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【一会】『ダンジョン飯 6』……諍いと死闘、そして更なる深層へ

      2018/07/21

ダンジョン飯 6巻 (ハルタコミックス)

 古き良きファンタジーRPG的な世界観のもと、地下迷宮で魔物を食べるという要素を中心に据えた冒険物語として始まり、次第にダンジョンという概念自体を再検討する意識が顕わとなってきた九井諒子氏の『ダンジョン飯』。少し間が空きましたが4月に刊行された6巻について書きたいと思います。

 ようやく救出したファリンと語り合う間もなく、再び彼女と離ればなれになったライオス一行。明らかに常軌を逸したファリンの様子は、マルシルの用いた古代魔術のためか、あるいはダンジョンそのものの経緯によるものか。その辺りはまだ判然としませんが、このままではファリンの再救出は覚束ないとライオスは判断しました。ようやく見つけた上り階段の手前で鋭気を養っていた一行に、かつての仲間シュロー・野心家カブルーの連合パーティーが行き会ったところから、今巻は始まります。

 以前からライオスのやり方に懐疑的だったカブルーですが、直接ライオスと話して少し静観することに決めた様子。シュローも別にライオス達とケンカ別れしたつもりでもないようで、再会は比較的和やかな雰囲気です。
 ファリンへの好意から、シュローは食べるものも食べずに進んできたらしく。そんな彼を気遣ったライオスの一言で、大所帯での食事の準備が進められます。その間ライオスは、これまでの経緯をシュロー・カブルーに聞かれるままに答えることに。炎龍(レッドドラゴン)を倒し、ファリンを蘇生させたまではよかったものの、その後“狂乱の魔術師”に襲われ、ファリンはさらにダンジョンの深部に連れ去られてしまいました。魔物食の話も交えつつライオスは語りますが、ファリンの蘇生にマルシルが古代魔術を用いたことは、軽々には口にできません。カブルーには外してもらって、旧知のシュローにだけ明かすことにしたようです。

 シュローの身内だという東洋風な出で立ちの女性たちの主導で出来上がった食事は、おにぎり・かわはぎのみりん干し・みそ汁・漬け物という「東のほうの飯」。読んでいる方としては、いままでのメニューよりむしろ慣れ親しんだ感じです。
 さて食べようとシュローの世話係筆頭っぽいマイヅルがシュローを呼びに行きます。が、そこでは修羅場が展開されていました。
 古代魔術(≒黒魔術)を用い、炎龍の血肉を媒介にしてのファリンの蘇生。チルチャックの反応からも薄々は分かっていたことですが、それは、この世界では相当に常識外れな“神をも怖れぬ”大罪だったようです。シュローは激昂し、ライオスは理解を求めます。同じ頃、当のファリンの姿は、正視を拒むような禍々しいものとなっていました。

 カブルーの仲裁もあって、シュローはどうにか激情をおさめます。が、彼の同行は得られそうもありません。
 一方、調理していた面々を女性の顔を持った妖鳥ハーピーの群れが襲ってきます。それほど厄介な敵ではないようですが、チルチャックとマルシルが古代魔術の件でゴソゴソやっているうち、シュロー配下のくノ一たちを一ひねりするような脅威が姿を現すことに。他ならぬ、いまや信じがたい姿に変貌したファリンでした。

 ショックを受けるライオスたちをよそに、ファリンは次々と居合わせた者たちを屠っていきます。刃も牙も通さず、タフネスが売りだろう金棒娘を壁にめり込ませ、以前マルシルたちを苦しめたウンディーネの攻撃すら意に介しません。戦慄すべきその強さに、ララ・ムームーとか神龍とかエスタークとか、かつて自分の分身たちが迷宮でまみえたラスボス超えの強敵たちが思い浮かびます。
 ライオスとカブルーの連携で手傷を負わせますが、結局はファリン自ら逃亡していき、一行はそれに救われた格好に。幸い3パーティーにそれぞれ術士がいますし、蘇生と回復をして立て直さなければなりません。

