【一会】『進撃の巨人 23』……遠く離れた壁の内側で
2018/07/21
巨人から逃れ壁の中で生き延びた人類が、その存亡をかけて、壁外から襲い来る巨人と戦う。そんな当初の前提から、大きく変容した世界の構図が明るみに出た『進撃の巨人』。
既に今月25巻が刊行されていますが、プレイバック的な意味合いも含めて、過日の22巻に続き23巻から読んで書いて行こうと思います。
ちなみに、23巻の限定版付録は「リヴァイのスカーフ&エルヴィンのループタイ」です。ループタイの方は、前巻の叙勲式の場面で出て来た勲章を模しているっぽいですね。普段から着けられるかは微妙なところですが、隙あらば着用していきたいと思います。
さて、前巻までで、エレンたち壁内人類(ユミルの民と云われるエルディア人)と、彼らを敵視し、同じエルディア人を使役して壁内人類を脅かそうとする勢力(マーレ人)という構図が明らかになりました。この状況を受けて、壁内人類たちはどのような方針をとるのか……と思いつつ今巻の頁を繰ると、そこには見慣れぬ少年の姿が。
ファルコという名の、このエルディア人の少年は、どうやらマーレ軍の戦士候補生という立場にあるみたいです。既に22巻で語られたように「9つの巨人の力」を受け継いだ者の寿命は13年。そのため、巨人の力を受け継ぐ候補者は常に育成されているのでしょう。
そして、彼らが投入されている、このスラバ要塞攻防戦から窺い知るに、マーレには壁内人類以外にも敵対している相手がいるようです。ファルコたちが壊滅させようとしている中東連合艦隊という名前は現実にもあり得そうですが、現実の世界地図と同じ位置関係と仮定すると、やはりエルディアやマーレは西洋に属し、中東があって、ミカサの一族の出身地があると目される東方がある、ということになるでしょうか。
攻めあぐねる戦況を一転させたのは、ファルコと同じ候補生の少女ガビでした。天真爛漫かつ向上心あふれる彼女は、心の底からマーレ軍に尽くそうとしている様子。きわどいところでしたが、彼女の活躍によってマーレは攻略の取っ掛かりを得、巨人による空挺降下によって大勢を決することに成功します。
ガビたちを支援した「車力の巨人」や「顎の巨人」、あるいは人から姿を変えて続々と降下する「無垢の巨人」たち。多くは見慣れない者ですが、その中に見覚えの2人のある姿がありました。「獣の巨人」と「鎧の巨人」、人間としての名を云えばジークとライナーです。
衝撃的なのは、ジークはこれまでとあまり変わらない様子なのに対し、ライナーは明らかに年古りた容姿になっていること。この成年ライナーと、ガビたち戦士候補生が表紙に描かれた23巻の物語世界は、22巻の時点より随分と時が経った後のことだ、と考えるのが自然でしょう。
かくして巨人の力のおかげで、マーレはスラバ要塞の陥落に成功。4年続いたという中東連合との戦争に勝利を収めました。
が、この勝利は辛うじて達せられたものと云わざるを得ないようです。戦艦、徹甲弾、航空機といった兵器による戦力が、巨人のそれを上回る時が近づいている。ガビたちの隊長マガトの危惧は、恐らく正しいのでしょう。
状況を好転させるため、ジークは「始祖の巨人」入手を、マーレ上層部に進言します。それはつまり、パラディ島――壁内人類たちの島を占拠し、現在の力の保持者と思われるエレン・イェーガーを確保することを意味するのですが、ジークの言動は何か怪しいところもあって、まだ本心は見えません。
ともあれ、4体の巨人を有すると目されるパラディ島に対し、マーレが大攻勢をかけるのは、そう遠い未来の話ではないようです。ジークとマガトの会話からは、この3年(ジークたちの話から、22巻から今までの時間が4年程度であるらしいことが分かります)マーレは再三パラディ島に侵攻しながらも全て失敗していることや、ミカサやリヴァイたちアッカーマン一族が超人的な力を有する理由なども伺い知ることができます。
そのアッカーマン達に追い詰められる悪夢から目覚めたライナーは、仲間たちと束の間の休暇中の模様。ガリアード(「顎の巨人」)とピーク(「車力の巨人」)の2人が、同じく巨人の力を持つ同世代の仲間のようです。ガリアード(これは苗字で、ファーストネームはポルコ)の兄とライナーの間には因縁がありそうな感じですが、彼が「顎の巨人」を継承したということは、かつてその力を保有していたユミルは既にこの世には居ない、ということでしょう。
ライナーを手放しに慕っていたり、故郷レベリオに帰れると知って喜んだりと天真爛漫なガビ。彼女に限らず、戦士候補生たちはいずれもまだあどけなさを残しています。
しかし、その1人ファルコは、ガビが巨人の力を継承することに複雑な思いを抱いている様子。そんな彼の思いに対し、ライナーが云った言葉は実に意味深長です。考えをめぐらすファルコの気持ちに、ガビは全く気付いていないようですが。
レベリオはエルディア人の収容区ですが、ライナーやガビたちにとって生まれ育った故郷に違いありません。出迎えて喜ぶ家族たちは、口々に戦士たちにねぎらいの言葉をかけます。
久方ぶりの再会を祝してテーブルを囲んだ家族たちは、マーレへの複雑な恩義や、エルディア再興への希望も口にしますが、後者の実現のためにはパラディ島の壁内人類の殲滅が必要と考えている様子。マーレの教育(というか思想統制)は徹底しています。
そんな中、壁内に潜入していた時に行動を共にしたエレン達――ガビの言葉を借りれば「凶悪で残虐な悪魔達」――について語るライナーの語り口や表情は、複雑です。眉を顰めながら語ってはいるものの、その内容は、まるで愛すべき旧友たちを懐かしむかのような。
慌てて言い繕ったライナーは、1人になって幼少期を回想します。
彼がマーレの戦士を目指した根本には、その出生と、母への思いがありました。今からは考えられないほど凡才だった少年ライナーが、自分でも気付かぬうちにその目標を偽装した時、エレン達は平穏な日常を過ごしていました。
パラディ島とレベリオ収容区。いずれも壁の内側で、対称的な少年期を過ごした彼らは、やがて激しく相争うこととなりますが、当時はまだお互い知る由もありません。
といったところで、今巻はお開き。既に昨年12月に刊行済みの24巻へと続きます。既に入手済みなので、続けて読み進めて参ります。