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【一会】『進撃の巨人 25』……その信念の意味と価値

      2018/05/16

進撃の巨人(25) (講談社コミックス)

 巨人化する能力を有するエルディア人の一種族“ユミルの民”、彼らの力を軍事利用してきた軍事国家マーレ、その両方がそれぞれの思惑から殲滅を願うパラディ島の“壁”の中に逃れたエルディア人たち。当初の“人類VS巨人”という構図から大きくかけ離れた世界の実態が明らかとなりつつある『進撃の巨人』の、25巻が4月に刊行されました。前巻までに引き続き、語りたいと思います。

 ちなみに、24巻のときに書き忘れてしまいましたが、前巻と今巻の限定版付録はオリジナルアニメーションDVD「Wall Sina, Goodbye」(24巻に前半、今巻に後半が付いています)。スピンオフ作品『小説 進撃の巨人 LOST GIRLS』の1編を原作とした(元を辿ればアニメ版DVDの特典付録だったビジュアルノベルらしいです)、アニ・レオンハートの憲兵団時代のエピソードをハードボイルドタッチで描いた作品です。なお、26巻ではミカサのお話も同様の限定版付録DVDになるようです。

 さて、前巻終盤、地下室で衝撃の再会を果たした、ライナーとクルーガーと名乗っていた片足の男――エレン・イェーガー。狼狽するライナーと対照的に、エレンは落ち着いたものです。タイバー家当主・ヴィリーによる「舞台」の開演が迫る中、ファルコを同席させ、エレンが主導権を握るままに対話が始まります。
 同刻、地上では、ヴィリーが緊張の面持ちで本番を待っていました。これから彼は、パラディ島(エレンたち壁内人類)打倒に向けて壁外の人類を結束させるべく、「舞台」に立ちます。そんな彼に声をかけてきたのは東方からの来客、アズマビト家の女性・キヨミ。前巻で戦士候補生のウドを庇ってくれたのは彼女でしょう。ちょっと意味ありげな表情を残して客席に消えていきました。一方、客席では、ライナーの母、アニの父たちも集う中、エルディア戦士隊は「マガト隊長が呼んでいる」との言付けを聞かされます。

 ライナーたちの会話が殆ど始まらないうち、舞台に上がったヴィリーは口を開きます。彼の言葉に合わせて音楽やシルエットや役者が織り成す、これは確かに一種の演劇と云えるでしょう。そんな形式でヴィリーが語ったのは、およそ100年前からのエルディアの歴史でした。
 曰く、かつてエルディアは、巨人の力で世界を支配していた。
 曰く、やがてエルディア国内での同族闘争――「巨人大戦」が開始された。
 曰く、これを好機とみたマーレの英雄へーロスは、情報を操作し、また貴族タイバー家と組み、エルディアのフリッツ王をパラディ島に退かせた。
 曰く、パラディ島に逃れたフリッツ王の力はしかし、いまだ健在である。

 舞台はまだ続きますが、周囲には不穏さが漂い始めます。朗々たるヴィリーの言葉を地下室で聞くエレンにライナーは怯え、エルディア戦士隊の面々は、マーレ兵によって分断されてしまいます。
 それらを知ってか知らずか、舞台のヴィリーは“本題”に入ります。それは、先に説明したはずの、100年前からのエルディアとマーレの歴史の真相でした。
 「巨人大戦」を終わらせたのは、へーロスでもタイバー家でもなく、同族闘争に心を痛めたフリッツ王だった。その罪の重さによって、いずれマーレに滅ぼされるべきエルディアではあるが、その時まで束の間の安寧を、壁の中で過ごさせて欲しい、とフリッツ王は語ったといいます。
 そんなヴィリーの言葉を、観客たちは俄かには信じられません。さらにヴィリーは、フリッツ王の「不戦の契り」を淘汰し、「始祖の巨人」の力を手にしたパラディ島の反逆者の名を挙げました。反逆者の名は、エレン・イェーガー。
 思い切ったことを云うヴィリーも、それなりの覚悟をして舞台上に立っています。それは、エレンたちパラディ島勢力が浸透しているだろうこの場において単身で演説する覚悟であり、同時に代々の当主が敢えて語らなかったタイバー家の“不名誉”を告白する覚悟でもありました。自分と収容区のエルディア人がパラディ島の浸透勢力の「被害者」を引き受けることで、世界情勢を味方につける。そのための覚悟と云えるでしょう。
 エレン・イェーガーは「始祖の巨人」の能力により、幾千万もの超大型巨人が世界を平らにすべく文字通り「地鳴らし」するだろう。ヴィリーはその脅威を強調し、そうなる前に、世界が一丸となってパラディ島のエルディア人たちと戦うべきだと結論付けます。戸惑っていた観客たちも、自らの一族の恥部まで晒した彼の“誠実さ”に触れて同調していきます。

 ヴィリーたち外の世界のエルディア人にしてみれば、パラディ島を敵としておくのは得策と云えるでしょう。しかし、パラディ島のエレン達にとってみれば、あずかり知らぬところで世界を敵に回すことになるわけで、ことを把握しているならば、是非とも避けなければならない事態です。
 このときのエレンに、そうした考えがあったのでしょうか。パラディ島の壁内でのことを後悔し、エレンに懺悔するライナーを宥めるような口ぶりながら、彼が次にとった行動には驚かされました。
 「オレは進み続ける/敵を駆逐するまで」とは、物語の当初から彼が胸に抱いてきた意思です。自分たちが住む場所が広大な世界のほんの一角であり、それを脅かし続けてきた巨人という存在の向こうに壁外人類の思惑があることを知った時、彼のこの思いは達成された(あるは途絶した)もの、と自分は思っていました。しかし、パラディ島から巨人を一掃して4年たち、少年から大人といえるほどに成長した今となっても、彼はこの信念を持ち続けていました。
 それはまるで、かつて自分たちが生家と故郷を追われた日の再演だったと云えるでしょう。エレンの前には「戦槌の巨人」が顕れ交戦を開始する一方、人々は逃げ惑い、ガビたちもその例外ではありません。
 分断されていたピークらが復帰しますが、彼女たちが巨人化するより早く、「戦槌の巨人」に打撃を与える者がありました。レベリオ収容区の空に躍る複数の人影。それは、我々が見知った壁内の調査兵団たちです。
 相応に成長したミカサやジャン、コニーたちに再会できて読者的には嬉しい限りですが、気になることが2つあります。1つは、アルミンの姿が見えないこと。もう1つは、彼らにしてもエレンの行動は想定していなかったようであることです。実際、エレンが行なったのは悪魔の所業と云えるでしょう。それを否定する者、肯定する者、調査兵団の中でも評価は相半ばしているように思われます。
 しかし、エレンの行動を別にすれば、この襲撃は作戦に沿ったものの様子。レベリオ収容区を制圧し、「戦槌の巨人」を無力化できれば、この先に何があるのかを見極めることができると彼らは考えているようです。
 しかし、ことは簡単にはいきません。巨人化したピークやジークらが参戦し、生き延びようとする調査兵団と、彼らを殲滅せんとするマーレ軍の、全面的な戦闘が始まろうとしていました。

 というところで、巻末おまけ漫画「進撃のスクールカースト」も何だか波乱の予感が漂いつつ、今巻はおしまいです。次巻26巻は8月9日(木)刊行予定。彼らのこの戦いの先にあるものを、心して待ちたいと思います。

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