 しかし、あんな姿と化したファリンをどうするのか。どう救えるというのか。その原因と目されるマルシルは西のエルフに引き渡すべきだ。そう詰め寄るシュローに、どれほど本心からなのか、ライオスは狂乱の魔術師を倒すと答えます。
 どうも以前ライオスが語っていた程には、シュローは彼に親近感を持ってはいなかったようで、そのあと2人は昭和の男子高校生が夕焼けの河川敷でやっていたような肉体言語で対話することに。ともあれ、わだかまりが完全に消えたわけではありませんが、シュローはライオスたちを黙認することにしたようです。
 迷宮の主を倒すと云ったライオスにカブルーは危惧を覚えますが、当のライオスはあんまり深く考えていない様子。手に入ったハーピーの卵で卵焼きを作り、カブルーに振る舞います。色々飲み込んで笑顔を作るカブルーの根性も、大したものです。この人、5巻ではかなり悪そうに見えましたが、それほどでもないのかも。生い立ちも可哀相だったようですし。

 かくして、マイヅルの帰還の術でシュロー・カブルーのパーティーはダンジョンから離脱することに。ファリンのことをかなり本気で考えていた様子のシュローですが、母国に帰り、2度と戻って来ないと云います。
 もしもこんなことがなければ、ファリンを連れて帰りたかったんだろうな、と思います。しかし、仮にファリンが無事でも、彼の恋には色々と障害が多かっただろうな、とも。一応、ライオス達を案じて伏線になりそうなアイテムを残していったシュローの思いに、得も云われぬ寂しさが漂います。

 2つのパーティーが去り、残ったのはいつもの4人。彼らは地下6層へと降りていきます。この物語の冒頭、ファリンが炎龍に食べられ、パーティーが全滅しかけたフロアです。ライオスが「基本的に精神攻撃なんだよな」とぼやくこの階層で、一行は、ファンタジーRPGの“いぶし銀”とも云うべきシェイプシフター、夢魔という2種の魔物たちと対峙します。
 なぜか料理審査な展開となった対シェイプシフター戦、マルシルの夢の中で彼女の抱えていた恐怖と憂いの描写が恐ろしくも切実な対夢魔戦と、いずれも添えられた魔物料理も含めて興趣溢れるエピソードですが、ここでは本筋は伏せておきましょう。

 むしろここで特筆すべきはまず、6層に降りてすぐにライオスが行なった“狂乱の魔術師”に関する考察ではないかと思います。整理すると、件の魔術師は、1000年前の黄金の都の王・デルガルの配下で、エルフとしても相当な長命であり、王の死を知らぬまま営々とダンジョンを管理し続け、ライオス達を王の敵だと誤解している、ということになりそうです。
 誤解である以上、対話でそれを解くことができるかも、というライオスの意見にマルシルは頷きます。が、他の2人は疑わしい様子。自分もチルチャック・センシと同意見です。

 そしてもう1つの特記事項は、新たな仲間が1人加わったことでしょう。猫娘な忍者・イヅツミは、もともとシュローの配下だったようですが、呪術で強制的に従わせられていた模様。黒魔術で人と獣の魂を混ぜて作られた人工的な獣人だという彼女は、炎龍と人間の魂が混淆してしまったファリンが救えるのなら自分も救えるはず、と思ってライオス達に付いてきたようです。
 しかし、それが可能かどうか、ライオス達とてまだ方法を見出してはいません。意気消沈するイヅツミを、しかしライオスは励まして勧誘します。センシも新しい“教育”対象が見つかってやぶさかでないようですし、忍者といえばRPG的には最強クラスの職業。心強い同行者と云っていいでしょう。

 巻末の「モンスターよもやま話」でまったりして、今巻のお話はおしまいです。次なる7巻は今年の晩秋に刊行と予測されます。イヅツミに倣って自分も食器の持ち方を再確認しつつ、楽しみに待ちたいと思います。

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