【一会】『コトノバドライブ 1』……全てが溶け合って見える瞬間
2018/07/21
前作『カブのイサキ』(100夜100漫第9夜)から幾ばくも空かず、芦名野ひとし氏の次作の単行本が刊行されました。その名も『コトノバドライブ』。
バイク、個人商店、缶コーヒーに自然現象と、作品に散りばめられた要素たちは、芦名野作品としては新しくはないかと思います。時代も舞台も明らかにはされてはいませんが、少なくとも舞台となっているのは、横浜に連なる界隈ではないでしょうか。
つまり、要素を取っても舞台を取っても、この漫画は『ヨコハマ買い出し紀行』(100夜100漫第91夜)ととっても近いのです。それでも、ただの焼き直しとは自分には思えません。
主人公と思しきは、今のところ本名不詳のすーちゃん。ひげ面の店長が営むスパゲティ屋(店長曰くパスタ屋にあらず)「ランプ」でアルバイトをして暮らしている女の子です。
彼女が中古のバイクを駆って、「撮りたい画(え)がある」と買ったカメラを携えて方々に行く様がこの漫画のメインなわけですが、彼女には“ほんの5分だけ不思議な景色が視える”という特殊能力があります。「不思議」というのは色々な意味がありますが、ここでは何というか、“物と風景と心象と超自然的な存在が溶け合って見せている景色”といった感じでしょうか。
それは夢と云うほどには曖昧ではないし、そこに何らかの意思を感じ取れる気がしないでもありません。そしてその意思とは、風景だったり物体だったりという人間ならざるモノのものなので、人間にとっては時としてちょっと不気味に見えたり、怖かったりもするんでしょう。
すーちゃんのそんな反応があったり、どことなく人類の覇権が衰退している感じを醸し出しつつも、総体として物語の世界は平穏です。彼女が「撮りたい画」とは何か、とか、これまでの芦名野作品(とりわけ『ヨコハマ買い出し紀行』)との関連は、とか、気になることもありますが、やはりこの漫画の主役は、その5分間の景色でしょう。不思議を解き明かそうとせず、平日休みを取った時のような気持ちでぽかりと楽しむのが良いのかもしれません。
次巻は早くて半年後くらいかと思われますが、この漫画に限ってはあまり待ちわびるのもな、と思ったり。既刊をしみじみ味わって、気付いたら次が出ていた、くらいが理想です。とはいえ、やっぱり楽しみに待ってます。