100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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【一会】『東のくるめと隣のめぐる 1』……装いではなく素の君で

      2018/07/21

東のくるめと隣のめぐる(1) (角川コミックス・エース)

 通っている高校で隣の席の“どクール才媛”塚原めぐる(つかはら・――)がちょっと気になってる永耕助(えい・こうすけ)。この先もずっと想いは秘めて、ただの“隣の席の人”だと思っていたけれど、家の引っ越しで彼女の隣家に住むことになって――という、ある意味ラブコメのテンプレ的な導入から始まる我孫子祐『東のくるめと隣のめぐる』の1巻が発刊されました。

 自分はこの漫画の舞台となっている東久留米(こんな名前ですが九州ではなく東京都です)に奇縁があるので、駅前とか、市内を流れる川の様子とか、小高い丘の公園とかは明らかに見覚えがあります。初めてこの辺りを訪れる時には作中の耕助のように「なんだよ東久留米って」と思ったりもしたものですが、朝は鳥がさえずり、“武蔵野”が色濃く残る林やら川沿いやらがあって、夜は4等星くらいまで見える星空と、池袋から電車で30分ほどとは思えない、およそ東京都っぽくない自然が残る佇まいは中々にお勧めです。二次元界隈では『めぞん一刻』(100夜100漫第103夜)や劇場アニメ『河童のクゥと夏休み』など、何気に舞台として取り上げられているのも、この自然の賜物でしょうか。

 東久留米についてはここまでにしておいて、内容について。
 上で記した通り、憧れの塚原さんの隣家に住むことになった耕助の喜びや、にもかかわらずイマイチ近づき切れないもどかしさが、とぼけた感じで描かれていて味わい深いです。そこにはヒロイン塚原さんの、ちょっと浮世離れした空気が不可分なわけですが、そうでなくても思春期の女子の考えることは男子にとって難解であることは疑いようがなく、そういうのに一喜一憂する耕助君の様子に感情移入したり笑ったりと楽しめます。
 塚原さんに対する耕助の困惑の根底には、学校での彼女と隣人としての彼女のギャップという点もあるでしょう。思えば、この種の物語で、主人公とヒロインが学校という“装いの場”での関係性の中ではなく、隣人という地域の関係性の中で展開していくというのは珍しいようにも思います。
 主な舞台が地元なので、2人の周辺人物も、めぐるの妹くるりや、お向かいの家の小学生(?)柿本桜子(かきもと・さくらこ)、そして耕助の家のもう一方の隣人である戸川聖司(とがわ・せいじ)といったご近所の同世代たちがメインです。そういう人物たちと、それぞれの家だったり市民プールだったりという学校ではない“素の場”での、なんと云うか弛緩したやり取りにも、独特な雰囲気があるなと感じました。

 めぐるの過去を知る聖司や、その張本人も登場して続きが気になる幕切れですが、次巻は少なくとも半年後くらいかと。とはいえウェブ連載(コミックウォーカー)なので、続きはこちらで読むことができます。最新話をウェブで読みつつ、次巻を心待ちにしたいと思います。

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