【一会】『七つの大罪 30』……神・魔・人の三陣営
2019/01/27
昨年は劇場版アニメ化も果たした、「アーサー王伝説」に連なる剣戟と魔力のイングランド・ファンタジー『七つの大罪』。既に35巻がこの17日に刊行済みですが、未読だった昨年2月刊行の30巻から、ぐいっと追いかけていきたいと思います。
ちなみに、30巻の限定版付録は「ミニ画集」。雑誌や関連本掲載時のカラーをそのまま収録し、鈴木先生による一口解説も付された1冊です。今から入手しようとすると中古を探さざるを得ないと思いますが、一読の価値はあると思われます。
メリオダスの離脱
さて、本編に参りましょう。前巻後半で〈七つの大罪〉一行に襲い掛かってきたのは、魔神族としてのメリオダスの師にして世話役でもある、〈おしゃぶりの鬼〉チャンドラー。これを足止めするために立ちはだかったのは、元〈十戒〉にして、そのまた元は妖精王と巨人王だったグロキシニアとドロールの2人ですが、それからどうなることでしょうか。
端的に云ってしまえば、2人はチャンドラーに歯が立ちませんでした。ただ一行を逃がす時間稼ぎには成功しましたし、キングとディアンヌに後を託せたために心残りはなさそう。生死は不明ですが、少なくとも再び戦いに参加することは無理かと思われます。
辛くも逃げおおせた〈七つの大罪〉一行ではあるものの、メリオダスとゴウセルは意識不明、ディアンヌは小さいまま、マーリンは魔力を封じられているなど満身創痍です。しかも魔神族としてのメリオダスが発する瘴気に、仲間達の体力が削られていっている様子。かんばしくない状況に対応を急ぐ面々ですが、追っ手はそう甘くありませんでした。
一足飛びに追いついてきたチャンドラーに、応じたのは目覚めたメリオダス。あろうことか彼は、〈七つの大罪〉の解散を宣言。エリザベスを連れ、チャンドラーと共に夜空へと消えました。彼の目的は「魔神王になる」こと。本末転倒な気がしますが、それしかエリザベスを救う方法はない、ということのようです。
マーリンによれば、今のメリオダスは煉獄の魔神王に感情を奪われているために正気ではない、とのこと。途方に暮れる一同ですが、意外なところにその煉獄への入り口がありました。煉獄に直接赴き、魔神王からメリオダスの感情を取り戻すことが検討されますが、煉獄は生身の生物にとって生半可ではない処のようです。
そこで名乗りを挙げたのは、不死の肉体を持つ〈フォックス・シン〉のバン。魂まで侵食してくる煉獄で、身体だけが不死身の彼は通用するのか、微妙なところではありますが、今のところ他に手立てもありません。しぶしぶマーリンも承知し、バンは単身で煉獄へと消えていきました。
天啓の王女
一方、リオネス王女でエリザベスの姉であるマーガレット、元2大聖騎士長ドレファス、ヘンドリクセンの3人は、旅の空の下にありました。魔女ビビアンに幽閉された、マーガレットの想い人でもある聖騎士ギルサンダーの捜索行のようです。実力者2人がお供なのでマーガレットの安全は確保されていますが、かつて操られていたドレファスとヘンドリクセンとの関係はちょっと複雑なところかも。
そんな3人をいざなう者がありました。3000年前の世界でも陰謀を巡らせていた女神族、その〈四大天使〉の一角リュドシエルです。
この大天使はマーガレットに取引を持ちかけ、見返りとして彼女の肉体を借りて地上に顕現します。リュドシエル率いる〈光の聖痕(スティグマ)〉の面々により、とりあえず人間側は助かったというべきかもしれませんが、この新勢力の介入は、果たして本当に良いことなのでしょうか。その点ドレファスは懐疑的ですが、ヘンドリクセンは手放しに受け入れている様子なのも気になります。
魔神の兄弟
ところ変わって、魔神族ゼルドリスと、エスカノールにやられた(23巻)ダメージから回復したエスタロッサのもとを訪れる者がありました。他ならぬメリオダスです。
多少の実力行使もありましたが、ここに魔神王の子息3人による会談がなされることに。ちなみに、長兄がメリオダス、次兄がエスタロッサ、末っ子がゼルドリスということになるようですね。
魔神王に対抗するため、メリオダスが持ち出したのは〈十戒〉に分配された力のことでした。戒禁の力をすべて自分が手に入れれば、魔神王と同等の力を得られる、とか。
擦った揉んだの後、しぶしぶと、あるいは何やら思惑を抱きつつ、弟2人はメリオダスに従い、〈十戒〉の戒禁を回収してくることを承知します。ちなみに、ゴウセル・グロキシニア・ドロールの力は既にゼルドリスが入手しており、グレイロードはマーリンが倒した時にメリオダスが回収済み。エスタロッサとゼルドリスの力は最後にもらうとして(やすやすとくれるとは思えませんけど)、残り4つ、ガラン・メラスキュラ・デリエリ・モンスピートの戒禁を集める必要があるということになります。
ゼルドリスの師で護衛役でもあるキューザックと、チャンドラーが独自の考えで動く一方、エリザベスとメリオダスはここで改めて言葉を交わすことに。今巻の表紙の印象とは反対に、その会話は深刻です。既にエリザベスへの愛すら忘れたと語るメリオダスですが、彼女の呪いを解くという約束だけは守ると云います。
本末転倒ぎみなメリオダスに、エリザベスも覚悟を決め、〈七つの大罪〉と協力して、メリオダスが魔神王となるのを断固阻止する構えのよう。実際、魔神族としての力が全開なメリオダスを軽くはね飛ばす力があるようですし。構図としては、メリオダスたち魔神族、マーガレットを依代としたリュドシエルたち女神族、エリザベスと〈七つの大罪〉という、3つの陣営が成立しつつあるといった感じでしょうか。
いまだ態勢を立て直し得ない〈七つの大罪〉のもとへ現れたのは、メラスキュラの魔力を辿ってきたゼルドリス。対するは、その出自が明らかになりつつあるマーリンです。魔神王と最高神から加護を得つつも袂を分かった彼女はこれから、エリザベスとともに〈七つの大罪〉陣営の旗印となるのでしょうか。
マーリンの巧みな交渉により、ゼルドリスによる「敬神」の戒禁で操られていた人々は自由に。さらに、じりじりするゼルドリスに、まさかの一撃が加えられ――というところで今巻は幕。
幕間に挿入される番外編「祭壇の王」を読みつつ、既に入手済みの次なる31巻へと本編を追いかけます。