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【一会】『3×3EYES(サザンアイズ) 鬼籍の闇の契約者 2』……世界平和のための一試行

      2018/11/11

3×3EYES 鬼籍の闇の契約者(2) (ヤングマガジンコミックス)

 12年前の本編の続編として綴られた「幻獣の森の遭難者」の終了後、ほどなく開始された『3×3EYES 鬼籍の闇の契約者』。現在3巻まで刊行されている単行本の、昨年12月刊行の2巻から、その展開を追って行きたいと思います。
 ちなみに、第1巻については以下を参照ください。間が空いてしまったので念のため。

【一会】『3×3EYES(サザンアイズ) 鬼籍の闇の契約者 1』……暗黒の“神”は何を望む

連れ去られた三只眼

 前巻のラスト間際、自らに宿した別人格達によって昏倒してしまったパイ(=三只眼[ここでは八雲のパートナーであるパールバティーⅣ世…以後、個人名として三只眼と云う時はこのパイの別人格を指します])。彼女はそのスキに乗じて連れ去られてしまいました。
 連れ去ったのは、今回の黒幕と思しき闇の者、スキウロス。彼(多分)は、12年前の闘いの舞台となったサンハーラ神殿の直上に建つ海上プラント「エディアカラ」に取り入って暗躍し、そこで生じた「サンハーラの闇」とでも云うべき闇の意識体と、その意識体が依り代に選んだ日本の動画配信青年・鳥谷喜一(とりたに・きいち)を用いて、人類と月の鬼眼王を同士討ちさせようとしているのでした。
 ここまで事態は、割とスキウロスの思い通りに進んでしまっているように思います。が、それはともかく、三只眼を奪われた時の八雲の回想の続きから、今巻は始まります。

 言葉を覚えだした闇の意識体――ウロボロスの望みは、世界に散らばった“闇”の統合。『3×3EYES』本編の結末を踏まえた願望のように思えますが、ウロボロスはそれを叶える前に、人類の望みを叶える、と嘯(うそぶ)きます。
 訝しむ八雲を尻目に、三只眼カーリーが攻撃を仕掛けますが、効果なし。今のままでは、ウロボロスは八雲にすら倒すことの叶わない存在のようです。ピンチと思いきや、喜一の仲裁で事態に収拾がつく格好に。
 自分は難しいことは分からず、戦争や争い事を企てる者の「被害者」であり、とにかく「平和な世界」が望みだという彼には、いかにも現代の日本人という感覚を抱きます。ところで、闘いの最中に唐突に入り込んだ彼の記憶は、「木星になりたい」と語りながらも、居なくなってしまった兄についてのものでした。木星は1巻冒頭にも出てきましたし、今作を彩るモチーフの1つとして注意しておきたいところです。
 「平和な世界」という喜一の望みを叶える方法なんて、きっと誰にも分かりません。が、ウロボロスは「当事者」を探すと云い出します。
 一方、スキウロスの部下ビヨールカの奇策「置換(ザミユエナ)」により、三只眼は囚われの身に。この「置換」という術ですが、一見よく分かりませんでした。単純に、三只眼とビヨールカの位置を入れ替えた、ということでしょうか。
 ともあれ、こうしてスキウロスと喜一らは、動きを封じた三只眼を連れて東京を去ったのでした。残された八雲もカーリーも、真意の知れない相手に表情は冴えません。

