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【一会】『進撃の巨人 24』……あの時、君が思っていたのは

      2018/07/21

進撃の巨人(24) (講談社コミックス)

 巨人化する力を持つ“ユミルの民”を擁するエルディア人と、その力を軍事的に利用してきたマーレ、彼らが勢力を維持するために壊滅を狙うパラディ島壁内のエルディア人。そんな構図を成す“物語を規定していた「壁」の外側”から、これまでの戦いが再記述されている『進撃の巨人』。昨年12月刊行の24巻について書きたいと思います。

 前巻で戦いから帰還したエルディア人戦士隊のライナーやジーク、ガビたち戦士候補生ですが、短い休息を経て、早くも再度の召集が。彼らが本部に集まっていくところから物語は始まります。
 前巻では何も考えていなさそうに見えたガビですが、ライナーの従姉妹でもある彼女は、ライナーに対して思うところがある様子。相変わらず、彼女に対するファルコの気持ちは一方通行気味のようではありますが。
 本部に戻ったエルディア人戦士隊の面々は、珍しくマーレ人抜きの場で打ち合わせに臨みます。
 通常兵器の発展は巨人を凌駕しつつあり、巨人の戦力に依存しているマーレは相対的に弱体化していくことになる。このままいけば、エルディア人を敵視する各国は一気にその生存権を脅かすだろう。戦士長ジークはそう云います。
 彼が提示する解決策は、従来通りパラディ島の攻略による「始祖の巨人」奪還と資源確保。その前振りとして、パラディ島の脅威を強調して世界に印象付けることが必要と考えているようです。
 このパラディ島の脅威を説明する語り手を引き受けてくれる者として、ジークが挙げた一族の名は、タイバー家。「戦槌の巨人」の力を有し、100年前の巨人大戦では最初にフリッツ王に反旗を翻した貴族です。
 そのタイバー家が、各国要人や記者を招いた場でパラディ島制圧を宣言するという「祭事」を、レベリオ収容区で行うとのこと。その運営や警備が、エルディア人戦士隊が従事する次の作戦ということになるでしょう。マーレ人が居ない場で打ち合わせを行ったのは、戦士隊の中に思想的に問題がある者がいないかを確認するため。もっとも、その意図はエルディア人側にも筒抜けだったようですが。

 近い将来、再びパラディ島に赴く。その予測は、ライナーの回想を喚起します。
 当初4人で実行される予定だったウォール・マリア破壊は、アクシデントによりライナー・ベルトルド・アニの3人で行われることとなりました。そこにあった事情や感情については詳述を避けますが、突如としてエレンたちの平穏を破った超大型巨人の出現やウォール・マリアの破壊は、その実行者たちからすれば、ギリギリの判断を重ねた上に辛うじて成った戦果だったということは確かです。
 その後の訓練兵時代も、エレン達の悲壮な努力の背景には、ベクトルこそ違えど同じ程度に悲壮なライナー達の努力がありました。教官の「何をしにここ(訓練兵となる場)に来たか」という問いに対するライナーの「人類を救うためです」という答えは、今となっては全く別の意味を持っていたことが分かります。持続力のある「女型の巨人」の力を持ち、格闘にも秀でたアニは、単独で諜報活動をすることも多かったようで、とりわけその苦労が偲ばれます。
 あの当時、訓練兵として落ちこぼれ気味だったエレンにライナーが云った「お前ならやれる」という励ましは、どういう心境からだったのでしょうか。多分それは、彼自身にとっても完全には理解できないのではないかと思います。

 帯びた任務と壁の中で過ごした日々の不整合は、現在のライナー自身を引き裂こうとします。ここまでドラスティックな不整合ぶりは自分もさすがに経験がありませんが、周囲の言動に引き摺られたり、その時の感情で、思ってもないことを言ったりやったりした後の自己嫌悪には多少は覚えがないでもなかったり。ライナーを襲ったのは、その100倍くらいの嫌悪感だったのではないでしょうか。
 しかし、ライナーには監督・育成すべき後進たちがいます。その1人がファルコですが、この少年の目下の気がかりは、「鎧の巨人」を自分が継承できるのか…というより、よりはっきりと云えば、何よりガビのことのようです。
 彼がそれを吐露したのは、ふとしたことから面識のあった、片足の傷と一緒にトラウマを負って療養中だというエルディア人兵士の男でした。ファルコの悩みに真摯に答える男ですが、その目は異様な影を宿しているように見えます。その言葉も、ファルコへ向けたのと自問への自答と相半ばしている感じですし。

 一方、戦士隊本部には訪問者がありました。タイバー家当主・ヴィリーです。彼は隊長マガトに対し、実質上マーレを支配するタイバー家が、「闇夜に投げ出された」エルディアとマーレの責任を取るために行動を起こすと切り出します。
 パラディ島攻撃の計画が練られ、訓練でファルコがガビにやっと一勝したりする中(しかし、やっぱりファルコの気持ちは全くガビに伝わっていない模様^^;)、ヴィリー原案・演出、マガト主導による「祭事」の準備は進められていきます。
 「祭事」の場で、「世界にすべてを明かす」とヴィリーは云っていますが、それがどこまで本当なのか、まだ判断がつきません。「家の増築の件」という符丁でマガトと交わしている会話も気になります。多分、軍内部のエルディア人勢力のことを云っているのだと思いますが、どうなのでしょうか。
 そもそも、タイバー家は単純に良心からだけで、今回の役割を買って出たのでしょうか。そこからして自分は疑問符を付けたくなりますが、それは今後明らかになってくるのではと思います。

 ファルコと片足の男・クルーガー、クルーガーと診療医だという老人イェーガーのごく短い会話や前夜祭の様子を挟み、収容区の「祭事」は幕を開けます。食べまくる候補生たちと奢らされまくるライナーという暢気な場面もありますが、もちろんそれで終わりというわけもなく。“悪魔の末裔”エルディア人という問題に対して、「1つの解答」を導き出したというヴィリーによる「舞台」の時は近づいてきます。
 開演を間近に控えた時、ライナーはファルコに誘われ、不審に思いながらも地下室に降りていくことに。そこで待っていたのはあの片足の男・クルーガー――いや、ライナーも我々も、よく見知った人物でした。
 「よかったな/故郷に帰れて」。ライナーにそう語りかける彼の表情は、言葉とはかけ離れたものに自分には見えました。

 あれから彼はどういう経緯を辿ってきたのか。何のためにライナーの前に姿を現したのか。これから、どうするつもりなのか。
 諸々の疑問を残して、今巻は閉幕。物語は次巻へと続きます。4月刊行の25巻は既に入手済み。続けて読み進めたいと思います。

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