【一会】『3月のライオン 11』……対峙の果てと残された者の虚脱
2018/07/21
17歳の少年プロ棋士、桐山零(きりやま・れい)の孤独な戦いと棋士の世界、そして、そんな零を家族のように受け入れる、あかり・ひなた・モモの3姉妹を中心とする川本家のドラマを描く『3月のライオン』。前巻から9か月ほどで11巻の刊行となりました。刊行からひと月ほど経ってしまいましたが、書いておきましょう。
前巻の末尾で川本家の“父親”との対峙が描かれましたが、今巻ではその流れを引っ張りつつ、その対峙の終結だけでは一件落着とはいかない、川本家の微妙な様相を映していると云えそうです。
前巻での“父親”の来訪も衝撃的でしたが、それ以上に川本家の面々にとってインパクトがあったのは、ひなたに対する零の“宣言”だったようで。あくまでも川本家のためを思って零は引き続き対策を考えているようですが、あかりさんや3姉妹の伯母に当たる美咲(みさき)さんにとっては悩みどころといった感じ。それでも祖父の相米二(そめじ)さんも云っているように、零がいてくれて良かったという気持ちの方が強そうです。
かたや零は大阪で、藤本雷堂(ふじもと・らいどう)棋竜とのある意味濃厚(?)な対局に臨みます。4話分(とはいえ最初と最後の話は半分くらいですが)を使った雷堂棋竜との戦いは…なんというか盤上そっちのけでヒートアップしていた感じが…。
自信過剰で自意識過剰、ついでにトークも過剰気味な雷堂棋竜ですが、あまり嫌味な感じがしないのは不思議です。自分のイメージとしては、大竹まこと氏がもう少し若かったら、実写の雷堂役がハマるんじゃないかと思ったりもします。
大阪からトンボ返った零は、その足でもう1人、川本家の“父親”との対戦に挑みます。もちろんこちらは将棋ではなくて今後についての話し合いですけれど。雷堂棋竜との対局には、どことなく棋士同士の親愛の情が漂っているとするならば、こっちの“父親”との対話にあるのは冷徹さと怒り。今巻随一の胃が痛くなるようなシーンかと思います。
そんなきつい二正面作戦の翌日、日曜午後の弛緩した空気の中で、姉妹は“父親”との最後の(と思われる)対話を交わします。前日の零との対話ほどギスギスしているわけではありませんが、これはこれで、読みながら非常に辛かったです。
素行がどうであろうと姉妹にとっては“父親”は父親で、その存在に対して自ら終わりを告げるというのは、相当、打ちひしがれることだと想像します。読んでいる自分も、前巻であれだけ憎いと感じた“父親”に、最後は何やら同情的な気持ちになりました。もちろんダメ人間で弱い人には違いないんですが、立派で強い人であろうとしても、必ずしもそうなれない人はいるだろう(というか、そういう人の方が多いんじゃないか)、などと思ってしまったので…。
大筋としてはここまでですが、長女のあかりさんのショックはやはり軽くないようで、これまで諸々の辛さを引き受けてきた彼女に、にわかにスポットが当たってきます。零がまた奔走を始めますが、それが次巻以降に何らかの形で実を結ぶのか、気になりながらも今巻の本編はお開き。
前巻特装版の特典であるBUMP OF CHICKEN「ファイター」にインスピレーションを得たと思われる零の小学生時代を描いた短編「ファイター」を読みつつ、『職業・殺し屋』(100夜100漫第66夜)の西川先生によるまさかのスピンオフ『3月のライオン昭和異聞 灼熱の時代』に驚きつつ、来夏と思われる本編12巻を楽しみに待ちたいと思います。