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【一会】『ダンジョン飯 3』……水棲系食材の宝庫で思う、迷宮の環境学

      2018/07/21

ダンジョン飯 3巻<ダンジョン飯> (ビームコミックス(ハルタ))

 コンピューターRPGの古典『ウィザードリィ』(wikipedia)を思わせる「狂乱の魔術師」によるダンジョンを舞台に、生息しているモンスターを捕食するという『ダンジョンマスター』(wikipedia)っぽい要素を組み込み、モンスター料理を味わいながらの探索行を描く、九井諒子氏による独特な料理冒険ファンタジー『ダンジョン飯』。ここでは初めて言及する漫画ですが、先日3巻が発刊されたのを機に、書いていきたいと思います。

 初めて触れますので、まずは軽く、これまでのあらすじを書いておきましょう。
 ダンジョン深部で全滅しかけ、離脱の際に炎龍(レッドドラゴン)に妹の僧侶(系だと思われる)ファリンを飲み込まれてしまった剣士ライオス。消化されていなければファリンは蘇生できるはず、ということで、彼と、エルフの魔法使いマルシル、小柄な種族ハーフフットの鍵師チルチャックの3人は、ファリン奪還のために再び迷宮に挑むことになります。
 しかしお金がない。そのためライオスはダンジョン内のモンスター等を食べようと提案。ちょうど出会ったドワーフのセンシが魔物食を研究している求道者だったこともあり、もともとモンスターマニアだったライオスはノリノリで、マルシルはドン引き、チルチャックもちょっと引き気味に、ダンジョン内でモンスターを調理して味わいながら、彼らの迷宮探索が続きます。タイムリミットは、炎龍がファリンを消化してしまうであろう、1か月程度――。

 と、意外とシビアなバックグラウンドがあるライオスたちの旅ですが、まだそんなに焦りもなく、現在の到達階層は地下4階。全部で何階なのか明示されてはいませんが、彼らの余裕ぶりから最深部でも地下6階とか7階くらいなのでしょうか。
 地下4階は地下水と水没した城下町のフロアということで、水棲系のモンスターが多く、前巻では水棲馬(ケルピー)が登場していました。今巻では人魚やヒレが刃の魚などですね。
 一行は「亜人系には手を出さない(食料にしない)」という取り決めを(主にライオスの暴走を抑止するために)していますが、人魚に付随して「亜人て何だ」という哲学的な問いが提示されます。まぁ、ライオスが詭弁を弄しているだけの気もしますが、ファンタジー世界であっても「食べていい生き物か否か」というのは、個々人の感性によるところが大きいようです。ともあれライオスが作った「そのへんに落ちてた大麦の雑炊」、何も知らなければ美味しそうです…。
 他に地下4階では、大物のジャイアントクラーケンなんかもチームプレイで撃退しますが、それ自体はどうも食味が悪い様子。逆にクラーケンの体内のアレを蒲焼き&白焼きにしたものは美味そうです。さすがに生で食べるのは命知らずと言わざるを得ませんけれど。
 この「蒲焼き」と、その次の「木苺」というエピソードでは、ダンジョン内の生態系が如何に構築されているかという話が出てきます。ダンジョンとは、ある意味では閉鎖された生態系を指す言葉なのかもしれません。そうした、いわば“ダンジョン環境学”とでも云うような要素が以降も語られるとしたら、自分としては楽しみです。
 その辺は置いておくとしても、学生時代のマルシルとファリンとの出会いのエピソードが描かれる「木苺」は、割と近視眼的に(ライオス達からの視点で、ダンジョンの成り立ちなどには無関心に)描かれてきたこの漫画の中で、世界観の大きさを感じさせられる話でもあり、今後の展開に備えて覚えておきたいところでしょう。

 そろそろ更に下の階層に降りたいところですが、まだ地下4階での物語が続きます。というのも、ふとしたことから水の精霊ウンディーネによってマルシルが深手を負わされてしまったためです。
 ファリン不在のいま、彼らのギルド(“チーム”とか“一行”の意。「パーティー」という呼称もありますが、この漫画ではこちらを使うようです)で回復魔法を使えるのは彼女だけです。その彼女が負傷し、魔力も切れたとあっては、冒険の継続は絶望的と云わざるを得ないでしょう。前巻から持ち歩いていたケルピーの肉で焼肉をして、多少は回復したようですが、まだ完全回復とはいきません。

 困ったところに通りかかったのは、以前の仲間で、今度の冒険を無謀と考えて離脱した女戦士系のナマリ。種族はドワーフでしょうか? 現在はノームの学者タンス夫婦や軽装で弓使いっぽい双子のカカ・キキと冒険しているようです。
 ファリンを救いに行くのを断ったナマリではありますが、それほど薄情にも見えません。自分の命が一番大切というのが、冒険者として偽らざるところなのでしょう。蘇生術を使えるからといってナマリを楯扱いするタンス氏とは、あまり相性が良くないような気もしますが、どうでしょうか。
 この蘇生術ですが、人の魂を肉体に束縛する術が張られているこのダンジョン内でしか効果がないようです。これをタンス氏は「呪い」と形容し、センシも「特に好きになれない」魔術だと云います。
 皮肉にも、蘇生術があるからこそ、ファリンを助けられる可能性があるわけですが、先述の“ダンジョン環境学”云々と考え合わせますと、「狂乱の魔術師」が何を考えて蘇生術を有効としたのか、という点が気になりもします。

 タンス氏にマルシルを治療して貰う代わりに、ライオスとセンシは彼らの魔方陣調査を手伝うことに。テンタクルスなる触手モンスターに苦しめられますが、藤子・F・不二雄先生の漫画のように目を「3」にしつつも仕事を終えます。
 懸案だった怒れるウンディーネも、まさかの手法で美味しく頂いた(!)ことでマルシルの魔力も少し回復し、辛くも冒険継続の算段が立ちました。一同で鍋を囲んだためか、何となく和やかな雰囲気になり、それぞれのわだかまりも少しは和らいだ様子。2巻のオーク達もそうでしたが、やはり一緒に食事というのは大事ですね。

 ナマリたちと別れ、ライオス達はテンタクルスが生い茂る地下5階への階段を降りていきます。途中、テンタクルスに加え、大ガエルに命を狙われますが、チルチャックの機転、ライオスの機転(?)、センシの機転(?)で特に大きなダメージもなく、栄養まで補給しつつ切り抜けることに成功、一行は地下5階に足を踏み入れます。
 地下5階は、かつて栄華を誇った黄金の王国の城下町が広がるフロアです。ちょっと服飾的に支障は出ていますが、とりあえず全員健在。ファリンが居るであろう深層を目指し、彼らの冒険は続きます。

 前巻から今巻まで、ちょうど1年かかっていますので、次の4巻が出るのも来年夏くらいになるでしょうか。それまで、読み返しつつ、クッ○パッドでファンタジーっぽいレシピがないか探したりもして、楽しみに待ちたいと思います。

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