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【一会】『七つの大罪 33』……その男、マエル

      2019/03/04

七つの大罪(33) (講談社コミックス)

 ついに人間・女神族の同盟軍と魔神族の戦闘が始まった、騎士と魔力のイングランドファンタジー『七つの大罪』。前巻32巻では、魔神族〈十戒〉の一角、「慈愛」のエスタロッサの狂乱ぶりが描かれましたが、今巻33巻はどのように展開するでしょうか。

 そういえば今巻でも途中ページや巻末エッセイ漫画「フィクション88%」で大々的に紹介されていますが、昨夏、本作の劇場版アニメ「天空の囚われ人」が公開されました。
 結局自分は観られなかったなぁ…と慨嘆していましたが、そうこうするうちにDVD/LDがリリースされるとのこと。近く各配信サービスでも観られるんじゃないかと思います。

〈七〉〈四〉〈十〉混合チーム

 前巻末、エスタロッサは、執着するエリザベスを連れ去りました。降り立った場所で、狂気のままにエリザベスを追い詰めるエスタロッサですが、エリザベスは女神族の力で吹き飛ばします。
 人心地を得ると、彼女は思い出します。この場所は、かつて彼女が女神族として存在していた頃、メリオダスとの逢瀬の場所だった天空演舞場の跡地。エスタロッサもまた、憶えがある場所のようです。
 同刻、掃討部隊の陣中では、さらわれたエリザベスを追おうと現状〈七つの大罪〉で唯一空を飛べるキング、〈四大天使〉サリエルとタルミエルの3人が出発しようとしていました。そこに追随を申し出たのは、〈十戒〉の「純血」の戒禁を持つ者だったデリエリです。

 かつてインデュラ化したデリエリとモンスピートは、エリザベスによって助命されています。その経緯があってか、ここは対エスタロッサに力を貸してくれる模様。もちろん部隊の面々は信用できませんが、キングの言葉もあり、ここに〈七つの大罪〉〈四大天使〉〈十戒〉の構成員による急造連携チームが成立、エリザベスを追って飛び立ちます。
 エスタロッサは語ります。兄メリオダスは、弟とエリザベスの仲を取り持つと云いながら、自分が彼女と恋仲になった、と。そのことに怒り昂ぶるエスタロッサですが、エリザベスの記憶とは食い違っている様子です。当のメリオダスはといえば、魔神族のアジトとなったキャメロット城で、戒禁を取り込む眠りの真っ只中。彼の証言は、しばらく得られそうにありません。

煉獄ぐらし

 ところで、今のメリオダスからは“感情”が失われています。彼の父である魔神王が煉獄に封印してしまったからですが、その“感情”を連れ戻そうと、単身で煉獄に身を投じた男がいました。〈七つの大罪〉「強欲の罪(フォックス・シン)」の不死者バンです。
 「煉獄」というのは元はカトリックの用語で、“現世と天国の間に多くの人が経験するとされる清めの苦しみ”を指すようですが、どことなく恐ろしげな字面ではあります。そのためか、種々の物語では地獄に類する場所として描写されることも多い気がします。
 バンが飛び込んでいったこの漫画の煉獄も、やはり激烈に過酷な環境のようです。凍傷と熱傷が同時に肉体を襲い、空気は猛毒で、時間の流れすら現世とは全く異なるこの場所では、普通の人間なら確かに1分ともたないでしょう。バンにしても肉体が不死身というだけで、精神や魂が不変というわけでもありません。変わり果てた姿の彼を辛うじて持ちこたえさせたのは、愛しい人との思い出か、探し求める友の面影でしょうか。
 生身での生存が不可能な場所での探索というと、自分は『3×3EYES』(100夜100漫第100夜…当該記事)で无(ウー)である藤井八雲がナラカ(奈落)を捜索した時のことを思い出します。常識的な判断が基準にならない世界での旅は過酷ですが、読む方としては興味深いところです。
 たまたま遭遇した龍と何十年も戦ったりもしたバンですが、どうにか探し求めたメリオダスの“感情”を見つけ出すことに成功。飄々としているメリオダスも、バンに会えたことは心から嬉しかったに違いありません。
 1人が2人になれば心強さは幾十倍。ではあるものの、この煉獄から出る方法も分からず、状況としては好転してはいないのかも。それに何より、2人とも全裸ですし。
 現世の衣服は、煉獄では役に立たないので仕方ないといえば仕方ないですが、やはり身に付けるものくらいはどうにかしたいですね。
 そんな煉獄でも生きていられる化け物がいる、ということで、2人はその化け物を素材にして色々と作り出そうとします。これはまた何というかモンハン的な展開ですね(実はやったことないですが^^;)。当然、煉獄の化け物は強靱・屈強ではありますが、生身のバンにとってはまたとない修行の場ともなったようです。
 ほどなく、2人は煉獄産のグルメを堪能し、煉獄ファッションに身を包むことに。ファッションもいいですが、食いしん坊な自分は煉獄グルメが気になります。見た目こそ、あまり食欲をそそるものではありませんが、それは現実だってホヤとかピータンとか、初見では引く美食がありますし。『ダンジョン飯』などと同様、いつか次元の壁を超えて食べに行ける日が来ることを祈っておきます。
 魔神王の手元にこそ、煉獄からの出口はあるのではないか。そんなバンの推察により、2人は魔神王を探します。が、そんな彼らに切っ先を突き付ける者がありました。魔神王の居場所を知ると語る、その者の名はワイルド――あの残飯処理騎士団団長である豚さんホークの、兄だと云います。

