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【一会】『七つの大罪 36』……苦境の中で輝くのは、いつだってそれだ

      2019/08/10

七つの大罪(36) (講談社コミックス)

 人間と、そのトップレベルの戦士である聖騎士たち、彼らを含む全てを滅ぼさんとする魔神族、それを阻止して権勢を維持したい女神族。この3勢力を中心に、キャメロットとアーサー王の伝説の前日譚を思わせる物語が紡がれる、鈴木央氏のイングリッシュファンタジー『七つの大罪』。4月に36巻が出ましたので、例のごとく、概要や感想などいってみようと思います。

 前巻終盤で無事に再会を果たし、「生命の泉」の力が消えて(恐らくは)普通の人として生きていくこととなった、〈七つの大罪〉「強欲の罪(フォックス・シン)」のバンと、森の聖女エレイン。「少しだけ待っててくれ♫」と言い残し戦場に去って行くバンのシーンから、今巻は始まります。

すべては戦いのさなかへ

 自らの贖罪を対象者の転生後に託す術“転生の誘い”で、命を落としたデリエリと黒犬オスローの葬送としたマエル。彼を気遣う「色欲の罪(ゴート・シン)」ゴウセルと王女エリザベス、妖精王としての変貌を果たした「怠惰の罪(グリズリー・シン)」キングと、それに惚ける「嫉妬の罪(サーペント・シン)」ディアンヌの一幕を挟み、場面は熾烈な戦いのただ中へと移ります。

 キャメロットでは、いつも余裕を絶やさない「暴食の罪(ボア・シン)」マーリンをして、「勝機は消えた」と言わしめた「原初の魔神」と、「傲慢の罪(ライオン・シン)」エスカノールの激突が続きます。
 が、正午を過ぎて力が減衰しつつあるエスカノールは、原初の魔神に抗しきれず。真の力を発揮しつつある霊槍・シャスティフォルの遠隔操作でキングが加勢しますが、ダメージから回復したゼルドリスが応戦。事態は劣勢で推移します。

 一方、ヘンドリクセンとギルサンダーの聖騎士コンビは、この戦いを見守るばかり。彼らも常人に比べれば桁違いの実力を持っているはずですが、もはや参戦できるレベルではないことを理解しているのでしょう。
 ここでヘンドリクセンは、自らがやってきたことを精算する行動に出ます。物語当初は魔神族に操られ、〈四大天使〉リュドシエルが王女マーガレットの身体を借りて顕現してからは、その腰巾着的な振る舞いを見せていた彼ですが、最後の最後で責任を取ったと云えるでしょうか。

 そうこうしているうちにも戦いは続きます。シャスティフォルの遠隔操作で戦いながら、キングたちも戦いの場に急行しているわけですが、マエルから出た4つの戒禁、マーリンが隠匿していたメラスキュラの戒禁もまた、メリオダスの持つ他の戒禁に引き寄せられて集結しつつありました。
 魔神王の力の欠片である戒禁がメリオダスに集結するということは、すなわち新たな魔神王の誕生を意味します。これを阻止しなければ、世界に明日は来ないでしょう。

最悪の状況

 とはいえ、これを妨げる方法なんてあるのでしょうか。絶望感が立ち込める中、まだ諦めない者がありました。マーリンです。
 この稀代の大魔術師が切った切り札の名は、禁呪“時の棺(クロノ・コフィン)”。対象の時間経過そのものを停止させる術と思われます。これでメリオダスが入っている「繭」の時間を止め、戒禁との合流を妨げようということでしょう。
 時間を操作する能力は、色々な作品で最強格のものとして描かれていますが、その発動条件が難しい場合も多いです。ここでもマーリンは長大な詠唱をしおおせなければなりません。
 キングとエスカノールが時間を稼ごうとしますが、原初の魔神とゼルドリスを止めるには力不足です。

 その劣勢具合に、リュドシエルは諦念を抱きます。〈十戒〉エスタロッサが、自らの弟である〈四大天使〉マエルだったことにショックを受けて以来、色々あって、〈四大天使〉最強の実力者であろう彼は自信を失ってしまったようです。
 しかし、そんなリュドシエルを、ヘンドリクセンは「今も尊敬している」と云います。ドルイドの出身である彼は、教義として〈女神族〉を崇拝する立場にあるわけですが、それを超えて、個人対個人として、リュドシエルを好ましく思っているようです(わざわざ「そちらの気はない」と断っていますけど)。
 実際、登場した頃の彼は鼻持ちならない奴という印象でした。が、その必死さの理由や弟への愛情などを見せられると、読者としても「ざまあみろ」とは思い難いですね。
 ともあれ、ヘンドリクセンの言葉はリュドシエルを再起させるに足るものだったということかと思います。

