【一会】『進撃の巨人 19』……“壁”の内外、覚悟の対比
2018/07/21
予定通り今月8日に『進撃の巨人』19巻が刊行となりました。遅れ馳せですが概要と感想を書き留めていきます。
ちなみに、今巻の限定版の付録は全52枚のポストカードです。特に新規描き下ろしは無いようですが、これまでの単行本や月マガの表紙イラストはもちろん、『FRaU』『ミニサイズ版VOCE』といった女性誌への出張イラスト(どれも兵長ですが)や単行本巻末の「ウソ予告」まで網羅したラインナップとなっています(枚数的にトランプができそうですが、特にそういう仕様ではありません)。
ポストカードなので切手を貼れば葉書として使えますが、52枚全部を収納できるクリアアルバムも付いていることから、コレクターズアイテムとしての側面が強いでしょう。もちろん、「ウソ予告」を知人に送り付け困惑して貰う、などという使い方も可能です。
それはそうと本編です。回想やモノローグが挿入はされますが、基本的に今巻は、ウォール・マリア奪還作戦におけるシガンシナ地区(エレン達の出身地)での人類VS巨人の決戦を描いた“一幕もの”と云っていいかと思います。
前巻ラストで退路が断たれたかに思われた人類側ですが、厳密にはまだ完全に孤立したわけではないようで、人類は撤退・補給の生命線である馬を守りつつ、巨人たちを相手にしていきます。
しかし「巨人たち」と云っても、敵は当初考えられていたような知性無き存在の集まりではありません。そこには戦略的思考を有し手強そうなジーク戦士長(=「獣の巨人」)がいます。そして、かつてエレン達と共に訓練し戦ったライナー(=「鎧の巨人」)とベルトルド(=「超大型巨人」)がいます。しかも“壁”の中の人類への明確な殺意を持って。もちろん、そんな彼らに対し、調査兵団となった同窓生たちだって覚悟を決めて挑みます。
団長エルヴィンの状況把握のもと、各局面へと人員が割り振られ、兵たちはそれぞれの戦いに身を投じます。対「鎧の巨人」戦はハンジとともにアルミンも現場指揮を任されることとなり、「獣の巨人」には現状最強戦力のリヴァイが対抗することに。
それらの戦いのうち、今巻のメインとなるのは巨人化したエレンとミカサたち104期兵たちVS「鎧の巨人」の戦いと云えるでしょう。共に巨人化したエレンとライナーによるインファイトは実力伯仲といったところですが、エレンが隙を作ったところにミカサやジャンたちによる立体機動からの新兵器「雷槍(らいそう)」が炸裂します。
それにしても「雷槍」は、かなり危なげな新兵器ですね。使い方を誤れば使用者にも被害が及ぶため、使える局面が限定的というのはなかなか痛い欠点かと。それでも、やはり試作武器の初投入というのは白熱するシチュエーションです。技術の入手や新発見による発展を、割としっかり描くこの漫画だけに、これから改良されていったりするのか、注目したいと思います。
また、この戦いのさなかに挿入される、マルコの死の真相も見逃せません。30ページほどの小エピソードですが、トロスト区奪還戦(3~4巻)の終結後に死亡が確認されていた彼の、絶望的な最期が描かれています。そして同時に、ライナー・ベルトルド・アニの3人の、自分たちが為そうとしていることへの尋常でない意志が感じられる重要な場面だと思います。このエピソードの直後に時間軸が現在に戻り、ライナーに致命打を与えたことにショックを受けるサシャやコニーたちが描かれていますが、この“覚悟の対比”は、そのまま“壁”の内外に生きる者たちの意識の差ということではないでしょうか。
覚悟という意味では、ベルトルドの吹っ切れぶりも、今巻終盤のハイライトとして外せないところです。
これまで今ひとつ主体性に欠ける感じでしたが、窮地のライナーを支援しようと現れた彼の、一部ではゲスミン(下衆なアルミン)と呼ばれているアルミンの揺さぶりにも動じない強靭さはどうしたことでしょう。
やはりそれは、想いを寄せるアニを救わんとする気持ちからでしょうか。「それにしては、アルミンがアニを材料に出して脅しをかけても取り乱さないのはおかしい」という指摘もあり得ますが、自分の仕事と感情を区分するのはプロフェッショナルの基本でもあります。彼の覚悟は、そんな境地に自分を至らせたということかもしれません。
そんな風に精神的成長を遂げたベルトルドが超大型巨人と化し、しかもその変化時の爆風から生き残ったのは104期兵だけ?――というピンチで今巻は閉幕。8月9日刊行予定の20巻へと戦いは続きます。
まさかこの戦いが続く間は巻末ウソ予告も同じ路線なのか……と戦慄しつつ、始まりの敵とのラストバトルが描かれるであろう、次巻を心待ちにしたいと思います。