在るべき姿は

 豚というより猪なワイルドですが、泣き声などはホーク(彼が云うところの生き別れの弟マイルド)そっくり。ワイルドの家に招かれた2人は、煉獄的なお茶とお茶請けを味わいつつ、話をします。
 話を総合すると、魔神王が長命で丈夫な煉獄生物ホークを捕らえ、メリオダスの監視役として現世に送り込んだ、ということのよう。ただ経緯はどうあれ、今となってはホークは〈七つの大罪〉のムードメーカーに違いありませんけど。

鈴木先生と編集の座談会も収録。
3割ほど焼酎と食物の話ですが。。

 ワイルドに請われてホークの話をするうち、メリオダスにも弟がいることが話題となります。ゼルドリスに対しては、メリオダスは心底すまないと思っているようです。
 メリオダスのせいでゼルドリスが背負うこととなった苦悩については、今巻に先だって出た『七つの大罪 番外編集 〈原罪〉』に収録されている「エジンバラの吸血鬼」で少し触れられています。同作はDVDの限定版特典として描かれたもので、それ以外の収録作も全て再録ですが、一読の価値はあるかと思います。

 ゼルドリスに対しては万感あるメリオダス。しかし、もう1人の弟エスタロッサのこととなると様子が違います。
 そして、エスタロッサのことを何も思い出せないのは彼だけではなかったり。彼らの父・魔神王もまた、エスタロッサに関する記憶がありませんでした。ワイルドやバンと戦いながら、魔神王自身がそう語ります。
 「支配者(ザ・ルーラー)」なる、恐らく強力無比な魔力を有する魔神王ですら騙し果せる存在なんて居るのか? と思いきや、そういうのが専門な人が居ました。〈七つの大罪〉「色欲の罪(ゴート・シン)」ことゴウセルです。正確に云えば、彼は補助であり、主体となったのはオリジナルの方のゴウセルのようですが。

 ともあれ、かつてゴウセルの仕掛けた禁呪――1人の男と、男を知る全ての者の認識をねじ曲げる――の効果は絶大だったと云うべきでしょう。それが今、エリザベスに、メリオダスと魔神王に、〈四大天使〉に、そして〈十戒〉に芽生えた違和感とともに、本来の在り方に還ろうとしていました。
 天空演舞場にキング達が辿り着き、変わり果てたエスタロッサに攻撃を加え始めるのと、ゴウセルの禁呪の効果が無効となるのは、ほぼ同時でした。
 死んだとされる最強の〈四大天使〉マエル。彼が姿を表したのです。

 覚醒したマエルは、自らが行なってきた所業に打ちひしがれ、その原因であるゴウセルを責め立てます。女神族と魔神族との戦力的な均衡を作るためだった、というゴウセルの説明は、いちおう理に適っているように自分は思いましたが、マエルは鎮まりません。デンゼルの肉体を用いて顕現したネロバスタや〈四大天使〉のリーダー格・リュドシエルにも感じましたが、どうも女神族って、自分本位な性格な者が多い気がします。
 ゴウセルの危機にキングが介入し応戦しますが、分は悪そう。しかし、〈四大天使〉サリエルが「同胞として救う」とタルミエルを説得(この2人は女神族の中では割と共感できますね)、キングに加勢してくれます。

 戦いはマエル対キング・ゴウセル・サリエル・タルミエルの1対4へ――というところで、物語は幕。昨年11月に刊行され、既に確保済みの34巻へと読み進めていきます。

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