第96夜 戦国系変態ギャグに仄見える純情…『こいつら100%伝説』
2018/07/16
「きみのいってることは/バカバカしさの中にも/きらりと光るものがあるが/やっぱり大バカモノと呼ばせていただきたいっ」
『こいつら100%伝説』岡田あーみん 作、集英社『りぼん』掲載(1989年4月~1992年8月)
時は戦国、世は地獄。忍術の達人である先生は、その腕を見込まれてさる国のお姫様をお守りすることとなる。色めき立ったのは、弟子である修行中忍者の3人。気障でオーバーアクション、自意識過剰気味の危脳丸(あぶのうまる)。クールで無表情、何を仕出かすか分からない危険人物、極丸(きわまる)。気の優しい常識人、でもどこかおかしい時もある満丸(まんまる)。
お姫様を護るため、行く先々で密かに活躍する3人…のはずなのだが、欲望に正直な上に張り切りすぎるあまり、いつも少女漫画とは思えないカオスな結末を迎えてしまう。いつのまにか未来からの刺客、ターミネーターも弟子入りし、4人揃って先生とお姫様を振り回しまくる。こいつらの日常は混迷を極めるのだった。。
『りぼん』でドリフ系?
前作『お父さんは心配性』と同様、作者一流の“変態ギャグ”を全面に押し出した作品である。自分は本作の方を先に読んだのだが、よくぞ『りぼん』でこの高出力な作風が受け入れられたものだと、初読時には驚愕した。
ギャグとはいえ、驚きのあまり心臓が飛び出たり、止血のために脾臓を取り出したりするスプラッタな(?)シーンもあるし、家が爆発したり雪山で発狂したり、あまつさえ作者も乱入と、恐ろしいまでの壊れっぷりだ。古い例えで恐縮だが、最後はたいがい『8時だョ!全員集合』のコントのように全員が酷い目に遭う「ダメだこりゃ」パターンか、激怒した先生が3人を追い掛け回す「志村、このやろ~!」パターンかで、いずれにせよ舞台全体が大騒ぎになることが多い(実際、『全員集合』を模したオチの回もあった)。3人の師匠である「先生」が、さながらいかりや長介の役どころと云えようか。
それでも少女漫画
とはいえ、やはり『りぼん』なのだ。忍者の弟子3人(のちターミネーターを加えて4人)が奔走する(大抵は暴走になるが)切っ掛けとしてあるのは、やはりお姫様への恋情であり、意外と好いた好かれたというエピソードも多い。
もしかしたら、作者が第一に描きたかったのは、こうした恋愛模様の物語なのかもしれない。いや、もしかしないでも、『おとうさんは心配症』から、後の 『ルナティック雑技団』に至るまで、面倒ごとの発端は常に恋愛だった。“変態ギャグ”を銘打たれても、その根っこの部分は、やはり少女漫画なのだ。この点、少女を描きながらも恋愛要素の希薄な『ちびまる子ちゃん』(本作の連載時期と重複している)と不思議な対照をなす。
“好き過ぎて物狂おしくなってしまう”ということにおいて、登場人物たちの心情と、作者が“少女漫画というジャンル”に対して持っていたであろう心情とは相似形と云えないだろうか。その純情こそが、本作を単なるキワモノギャグ漫画以上のレベルに押し上げていると思えてならない。
*書誌情報*
☆通常版……新書判(17.2 x 11.4cm)、全3巻。
☆文庫版…文庫判(15.4 x 10.5cm)、全2巻。