漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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第6夜 生者への冥い欲求と暗鬱の中で閃く生命の光刃…『武装錬金

「死んでもやっちゃいけないコトと、死んでもやらなきゃいけないコトがあるんだ!!」


武装錬金 1 (ジャンプ・コミックス)

『武装錬金』和月伸宏 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(2003年6月~2005年4月)

 高校2年の武藤(むとう)カズキは私立銀成(ぎんなり)学園の寄宿生。ある夜、怪物に襲われていた少女、津村斗貴子(つむら・ときこ)を救うために致命傷を負うが、翌朝なにごとも無かったかのように目覚める。
 しかし、彼は既に一度死に、錬金術の粋を結集して作られた“核鉄(かくがね)”を使って蘇生されていた。同時にそれは、“核鉄”により自己の本質を顕在化した特殊な武器“武装錬金”を駆り、斗貴子が戦っていた人喰いの怪物――ホムンクルスと過酷な戦いを繰り広げる“錬金の戦士”としての条件を満たすことを意味していた。
 「日常に還れ」と斗貴子は云う。しかしカズキは葛藤の末、戦いへと身を投じていく。自らの守るべき日常と、傷だらけで戦う、斗貴子という少女のために。

暗黒に彩られたボーイミーツガール
 少年が特別な力や任務をもった少女と出会い、少女を案内人としてその世界に身を投じていくという話は、恐らく数多の類型がある。源流は、藤子・F・不二雄の『T・Pぼん』あたりだろうか(特に調べていないので、適当である)。普通は胸躍る出会いだろうが、本作の出会いおよびその後の展開は、ギャグシーンがありつつも暗く打ち沈んでいると云わざるを得ない。これは、作者の前作『るろうに剣心』でもそう感じたのだが、明るい笑いのシーンがありつつも、この作者の本領は死が吹き荒ぶ荒野の象なのだろう。

生への執着と生きることの終着点
 錬金術の起源は諸説あると思うが、1つには永遠の命を得るため、という説がある。命を巡っての描写は本作でも主題として取り上げられていると思う。主人公のカズキは錬金術によって蘇るし、奇妙な敵役として終盤まで出番のあるパピヨンこと蝶野攻爵(ちょうの・こうしゃく)は生来の病弱さゆえに、錬金術による新たな命を渇望する。それは反対に云えば死を主題にしているということであり、そう考えると斗貴子を始め血生臭い過去を持つ登場人物は多い。その中で、学園シーンの人物達の明るさや、後半でカズキが採る選択が、暗いトーンになりがちな本作を救っている。闇に肉薄すればするほど、光輝く強さを発揮するということを描いた点において、本作は人間賛歌であると云えよう。
 ところで、余談かもしれないが、斗貴子の「エロスはほどほどにしときなさい」は、男の性を優しくたしなめる永遠の年上の女生徒の名台詞として、ネット上で永く拡散し続けるだろう。それは偏に、本作が多くの人に愛されたからだと思う。エロスはタナトス(死)と並んで、強力な概念であることを、作者は感覚的に理解していたのかもしれない。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.4 x 11.4cm)、全10巻。作者によるキャラクター制作秘話あり。電子書籍化済み。

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第5夜 1955年、広島。その記憶が枷だった…『夕凪の街 桜の国

「もうきょうかぎりあえぬとも/おもいではすてずに/きみとちかったなみきみち/ふたりきりで/さーかえろう」 『夕凪の街 桜の国』こうの史代 作、双葉社『WEEKLY漫画アクション』2003年9月、『漫画アクション』2004年7月  夕凪の街。  終戦から10年後の……

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第4夜 歌舞伎町に垣間見える虚無と、極限の暴力…『殺し屋1

「思う存分ブッかけてこい!/この歌舞伎町に!」 『殺し屋1』山本英夫 作、『週刊ヤングサンデー』掲載(1998年2月~2001年4月)  新宿歌舞伎町。この街には欲望が渦巻いている。  得体の知れない通称“ジジイ”が率いる3人は、組にも所属できない半端もの揃い。……

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第3夜 二次元ヲタクだって、青春するし恋もする…『げんしけん

「俺に足りないのは覚悟だ」 『げんしけん』木尾士目 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(2002年4月~2006年5月)  晴れて椎応(しいおう)大学に入学した新入生、笹原完士(ササハラ・カンジ)にはひそかな野望があった。それは高校時代にひた隠していたオタク趣味(……

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第2夜 日本古来の“妖怪もの”の正統…『ぬらりひょんの孫

「若頭のお役目たしかに承りました/今後――――いかなることがございましても/この盃決してお返し致しません」 『ぬらりひょんの孫』椎橋寛 作、集英社『週間少年ジャンプ』掲載(2008年3月~2012年6月)  中学1年生の奴良リクオは、妖怪の血が4分の1だけ流れてい……

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第1夜 地味目なあの野菜による不可思議オムニバス…『茄子

「「親の言葉となすびの花は千に一つの無駄もない」って知ってるか/ありゃ嘘だ/ボロボロムダ花が落ちる」 『茄子』黒田硫黄 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(2000年11月~2002年10月)  茄子。それだけを軸として、時空を超えて紡がれる茄子ストーリーのオムニ……

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黄昏時(100夜100漫の趣旨)

 2013/05/05  基本情報

 幼い頃、漫画はそんなに読まなかった。読んでいたのは小学館の学習雑誌と、高学年になってからの『コロコロコミック』くらい。中学生になって、それまでの遅れを取り戻すかのように、ジャンルも問わずに大量の漫画を読んだ。文字による物語と、多くの情報をもたらす絵の混交は、自分の興味を否応なく……

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黄昏時(筆者について)

 2013/05/03  基本情報

 簡単にプロフィールでも載せておきます。 ○HN  100夜100漫(ひゃくや・ひゃくまん)。サイト名にしてHNということで。 ○略歴  『キャッツアイ』が再放送されている頃に物心がつく。小学生の頃は主に児童文学を読む優等生だったが、中学生になって『新世紀エヴァン……

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