100夜100漫

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【一会】『夜とコンクリート』……自然と人工物を並べる美しさ

      2018/07/20

夜とコンクリート

 標題作。不眠気味の建築士の、少し疲れてやがて眠れる一夜。
 「夏休みの町」。暇暇な大学生たちと、丘の上の戦闘機とお爺さん。からの、反転。
 「青いサイダー」。つんけんした母親に色々言われながらも、空想に遊ぶ僕少女。と、屋上のおじさん。
 「発泡酒」。その時の“本当さ”を信じたい思い。

 と、町田洋氏のこの短編集『夜とコンクリート』に出てくる短編たちをこんな風に要約しても、たぶんそれは正しくないでしょうね。綺麗なお話揃いですが、自分はそれ以上に画面とコマ割りに惹かれました。

 まず、空気が気持ちいい漫画です。高いところとか遠いところから眺めている、そんな感じ。表紙になっているのは恐らく表題作の建築士の部屋から見える風景なんでしょう。
 なにせ空のすかーんと広々した感じに自由さを感じます。芦奈野ひとし作品(100夜100漫第9夜第91夜)でもよく空とか高台とか遠浅の海とかが描かれますが、そこに通じる拡がりと静けさですね。特に表題作は「徹夜して、そのまま見た早朝の空は確かにこんな感じだったよな」と思い出させたりもしてくれます。
 そして、夜を表現する墨ベタがまた美しい。夜を真っ黒で表現すると画面が暗くなりそうなものですが、反面、白いところは思い切りよく白いのでバランスが取れています。色々なものを中間色(一色なので黒と白の間ですが)で処理する漫画に見慣れていると、このコントラストは鮮烈です。
 そうした空の下に、作者は必ず集合住宅を置きます(表題作だけじゃなく、どの作品にも共通です)。集合住宅とその周囲が、作者の原風景なのかもしれないですね。原風景と云うと自然的な景観を思い浮かべそうだけど、現代人の心の奥底に沈み混んだ“郷愁を誘う風景”って、自然ばかりよりは自然と人工物の混合なことが多いんじゃないでしょうか。新海誠監督のアニメ作品『ほしのこえ』で「夜中のコンビニの安心する感じ」という表現がありますが、まさにその感じです。そう考えて、表題「夜とコンクリート」の意味とは、きっと自然と人工物が並んでいるところに、現代人が感じる美しさとか、安心する気持ちをストレートに云ったものなんだと自分は想像しています。

 自然と人工物というロケーションの中で物語を紡ぐ、シンプルな線で描かれた人物は、わたせせいぞう氏とか故臼井義人氏とか、高野文子(100夜100漫第25夜)氏を思い起こさせます。そんな彼らのストーリーは、やはりとても静か。感情が現れない、というか、感情が動くところズバリではなく、その周囲(風景とか、音とか)を描くことで、浮き彫りにしようとしているような印象を受けました。
 作者が何をしてきたか、いま何をやっているのかは寡聞にして知らないのですが、かなり頑固な人なのではないだろうかと思います。というのは、頑固でなければ自分が抱える静けさなんて、外からの雑音に消されてしまうだろうから。
 外界に流されず、静けさを画稿に描き続けるのは想像以上に大変なことと想像します。願わくば、この自然と人工物による郷愁に彩られた、静けさのモチーフのまま、描き続けて欲しいな、と思います。

 - 一画一会, 随意散漫 , , ,

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