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【一会】『銀の匙 Silver Spoon 11』……年度終わりと、愛すべきシビアさ

      2018/07/10

銀の匙 Silver Spoon 11 (少年サンデーコミックス)

 長いようでやっぱり長かった、エゾノーでの1年が終わろうとしています。と云っても、ここでは初めて言及する漫画ですね。少し説明を加えましょう。『銀の匙 Silver Spoon』は、ガリ勉タイプだった少年・八軒勇吾(はちけん・ゆうご)が、進学先の大蝦夷農業高校で、それまでとは全然ちがう農業・畜産の世界に触れ、変わっていく姿を中心に置いた、農業高校青春群像劇です。
 最初は苦労ばかりだった農業高校生活も、この11巻でひと巡り。思えばハチも随分たくましくなりましたね。自分のご飯は自分で守る、が染み付いているあたり、連載開始当初とは一味違う、強い生命力を感じます。
 バレンタイン投下作戦とか闇鍋とか、楽しいエピソードを挟みつつ、退寮式からハチの新生活までを描いた今巻ですが、何より印象に残ったのは、やっぱりハチと彼の父親とのやり取りだった気がします。
 「本気には本気で返す、それだけのことだ」。
 シンプルにして揺るぎない信念を感じさせる言葉です。そして、何とも深い、息子への期待を感じさせる言葉じゃありませんか。実際、もしまかり間違って自分が人の親になることがあったら、同じことを考えて我が子というものに臨みそうな気がします(現時点でのハチにとっては、手厳しいと取られていることとは思いますけれど)。つい先日、第三子をご出産された作者の教育方針もそうなのでしょうかね。なんとなーく、作者=『鋼の錬金術師』のイズミ師匠と妄想している自分は、そう考えてしまうんですが…。
 話を戻します。

 ハチのお父さんが示すシビアさは、ハチの学友たちが時に見せるシビアさと通じていると思います。そういう、“近い将来みずからの力で生きていくという事に対する意識の高さ”こそが、エゾノー生の強みだと思うんですが、自分の高校生時代を振り返ると、明らかにハチ(しかも物語開始当初の)のままで3年間を過ごしてしまったなーというようなことを−−後悔とは違うのですが(それはそれで良い事もありましたしね)−−思います。
 ただ、退寮式での校長先生の言葉は、そんな大人読者の若干後ろめたい気持ちも勇気付けてくれます。
 大丈夫。かつて学校に通って、通わなくなってからも色々な場所で、人との繋がりを築き、先人の知恵を有り難く(またはちょっとウザいなと思いながらも)受け取ってきた大人達の心にだって、ちゃんとありますよ銀の匙が。ちょっと錆びてるかもしれないですけど。
 現実世界と劇中の季節がシンクロしているというのは、もちろん版元の戦略によるものなんでしょう。けれども、それはそれとして、年度の終わりに今巻を読んで襟を正すことができるのは有り難いな、と思います。特に、自分を含めある程度の年齢を重ねた人にとっては、年度が変わっても大きく生活が変わることが少ないため、こういう節目を感じさせる展開は貴重なんじゃないかな、と思います。

 大人の感傷はそんなところにしておいて。
 今巻のある意味衝撃的なラストのために今後が気になるハチですが、今の彼なら大丈夫という安心感をもって続刊を待つ事ができそうです(西川が云った通り、本当に馬房に住み込んだらどうしよう、とも思いますけれど…)。
 いずれにせよ、彼ら彼女らが迎える新しい季節が楽しみです。

 - 一画一会, 随意散漫 , , , ,

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