100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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「 仕事 」 一覧

第183夜 その苦界を愛した男の、稚気と危機と機知…『じょなめけ』

「癖かな……」「癖?」「俺ぁ子供の頃から茶屋で働いて/客が望むものをまず考えろとたたきこまれて育った/そういうのはもう抜けねぇよ/ずっと裏方でやってきたんだ/“板元”って稼業は世の中全部を客にした茶屋さ/だから俺はやれば最高の板元に……/日本一の裏方になる自信があるんだ」


じょなめけ 1 (モーニングKC)

じょなめけ嘉納悠天 作、講談社『モーニング』掲載(2007年7月~2008年1月)

 安永2(1773)年、江戸は新吉原。元禄の頃の絢爛豪華な花街としての賑わいも今は昔、界隈は寂れていた。
 そんな吉原への入り口にあたる吉原大門の傍で「へきら館」なる春画・春本屋を営む助平なお調子者がいた。蔦重こと蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)。吉原で生まれ育ち、後に多くの絵師・戯作者を擁し数多の本を出版する地本問屋(出版社兼小売店)「耕書堂」を経営することになる男である。
 折からの不人気にテコ入れするため、吉原出入りの店主たちは蔦重の店で吉原ガイドブックである「吉原細見」を取り扱うよう命じる。が、当の「細見」は、板元の鱗形屋(うろこがたや)の慢心のために価格の割に内容はいい加減という代物。それをめぐって鱗形屋と喧嘩した蔦重は奮起し、よりよい「細見」を自分の手で作ろうと動き出す。過去に残した悔いを胸の内に秘めながら。
 学者ながら作家その他多くの肩書を持つ福内鬼外(ふくち・きがい)こと平賀源内(ひらが・げんない)。絵師の卵で師に複雑な思いを抱く勇助(後の喜多川歌麿[きたがわ・うたまろ])。吉原の出入り店主たちに再建を託され、蔦重の幼馴染の遊女みちはるの間夫(情人)でもある“京橋の伝蔵”(後の山東京伝[さんとう・きょうでん])。かつて一世を風靡しながら不振まっただ中の歌舞伎役者、中村仲蔵(なかむら・なかぞう)……。
 助平のあまり遊女たちに袋叩きにされることもしばしばながら、吉原の人々を案じる蔦重は様々な分野の才能たちを集め繋いでいく。「手前が楽しいと思ったモンしか売りたくねぇ」と豪語する蔦重のプロデュースは、果たして吉原に人を呼び戻せるだろうか。

(さらに…)

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第181夜 人生の何気ない1コマに微笑せよ…『雲の上のキスケさん』

「いつもなら目にもとめないチラシの ありふれた一行が/今夜は あたしたちの胸を打つ/“出会いがすべて”/「会えてよかったね」/他に言葉がみつからない/そんな夜」 『雲の上のキスケさん』鴨居まさね 作、集英社『ヤングユー』掲載(1997年年5月~2003年12月) ……

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【一会】『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 1』……収束はしてない。だから働いてます

 GWも後半、いかがお過ごしでしょうか。  昨日は憲法記念日でしたね。だからというわけではありませんが、今日は社会派(?)なこの漫画、竜田一人先生の『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』を。  9.11にまつわる漫画はこれまでも結構な数が出版されているかと(商業……

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第170夜 千々に乱れる世界にその死を想え…『さよならもいわずに』

「昨日現像に出した写真を取りに行く/いつもの道/いつもの駅前/何故……/一体 何故/何故キホが!?/何故 あなたではなく………」 『さよならもいわずに』上野顕太郎 作、エンターブレイン『月刊コミックビーム』掲載(2009年7月~2010年4月)  「ヒマだからな!……

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第169夜 誰かに何かを伝える、全ての人に…『マンガで読む「分かりやすい表現」の技術』

 2014/04/14  100夜100漫,

「ばあちゃん/私 このチャンスに懸けてみようと思います/このリーフレットをちゃんと作り上げることができたら私/私はここにいられるんじゃないかって思うんです」 『マンガで読む「分かりやすい表現」の技術』藤沢晃治 原案、カノウ 漫画、銀杏社 構成、講談社ブルーバックス(……

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第167夜 誰もが旅人で、だから帰る処が必要だ…『ホテルポパン』

「客室は10/でも1日に予約をいれるのは8組まで/夫婦かカップル/女性同士のみ/そんなんでもやっていけた時代の話だ」 『ホテルポパン』有間しのぶ作、竹書房『まんがくらぶ』掲載2003年12月~2008年11月)+書き下ろし  スキー客すら寄り付かない山奥に建つ小さ……

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第159夜 ともあれ、二人、生きていくのだ…『娚(おとこ)の一生』

「……私は……昔…」「もうええわ/君の過去のなんのは/つまらん/幸せの話をすると君は下を向くんや/過去には戻れへんのに/どうして目の前のぼくを見いひんのや?」 『娚の一生』西炯子 作、小学館『月刊フラワーズ』→『フラワーズ増刊 凛花』(スピンオフ)掲載(2008年7……

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【一会】『銀の匙 Silver Spoon 11』……年度終わりと、愛すべきシビアさ

 長いようでやっぱり長かった、エゾノーでの1年が終わろうとしています。と云っても、ここでは初めて言及する漫画ですね。少し説明を加えましょう。『銀の匙 Silver Spoon』は、ガリ勉タイプだった少年・八軒勇吾(はちけん・ゆうご)が、進学先の大蝦夷農業高校で、それまでと……

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第149夜 中学教師と生徒達、全身全霊でぶつかります…『鈴木先生』

「問題児にも/カミサマにも/手のかからないいい子にも囲まれて−−−−/回想モードは終了だ!!/今日も/こいつらに/全力で教えよう/めいっぱい クールに…/せいいっぱい 真摯に-−−−」 『鈴木先生』武富健治 作、双葉社『漫画アクション』掲載(2005年5月~2011……

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【一会】『まるせい 1』……成年漫画描きの青春と苦闘

 刊行から少し経ってしまいましたが、花見沢Q太郎『まるせい』1巻が面白かったので書きます。  タイトルの「まるせい」とは、「○」に「成」と書く、いわゆる成年向け漫画、ようするにエロ漫画のこと。『100夜100漫』は中高生くらいから上の人が読むだろうな、と思って書いて……

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