100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

*

【一会】『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 1』……収束はしてない。だから働いてます

      2018/07/20

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1)

 GWも後半、いかがお過ごしでしょうか。
 昨日は憲法記念日でしたね。だからというわけではありませんが、今日は社会派(?)なこの漫画、竜田一人先生の『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』を。
 9.11にまつわる漫画はこれまでも結構な数が出版されているかと(商業誌に限らなければもっと多いでしょうね)。漠然とした放射能の恐怖について描かれたものも相応にありますが、リアルなお仕事の場として福島第一原発を描いたものは、漫画に限らずあまり無かったんじゃないかと思います。当初読み切りで掲載されていて、自分もその時は興味深く読んだのですが、その後に連載化したとは寡聞にして知らなかったので単行本が並んだ時には軽く驚きました。

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1) (モーニングKC)
いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1) (モーニングKC)

 意図的なのかどうか、書籍販売サイトの「なか見」には、上に挙げたようなハードボイルドタッチな場面が提供されていますが、実際に読んでみると、男くさい画風はともかく意外と呑気なシーンも多かったりで、ちょっと意外な感じも受けます。それでも時おり、原発作業員の一定数の方々が被害者にして加害者という重々しい事情もさらりとながら触れていて、決して気楽な気分で読む漫画でもない感じ。
 特殊な職場環境に(云い方は悪いけど)潜入し、その記録を元にルポルタージュを書くという手法には、原発という意味では堀江邦夫の『原発ジプシー』など一連の仕事が思い浮かべられるでしょうが、自分はそれ以前に鎌田慧がトヨタ自動車に期間工として所属して描いた『自動車絶望工場』を連想します(いずれも活字ですが)。
 とはいえ、作者のスタンスには上の2作ほどの深刻さはなくて、自身が云うように「高給と好奇心とほんの少しの義侠心」から就業した故の明るさのようなものがあります。下請け過ぎて何次受けか分からない会社幹部の様子に憤るよりも呆れるというか、そういうネアカっぷりが持ち味なんじゃないかと思います。もちろん、作者が見た限り、現地の状況が思ったより劣悪じゃなかった、という理由もあるのかもしれませんけれど。
 当初は読切作品だったこともあり、若干時系列が入り組んでいます。が、順序を追って整理すれば、作者が原発作業員を志望するところから、なかなか就業できないもどかしいプロセスを踏んだ上で、まずは原発内の休憩所管理員となるところ、その後に転じた原発作業員としての作業のエピソードを幾つか収録したのが今巻と云えそうです。
 こんな感じで、特殊な状況下にあるものの、あくまで“仕事”を描くというスタンスで、作者の線量が一杯になって自宅に戻るまでを綴られていくことと思います。性質上、あまり長く続く作品ではないとは思いますが、完結の際に改めて感想を書いてみたい漫画になりそうです。

 - 一画一会, 随意散漫 , , ,

広告

広告

広告

広告

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

  関連しそうな記述