100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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【一会】『せっかち伯爵と時間どろぼう 1』……変わらぬ安定感と、既にある不穏

      2018/07/20

せっかち伯爵と時間どろぼう(1) (少年マガジンコミックス)

 帯には「待望した!」と大書されている、『さよなら絶望先生』(100夜100漫第36夜)で知られた久米田康治先生の最新作『せっかち伯爵と時間どろぼう』の1巻を読みましたので、思うところを書きとめようと思います。
 先に作風の話をすると、「不労腐死」とか「9金以下の純度のものだけ買い取り」とか拷問とか臓物とか、言葉遊びから風刺的な内容でギャグを展開し、しかも若干黒いという、前作までのノリを踏襲している感じです。若干、下ネタの度合いが増しているように思えますが、最初期の『行け!!南国アイスホッケー部』ほど頻発はしません(それでも「汁九度ソレイユ」「三匹のかぶった」など、一発あたりの破壊力は変わらないかもしれません。苦手な方はご注意を)。

 そういうノリを、「せっかち伯爵」サンジェルマンと、その妹のミチル(後になっての名前だけど)、従者、「時間どろぼう」呼ばわりされるのんびり者の時只卓(ときただ・すぐる)、そのガールフレンド夕仏真心(ゆぶつ・まごころ)といった面々が繰り広げます。出版社的には「華麗なる“時計仕掛けの喜劇(クロックワーク・コメディ)”」という触れ込みですが、苦肉の策(巻末の作者の文章参照)で採用された二色刷りのシックな表紙からすると、そうとも云えるかもしれません。華麗かどうかは分かりませんが…。
 それにしても、サンジェルマンというと関東在住の自分としては、作中にもあった通りチェーンのパン屋さんしか思い浮かばなかったのですが、この漫画の元ネタであるサンジェルマン伯爵は実在の(というか歴史上に記録のある)人物とのこと。ヨーロッパを中心とした世界の“妖しい事ども”紹介の草分け的な文筆家、澁澤龍彦著書でも紹介されている怪人物のようです。
 このサンジェルマン伯爵の異常さというのは、隔たった時代において同じ外見で目撃されていることから不老不死かタイムトラベラーじゃないか、と推測されているところにあるのですが、そこをこの漫画においては、“時間軸上に点状に存在できるだけで、トータルの寿命は1年程度”という4次元種(=上人類)と位置づけて展開させています。サンタクロースなど、常人には実現不能なことをしているとされる人物も4次元種として解釈されていますが、はた迷惑な4次元種も今後どんどん登場してきそうな感じで、なんとなく『かってに改蔵』の天才塾生たちを彷彿とさせられます。
 そんなわけで、『絶望先生』までの延長として楽しめる今作ですが、ということは先の作品と同様、終盤には怒濤の展開が待っていると考えるのも不自然ではありません。実際、既に幾つか気になる要素は示されているように思えます。
 例えば物語の舞台は「久大津市風嵐区美浦(くおおつし・ふらんく・みうら)」と土地の名前が明示されています。当然、時計に使われる振動体+時計ブランドのフランク・ミュラーから命名されているはず(今調べたらフランク三浦なる謎の天才時計師も存在するようです)のこの地名ですが、例によって箱庭感が漂います。いちおう従者の手書き地図によると電車は通っているようですが、四方を海(あるいは大津市のように湖?)と断崖に囲まれていることが見て取れますし、金を採掘していたという大きな縦穴も意味深な描かれ方をしています。
 そしてサンジェルマンの帽子、軌道エレベーター、コテカといった、“長過ぎるもの”のモチーフも気になります。あるいはこの上へと向かう長さが、前述の縦穴となにがしかの呼応関係にあるのかもしれません。

 まぁとは云え、過度に考察するのも野暮というものかとも思います。表面的な時事ネタ・下ネタの安定感につい忘れてしまう“時間に対する姿勢”みたいなテーマを見失わず、次巻以降も楽しみたいところです。

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