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【一会】『せっかち伯爵と時間どろぼう 3』……他人の悪夢が残すのは

      2018/07/20

せっかち伯爵と時間どろぼう(3) (講談社コミックス)

 刊行からちょっと遅れましたが、『せっかち伯爵と時間どろぼう』の3巻について書いておきます。
 「“海賊王”に!!!! ならないからっ!!!」と帯にも大書されている『ワンピース』を皮切りに、○ィズニーに北朝○に放射能と、相変わらず“怖いものなど何もない”系風刺ネタ(下ネタ含む)が続いています。今巻で目についたネタを、ネタバレにならないようにメモしておきましょう。

 冒頭を飾るのが件の『ワンピース』ネタ。一部『パイレーツ・オブ・カリビアン』も交えつつ、『行け!!南国アイスホッケー部』的な下ネタを中心に続きます。よく出てくるなと感心しきり。
 下ネタはもはや全編に散りばめられていますが、「注文の多い温泉」っていうか「特殊な浴場」、「デンチヲイレテクダサイ」が秀逸でした。下ネタと勘違いの混合が、何だかむしろ小じゃれた感じに思えるから不思議です。これは落語の艶笑ものに近い感覚かなーと思ったり。
 そしていわゆる権力への反骨めいたネタも今回多めな気がします。『蟹工船』からの共○党ネタに某“夢と魔法の国”ネタ、オンカロなどの放射能ネタといった作者の作品ではある意味定番を仕込みつつ、テレビ業界や時事的な不正疑惑にも目配りしています。「今年の前半は特にそういうニュースが多かった」とはネットのそこここで見聞きする話ですが、そこで名前が挙がるあの元歌手グループの一員やあの作曲家(?)やあの研究者も、見事にネタにされています。具体的に挙げれば、例えば地下闘技場に高価な熊手を携えた剣党首が参戦したりという感じです。
 それと、風刺でも何でもないのですが。「なんというお労(いたわ)しい頭の短いお姿!」が何故だか印象に残りました。ちょっと古風な物言いでボケているところが新鮮なのでしょうか。

 ところで、今巻はこれまでとちょっと毛色が違うような感覚を受けます。というのも、前巻から話を引き継ぐ形で、9話中7話までが一連のエピソードとして描かれているためかと。これまで物語の導入以外はだいたい一話完結ものだったのに対し、物語としての大きな流れを描こう、という姿勢を感じます。
 「まるで他人の悪夢を見せられているような/支離滅裂な最近の展開」と作中でも云われているこの流れですが、作品の根底にある物語を暗示していそうでちょっと気になるところかと。「伯爵」とか「時間どろぼう」という言葉から、自分は『不思議の国のアリス』とか『モモ』といった風刺的&ファンタジックな児童文学を思い出したりしていますが、それも的外れではないかもしれないですね。「他人の悪夢」が読者に残すのは、最終的にどういうものなのでしょうか。

 そんな予感を感じさせつつ、今巻の終盤では新キャラの時空未亡人、黒奥様(クロックさま)ことクロックマダムが登場。「女は文字盤!/男は針!」という、上人類の交尾ならぬ交頭(こうず)を伯爵と共に披露して下さいます。この四次熟女は伯爵の家の隣にアパートを建てて、そこの管理人になるらしく。お約束通り(100夜100漫第103夜参照)ですね。
 何気に本編に比肩するネタの宝庫であるおまけ漫画「ジンクス再び!」と「エセエヌエス」(作者のあとがきのようなもの)も充実しつつ、「俺たちの戦いは始まったばかりだ」と締めくくられています。読者をにやりとさせる笑いと物語全体についての漠然とした予感を感じつつ、次巻を待つことに致しましょう。

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