【一会】『進撃の巨人 17』……女王の誕生がもたらすもの
2018/07/21
予告通り刊行された『進撃の巨人』17巻。今巻の内容としては、エレン救出とヒストリア(クリスタ)の戴冠、それによって変化する壁の内の政治と、巨人をめぐる新情報の予感、といったところでしょうか。
前巻ラストで泣きながら「ヨロイ」の瓶を飲み込んで巨人化したエレンですが、その“硬質化”の力で事態はどうにか鎮静、エレン自身も救出されることとなります。同じく巨人化し移動を続けるロッド・レイスを追いながら、一同はしばし作戦会議の様相です。
洞窟でロッドの話を聞いたエレンの話をハンジが整理するところによれば、以下のようになるようです。
1.エレンに宿っている巨人の力は「始祖の巨人」とでも云うべきもので、レイス家の者が持たないと真価を発揮することができない。
2.しかし、レイス家は「初代王の思想」に支配されており、そのままでは人類を巨人から解放することにはならない。
そこでエレンは、自らがロッドに食われることで彼を完全な「始祖の巨人」にし、人間の姿に戻ったところで「初代王の思想」の洗脳を解けば人類が助かる見込みがあると提案します。が、ヒストリアはリスクの大きさを指摘し、エレンは現状のまま、父が残した「地下室」に可能性を賭けることになります。
この辺り、自分はかなり難解に感じましたが、ともかく。目下の目標としては、巨人になったロッドを止め、ウォール・マリアの穴をふさいでエレンの家の「地下室」を目指すこととなります。
巨人となったロッドを止めるということは、ヒストリアの父を殺す、ということとほぼ同義です。しかしヒストリアはもう覚悟を決めていました。オルブド区外壁で、兵団は迎撃態勢に入ります。壁の内側の民衆には事態は伝えられず、奇しくも超大型巨人が進攻してきた「あの日」と同じ構図となりますが、辛くもこれを撃退した兵団は、壁の内側における政治的優位に立つことにもなっていきます。
一方、エレンやヒストリアと共に洞窟にいた「切り裂きケニー」ことケニー・アッカーマンの過去が語られます。それは、「巨人の力」と「世界の記憶」を引き継いだウーリ・レイスとの間に芽生えた不可思議な友情の経緯でもあり、同時に“妹”クシェルの忘れ形見リヴァイに、「身の振り方とナイフの振り方」等を教えたいきさつでもありました。
「みんな何かに酔っ払ってねぇと/やってらんなかったんだな…」。そんな言葉を吐きつつ、ロッドからくすねておいた巨人化の薬物をリヴァイに渡す彼に、夥しい人を殺してきた人物であるにもかかわらず自分の心は少し震えました。リヴァイがエレンたちに微かな笑みを見せたのも、彼の心にも何がしか響いたからだと思います。
かくして戴冠したヒストリア。今巻のハイライトといえば、やはりここでしょう。「どうだー私は女王様だぞー!?」とかリヴァイに言い放つ辺り、ぎこちなくも可愛かったりしますが、女王として民衆の前に出ている時の表情は怜悧そのもの。「牛飼いの女神様」と呼ばれたりして、彼女の民衆人気は上々のようです。
平時になるとサボり始めるジャンたちをどやす様子に「あいつ何か俺のかーちゃんに似てきた」とボヤかれたりもしますが、指導者として成長しつつあるということなのでしょう。
仲間の中から女王様が出たことで、この先エレンたちは今までとは一転して体制側の立場で行動していくことになろうかと思います。それがこの先どのような影響を及ぼしてくるかも未知数ですし、今度は政権を維持するということも視野に入ってくるかもしれませんし、それはそれで緊張感が漂いそうです。
ヒストリア戴冠に伴い、組織の風通しがよくなったおかげで、抑圧されていた新技術・新資源による発展が実を結び、それはウォール・マリア奪還の気運へと繋がっていきます。巨人の硬質化の力を使い過ぎてエレンの疲労が濃いのが気がかりですが。
人員の補充のため憲兵団や駐屯兵団からの人材引き抜きなどもあって調査兵団の内部は賑やかな様子。元憲兵のマルロがエレンと同等の朴念仁っぷりを見せてくれたりしています。
そんな中、エレンが洞窟で見た父親の記憶の、調査兵団の男は誰なのかという話になり、不意にエレンは思い当たります。その男、キース・シャーディスに会いにいこう、というところでシーンは切り替わり、ライナーとベルトルド、そしてあの“さる”こと獣の巨人。こちらも不穏な雰囲気が漂いつつ、次巻に続きます。
ハードコアな巻末ウソ予告と限定版付録の関西弁版1巻で笑いつつ、12月9日発売の18巻を待ちたいと思います。
それにしても関西弁版1巻は、台詞を機械的に関西弁にしただけでなく、色々と意訳が散りばめられており面白い。自分にとっては、ミカサが真顔で「あんたが新喜劇行くんやったらウチも新喜劇行く」と云っている場面のインパクトがすごかったです。こんな特典付録もいいものですね。