 「原初の魔神」はとうとうエスカノールを追い詰め、フィニッシュブロウを叩き込みます。立ち直ったリュドシエルが、代わってマーリンの術式完成までの時間稼ぎに加わってくれますが、劣勢は動かし難いでしょう。
 やせっぽちの姿となって彼方へと吹き飛ばされた、エスカノールを受け止めたのは誰あろう、エリザベス、ホーク、キング、ディアンヌ、ゴウセルたちと戦場へと急ぐマエルでした。エスカノールである魔力「太陽」の、元々の持ち主だったマエルは、かつて〈十戒〉の一員エスタロッサとして戦い、破れた経緯があります。
 そんなマエルに対し、もはや戦う力を持ち得ないエスカノールは、「太陽」を返した上で「仲間を助けて欲しい」と懇願します。助力はするが「太陽」を返される資格がない、と渋るマエルにエスカノールが放った言葉は、素の状態の彼としては最大限“傲慢”なものだったでしょう。口ではそう云いながらも目から伝い流れるものが、マエルの卑屈さを濯ぎます。
 リュドシエルにせよマエルにせよ、ヘンドリクセンやエスカノールのやや変化球な態度に鼓舞された形ですが、土壇場で人の心を動かす言動というのは、そういう事務的なものを超えた個人としてのものが多いのではないかと思います。ピンチはピンチですが、こういう関係性が生まれるのなら、まだ勝機は消えていないと云うべきでしょう。

“時の棺”発動

 原初の魔神の魔力「終局(クライシス)」に苦しむリュドシエルでしたが、キングたちと共に到着したマエル――恩寵“太陽”を引っさげた――が力で加勢、ゼルドリスをも圧倒します。
 常に似合わず焦るゼルドリスですが、彼の脳裡には恋人であった吸血鬼の王族ゲルダのことがありました。メリオダスが魔神王になれば、彼女との再会が果たされる。それが彼の原動力だったということです。
 しかし、彼にとっての絶望であり、人間たちにとっての希望である、マーリンの禁呪“時の棺”はついに発動しました。
 安堵する一同、再会する女神族の兄弟、聖騎士に感謝を述べる王女といった穏やかなシーンが続きます。
 しかし、いち早く聖戦の終わりを告げた当のホークが、いち早く異変に気付きました。“時の棺”の発動はタッチの差で間に合わなかったのか、それとも発動はすれど無効化されてしまったのか。いずれにせよ、魔神王が顕現したことは厳然たる事実として、一同に襲いかかることとなったのです。

2つのタイマン、そして

 姿を現した魔神王の容姿は、大人になったメリオダスという感じ。ですが、エリザベスはそれが別人であることを見抜いていました。結局はメリオダスもゼルドリスも、息子たち自身が次代の魔神王になることなど想定されていなかったのです。
 この“魔王は我ただ1人”な展開、『ハーメルンのバイオリン弾き』(100夜100漫第75夜)などでも見られましたが、魔王という存在の異様さ・傲岸さをよく表すものだと思います。

 恐ろしい提案をさらりと口にする魔神王に対し、すでに誰もが満身創痍ながら〈七つの大罪〉は立ち向かい、マエルも肉弾戦を仕掛けます。が、戦力の差は歴然。全員の魔力が全快なら分かりませんが、ともかく今、これをひっくり返せる人物が居ない致命的状況です。
 しかし、1人だけ、この状況を打破できる煉獄帰りの男がいました。冒頭からしばらく登場していなかったバンが、ようやく戦いの場に現れたのです。
 もはや不死身ではないバンですが、徒手空拳で魔神王と互角以上に渡り合い、信じがたいタフネスを示します。メリオダスと共に過ごした煉獄ぐらしは、無駄ではなかったようですね。
 バンが魔神王を押しているのには、もう1つ理由がありました。それは、魔神王の意識の中で行われている、魔神王とメリオダスの戦いです。この戦いと現実世界での戦いを並行しているために、魔神王の動きは精彩を欠いていると云えるでしょう。
 苦戦する魔神王は、外の様子が分からないメリオダスに精神的な揺さぶりをかけてきます。陳腐な手ですが、あれだけ色々あったメリオダスには効果があったようです。
 連動して現実世界でもバンが押され始めますが、魔神王の意識の中――精神世界といえばゴウセルの出番です。彼の機転により、〈七つの大罪〉とエリザベスは魔神王の意識下へ。ここが最後の戦いの場になるのか――というところで今巻の本編はおしまいです。
 エレインと聖騎士ジェリコによる、それぞれの兄を話題とした短編「番外編/妹よ」でクールダウンし、物語は次巻へと続きます。
次なる37巻は今月17日、つまり本日刊行(今日は忙しくて、まだ未入手なのですが^^;)。そろそろクライマックスかなと思いつつ、読み進みたいと思います。

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