を携え共に歩もう…『3×3EYES(サザンアイズ)』

「ヤクモ!! …大丈夫ナノ?」「へへっ/行こう香港!!/必ず君を人間にしてあげるよ」 『3×3EYES(サザンアイズ)』高田裕三 作、講談社『『ヤングマガジン増刊海賊版』→『ヤングマガジン』掲載(1987年12月~2002年9月)  東京新宿。親の都合で一人暮らし……

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第99夜 破滅に挑む、人の悲しみと儚さか…『百億の昼と千億の夜』

 2013/08/11  100夜100漫, , , ,

「神と戦うのか」「おお そうとも/わたしは相手がなに者であろうと戦ってやる/この わたしの住む世界を滅ぼそうとする者があるのなら/それが神であろうと戦ってやる!」 『百億の昼と千億の夜』光瀬龍 原作、萩尾望都 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(1977年7月……

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第98夜 モノの言葉を知るための魔法…『まじかる☆タルるートくん』

「そうか/タルが魔法をかけなくても…/グローブにも魂があって/火にも心があって…/風や水や土………/みんな生きているって…/生きて…」 『まじかる☆タルるートくん』江川達也 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1988年8月~1992年9月)  江戸城本丸(えどじ……

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