100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

*

「 大人 」 一覧

第143夜 直し治される、仏心の導きか…『壊れた仏像直しマス。』

「ここを守りたいのは―/お前だけじゃないってことさ……潰させねぇよ/この工房も/お前の夢も」


壊れた仏像直しマス。 1 (芳文社コミックス)

壊れた仏像直しマス。芳家圭三 作、芳文社『週刊漫画TIMES』掲載(2011年7月~2013年8月)

 仏師、英道吉(はなぶさ・どうきち)。仏像の製作と修復に抜きん出た手腕を持った天才だが、いかんせん放蕩癖が強く、家族はいつも振り回されてきた。
 ある日、根城である「はなぶさ美術工房」から、またもや道吉が姿を消したことに気付いた道吉の末娘、彩葉(いろは)は、すぐさま3人の兄に連絡を取る。独立して仏像修復を営んでいる長兄の京一郎(きょういちろう)、美術工芸大学で助手を勤める次兄の龍之介(りょうのすけ)、美大で彫刻を学んでいる三兄の翔太(しょうた)は、失踪した父が請け負っていた仏像修復等の仕事を、とりあえず自分たちで割り振ることにして工房を閉じようと提案する。既に鬼籍に入った母に、苦労ばかりかけていた父に対して、兄たちの思いは複雑なのだ。
 しかし、父の工房に愛着のある彩葉は反発、自らが工房を引き継ぐことを決意する。とは云うものの、まだ女子高生の彩葉に仏像修復などできるはずもなく、彩葉の熱意に促される形で、大学を休職した龍之介が中心となって工房を切り盛りすることに。
 修復を依頼される仏像は、どれも永い年月を経たものばかり。そこには、人間が連綿と抱いてきた喜怒哀楽が寄り添っている。それを断ち切ることなく、あるがままの姿を取り戻すべく、龍之介たちは腕を振るう。それは依頼人の心に沈殿した澱を取り除くことにも繋がっていく。
 そんな日々を過ごすうち、兄妹は知る。父が放蕩を繰り返す理由と、亡き母の本当の気持ちを――。

(さらに…)

広告

広告
thumbnail

第138夜 2人の日々は、あのスイングとともに…『坂道のアポロン』

「んふっ/相棒?/いやですよこんなの」「最高じゃないか/一緒にバカやれる友達なんて/大事にしろよ/恋愛と違って/友情ってのは一生もんだからな」 『坂道のアポロン』小玉ユキ 作、小学館『flowers』掲載(2007年9月~2012年7月)  船乗りである父の仕事の……

thumbnail

第135夜 白い囲いの中で、我慢の日々…『失踪日記2 アル中病棟』

「恐ろしい/なんか恐ろしいね/恐ろしいと頭で考える自分の声すらも恐ろしいんだよね」 『失踪日記2 アル中病棟』吾妻ひでお 作、イースト・プレス刊行、書き下ろし(2013年10月)  1998年12月28日、かつて失踪した漫画家は、今度は家族の手によって病院に担ぎ込……

thumbnail

第129夜 行間から浮かぶ、在りし日の彼らの食生活…『文豪の食彩』

「例えば明治期/日本人は何を旨いと思って喰っていたのか?/そこにどんなドラマがあったのか?/それは今どこで食えるのか?/それは今も旨いのか?/…とかね」 『文豪の食彩』五十子肇観→壬生篤 原作、本庄敬 作画、日本文芸社『別冊漫画ゴラク増刊 食漫』掲載(2009年12……

thumbnail

第125夜 大人の夢は大きいのだ…『俺はまだ本気だしてないだけ』

「親父よ…イヤ、お父さん…/七転び八起きって知ってる?」「起きれてねーよ!」 『俺はまだ本気だしてないだけ』青野春秋 作、小学館『月刊IKKI』掲載(2006年1月~2012年7月、番外編2013年1〜5月)  なりゆきで就職し、なんとなく15年勤めてきたバツイチ……

thumbnail

第123夜 恋の皮を被った私(わたくし)と関わりの物語…『モテキ』

「あっ ちょい待ってて/あーうん/ごめんっちょっと待ってて/うっ またメール着信……/俺のキャパは一気に溢れかえった/これが/モテ期か!?/そんな/イキナリ!?/今 急に頂点なの!?」 『モテキ』久保ミツロウ 作、講談社『イブニング』掲載(2008年23号月~201……

thumbnail

第117夜 地に澱む神代の穢れに抗うは、筋肉質な純情か…『天顕祭』

「木島/戻って来いよ/たった1年だけどよ/お前のいねェ足場はさみしいもンだ」 『天顕祭』白井弓子 作、同人誌発表(2006年2月~2007年8月)→サンクチュアリ出版より単行本  かつて、この国は「汚い戦争」を経験し、フカシとよばれる毒物に汚染された。そこかしこが……

thumbnail

第112夜 大人の男に大切な事…『LA QUINTA CAMERA 〜5番目の部屋〜』

 2013/10/05  100夜100漫, ,

「あの貼り紙の下宿先ってあんたの所?」「ああ、俺とこのチェレと残りふたりの/男4人で暮らしてるアパートの一室だ。/4人とも働いてるし/お互いの生活に干渉はしてない。/部屋は使いやすいよ/家賃もウチは安めだ」 『LA QUINTA CAMERA(ラ・クインタ・カーメラ……

thumbnail

第108夜 複雑な感情が、シンプルな関係性に現れる…『式の前日』

「……だって/泣いてんじゃん?」 『式の前日』穂積 作、小学館『月刊flowers増刊 凜花』→『月刊flowers』掲載(2010年10月~2012年7月)  結婚式を前日にひかえた女と男、久方ぶりに再会する幼い娘と父親、高校時代の想い人を亡くした初老の双子の兄……

thumbnail

第86夜 旅人が迷い込む、叙情と禍福と幻想の万華鏡世界…『紅い花』

「あのみごとな紅い花はなんというのだろう」「知らん」 『紅い花』つげ義春 作、青林堂『ガロ』掲載(1967年10月[表題作])  林と川のある里にやってきた釣り人の主人公は、親の代わりに茶屋を切り盛りするキクチサヨコに出会う。彼女の元同級にあたるシンデンのマサジは……

広告

広告