【一会】『七つの大罪 34』……散りゆく戦士たちと交代劇の真相
2019/03/30
人間、妖精族、巨人族、そして女神族と魔神族。幾つもの種族による長い戦いと、それらを越えた幾つもの恋仲が描き出すイングリッシュファンタジー『七つの大罪』34巻(昨年11月刊行)を読みました。その内容とコメントを綴りたいと思います。
四戒禁の異形
33巻にて、魔神族の精強集団〈十戒〉の一角、「慈愛」のエスタロッサが、実は女神族の精鋭〈四大天使〉の一員、死んだとされたマエルだったという驚愕の事実が明らかとなりました。29巻での自分の「エスタロッサってラスボスになりそう」という予想(→当該記事)は恐らく外れそうですが、衝撃的な経緯を持った人物ではあったようです。
さて、マエルはエスタロッサとしてやってきた自分の所業に屈辱を感じ、この一大ペテンを仕掛けた張本人(…が作って魔力を込めた人形)であるゴウセルに怒りをぶつけます。ゴウセルを助けるため、マエルを止めるため、キング・サリエル・タルミエルのがゴウセルに加勢しますが、激昂し、〈十戒〉として取り込んだ3つの「戒禁」に固執するマエルの優位は動かし難そう。
一計を案じたのは、〈十戒〉でありながら、今は心変わりしつつある「純潔」のデリエリでした。彼女の考えをゴウセルが魔力で各人に共有し、その場の5人でマエルに連携攻撃を仕掛けます。が、刹那の気の迷いによって連携は崩壊。逆にデリエリの「純潔」の戒禁を、マエルに取り込まれる結果を招きます。
ずっと前からデリエリの心に寄り添おうとしていたモンスピートの想いに気付きながらも、デリエリの戦いはここまでのようです。この時点では彼女の生死は不明。彼女の中で憂苦は克服されたようですが、叶うならもう少し彼女の物語を追いたいようにも思います。
さて、デリエリに続き、力を使い果たしたサリエル、攻撃を受けたタルミエルも相次いで戦いから退場。キングも倒れ、残るはマエルが辿った経緯を自分の責任だと云うゴウセルのみです。そこへキングの黒妖犬オスローの力を使って駆けつけたのはディアンヌでした。
〈七つの大罪〉の一角「嫉妬の罪(サーペント・シン)」であるこの巨人の少女の活躍で態勢を立て直したキングたちですが、その眼前に、4つの戒禁を手中に収め、光も闇も通用しない姿となったマエルが降り立ちます。サリエルが云い遺した言葉によれば、今のマエルに立ち向かえるのは妖精か巨人か人間のみ。キングとディアンヌはその条件に合致してはいますが、いまや20万オーバーとなったマエルの闘級からは、苦戦の予感しか嗅ぎ取れません。
果たして、マエルの力は強大そのもの。「慈愛」の攻撃は致命打への危機感を鈍らせ、キング・ディアンヌ・ゴウセルによる三位一体攻撃(トリニティ・アタック)の幻惑作用は「真実」、ディアンヌとキングの魔力には「沈黙」、最終手段に出たゴウセルには「純潔」と、宿した戒禁を駆使した戦いぶりに、勝機は見いだせません。
覚醒の羽、交代の真相
一同を庇ったオスローが斃れ、ディアンヌの神器ギデオンの特性による防御は功を奏したものの、攻撃の凄まじさに天空演舞場は崩壊。もはや打つ手なしかと、キングは無力感に絶望しかけますが、そんな彼にも譲れないものがありました。今はもう亡い友のため、ディアンヌへの誓いを今度こそ守るため。妖精王ハーレクインとしての力に目覚めたキングは、再びマエルとの死闘に身を投じます。
自らの神器・霊槍シャスティフォルの真価を引き出し、自由自在に扱う妖精王キングはマエルを圧倒します。さらに、マエルの放った“純潔の香”による、かつての恋人ナージャの姿をした枷を逆に喜ぶことで破ったゴウセルが戦いに復帰。精魂尽きて消滅せんとするマエルを救うために、その意識の中へと侵入していきます。
マエルの心象世界を訪れたゴウセルは、マエルに生きるように説得します。が、「生き恥をさらしたくない」というマエルの意志は固く、さらに彼の意識に巣くった4つの戒禁が邪魔をします。
かつてゴウセル(いまマエルと対峙している彼ではなく、オリジナルの方)は、女神族と魔神族の戦力を拮抗させるため、女神族の実力者だったマエルを魔神族エスタロッサへと変容させました。なぜ、エリザベスでも兄リュドシエルでもなく、自分が選ばれたのか。その問いにゴウセルが示した答えは、マエルにとって衝撃であるとともに、それまでの自分を省みるのに充分なものだったようです。
〈四大天使〉である彼は、〈七つの大罪〉や人間と馴れ合うものではないでしょう。が、ひとまず当座は、敵対する必要もなくなったのでは、と思います。
惜別の煉獄
一方、煉獄では現世への通路を通ろうとするメリオダス(の感情)、バン、ホークの兄だという煉獄生物ワイルドと、それを阻もうとする魔神王の戦いが続いていました。と云っても、魔神王が圧倒的に優勢で、煉獄時間で60年は戦い続けてただの一度もメリオダスたちの勝利はなかった模様。思わず弱気になるメリオダスをバンが励ましつつ、勝機を探りますが、魔力「支配者」を有する魔神王に勝つのは容易ではありません。
「奪う」魔力専門だったバンが、いつしか「与える」魔力を習得したり、メリオダスには真の「魔力」が存在することが匂わされたりしますが、そうこうするうち、メリオダスには閃くものがあった様子。
そして挑んだ6千幾度目かの戦い。メリオダスの読みは的中し、さらに現世への扉も見つかって、今度こそ煉獄脱出の期待が高まります。
戦いのさなか、魔神王が云ったことを要約すると“メリオダス(の感情)は「破壊者」であるが故に煉獄に置いておく”ということになります。その真意も気になるところではありますが、ここで何より自分の心を震わせたのは、自分の限界を超えてメリオダスたちを援護したワイルドでした。お笑いっぽいキャラクターではあるものの、彼の弟を思う心と、しばし行動を共にしたメリオダス達への友情には熱いものを感じます。願わくば、彼が弟と再会できる時が来ることを、と思います。
辛くも現世への扉をくぐったメリオダスとバン。そして、その身を散らしながら「達者でな!!!」と彼らを見送ったワイルドに万感胸に迫りつつ、本編は以下次巻。
巻末に描かれたホークとエスカノールの「決闘」に微苦笑しつつ、次なる35巻へと読み進めます。