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第21夜 運命・意志・希望…『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風』
「大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている/向かおうとする意志さえあればたとえ犯人が逃げたとしてもいつかはたどり着くだろう? 向かっているわけだからな……………違うかい?」
『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風』荒木飛呂彦 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1995年11月~1999年3月)
西暦2001年、イタリア。かつての宿敵同士ジョナサン・ジョースターとDIOの血を同時に受け継ぐジョルノ・ジョバァーナは、ギャング団“パッショーネ”の構成員と小競り合いをしたことで、組織の幹部候補ブローノ・ブチャラティに狙われる。生命を生み出す自らのスタンド“ゴールド・エクスペリエンス”の力で彼を下したジョルノは、子どもにまで麻薬を流通させる“パッショーネ”のボスを倒し、組織を乗っ取るという“正義の夢”を語る。組織に同じ疑問を抱いていたブチャラティは共鳴し、ジョルノを自身のチームに引き入れる。
命令をこなし、“パッショーネ”の幹部となったブチャラティのもとにボス直々の命令が下る。ボスに反感をもつ暗殺部隊との抗争をスタンドの力を使って切り抜けながら、命令の完遂を目指すジョルノたち。ネアポリス、ポンペイ遺跡、ヴェネツィア、サルディニア、ローマ。イタリアを縦横に廻る、運命との戦いの旅が始まる。
「運命の眠れる奴隷」
近年はメディアに取り上げられることも多く、以前に増して間口を広げつつある『ジョジョ』だが、人間についての長大な物語ゆえ、ここでは部ごとに区切って扱うこととする。そして、最初に取り上げたいのがこの第5部である。ジョースター家の因縁をめぐる物語からは少し離れ、初めての読者にも分かりやすいし、それでいて特異な特殊能力“スタンド”を駆使しての闘いを楽しめる上に、作画・デザイン面での作者のオリジナリティが、イタリアという風土と相まって素晴らしい、というのが、いきなり第5部を扱うひとまずの理由だが、再読してみて極めてオーソドックスで同時に魅力的なテーマにも改めて共感した。
ギャング組織の内部の話であるため、主要な人物はほとんど皆ギャングであり、幸福な生い立ちをもつ者は皆無である。それでありながら、信頼によって障害を越え、信念をもって重大な決断をしていく姿には気高さが溢れ、読む者に熱い思いを抱かせる。劇中、「運命」という言葉は大きな意味を持って登場するが、その運命に対峙するのに相応しい人間的な態度を、彼らは体現している。人間は例え「運命」に対して抗えない「眠れる奴隷」であるとしても、研鑽により眠ることを止め、命が絶えても、意志が受け継がれることで後悔の無い生を生きることができるだろう。読後には、主人公の名前が示す(ジョルノ=日の光)ような真っ直ぐな気持ちになる作品である。
我侭な意志の不連続性と、進む意志の連続性
そんな彼らの最終的な敵とは何なのか。“極めてずるい能力を有するスタンド使い”であると述べよう。そのずるさを、もう少し具体的に云うと、自分に都合の悪いことは見て見ぬことができる能力だと云える。
プロセスを無視するこの能力の思想は、ジョルノ達が体現する「進む意志」の連続性とは相反する。そこには周囲を自分に合わさせる、王者の我侭めいた貫禄すら見えて、ジョルノ達がどうやって勝つことができるのか、初読時には自分も不安を覚えながら読んでいた。
しかし、結果だけを求めることは本当に強いのだろうか。効率化が推し進められた時に取り落とされるものはないのか。いきなり結果を出す不連続さと、連綿と継承され続ける意志の連続性とが激突した時、運命はどちらに味方するのか。第5部の結末は、それに対する1つの答えとも見做せるだろう。
表層の奇抜さが先行して云われがちだが、その精神性の偉大さも誇るべき大作だ。
*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.6 x 11.4cm)、全17巻[シリーズ中47~63巻]。カラー版電子書籍化済み。
☆文庫版…文庫判(15 x 10.6cm)、全10巻[シリーズ中30~39巻]。モノクロ電子書籍化済み。
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