新・鬼眼王

 言葉通り、ウロボロスは戦争の「当事者」を集め出します。と云っても、「当事者」という言葉は随分と曖昧ですが。
 同じ頃、三只眼の聖地では、八雲たちと現在の鬼眼王(カイヤンワン)とされるカーリーが、三只眼ラートリーとその无アマラ達と気まずいムードになっていました。カーリーに対して良い感情があるわけがないアマラが突っかかり、応じたカーリーと戦いに。
 しかし、カーリーも必死でした。常に強い力を保持していなければ、己の中の多重人格のエゴと闘い続けることができないと云います。
 三只眼を助けたいと本心を明かす八雲と、殺すなら殺せと云うカーリー(部下の助命を願うあたり立派です)、遠慮なく殺そうとするアマラ。三者に割って入ったのは、ノルマルテとゲゲネイスでした。そういえば彼らと八雲は、今や龍皇ベナレス配下の九頭龍将ということになっているのでした。
 ノルマルテによれば、カーリーはもはや鬼眼王ではないとのこと。多重人格性は残っており依然として内部崩壊の危険はあるようですが、とはいえ人格の多くは既に失われ、破壊神という程の人格集合体ではない、と、要約すればそういうことになるようです。
 それを受けたカーリーの言葉は、一同に衝撃を与えました。新たな鬼眼王の名は、パールバティーⅣ世。八雲が三只眼と呼ぶ、彼女のことです。読者には既に前巻で提示されていたことですが、本人以外の口から出たことで、裏付けが取れたことになります。
 “忌み嫌っていたはずの当の者になってしまう”という展開は、幾つもの物語に見出せます(具体例を挙げると、核心的なネタバレになりそうなので自重しますが)。そういう意味では類型的ではあるものの、どれほど経験していも、やはり衝撃を受ける展開には違いないですね。

「平和な世界」をめぐって

 戦争の当事者を集めようとするウロボロスは、喜一に続いてもう2人の若者を「エディアカラ」に連れてきました。1人は、恐らくアジアのどこかの地域で反政府ゲリラに殺され、世界平和のためにはゲリラの抹殺が必要と語る少女エネバ。もう1人は、ライプツィヒで、生活の苦しさからテロの片棒を担がされかけ、殺された青年キーファです。
 しかし、集められたからといって即座に「平和な世界」に向けて進展するわけもなく。温和に見えたエネバですら、日本人的な意識を代表する喜一とは見解の相違が見られ、キーファに至っては出会い頭に攻撃を仕掛けてくるという感じで、既にここにも争いが生じていたりします。
 衝突するエネバとキーファを止めようとするも、三只眼は内なる多重人格に苛まれます。唯一の味方、彼女の分身であるパイの人格が助けてくれますが、状況を収めたのはウロボロスに力を注ぎ込まれた喜一でした。そしてそれこそが、スキウロスの狙いだったようでもあります。

 一方、カーリーとアマラの衝突が収まった聖地では、カーリーが秘術の準備を進めていました。術の実態を問う八雲に、ノルマルテは答えを隠そうとしますが、「このごにおよんで」という術士ハーンの突っ込みは的を射ています。ゲゲネイスが明かしたところによれば、秘術は時間を遡るものだといいます。
 とはいえ、無制限に遡れるわけでもなく、現在の意識を最大3か月前の自分の肉体に、2~3分だけ憑依させられる、というもののよう。してみると、月でベナレスが喜一に倒された時、既にそうなると知っていた可能性が高くなります。彼の精強さ、周到さからして、本当にやられたとは考えにくいでしょう。
 ベナレスは本当にやられてしまったのか。そうでないのなら、何をしようとしているのか。その辺りを確かめるため、ハーンたちは月へ向かうことに。
 しかし他の者たちは三只眼が連れ去られた居所が分からなければ何もできません。
 そんな時、突如として八雲の「無限の力」が発動します。三只眼に危機が訪れると、その護衛たる「无(ウー)」には「無限の力」が湧いてくるのですが、ということは、三只眼が危機にあるということを意味します。
 多分これは、喜一の力の余波を受けた三只眼に反応したものなのでしょう。ともあれ、八雲はこの力を利用して、依子の力を借り、地球全体に呪力的な探索ソナーを打つことにします。

ボンクラならボンクラなりに

 やることが決まり、仲間たちは各方面に散っていきますが、そんな中でハーンは八雲への詫びを口にします。それは、葉子が三只眼が鬼眼王となったことを知っていて隠していたことを謝るものでした。
 しかしそれは、それを知って八雲が苦悩すると考えた三只眼自身が口止めしたもの。葉子が云った「愛は想像力」を、三只眼は実践していたようです。新シリーズになって、戦闘や情報分析などではとても有能になった八雲ですが、「俺は何も分かっちゃいないんだ」ということを改めて突き付けられてしまいました。
 そんな八雲に対し、ハーンは慰めたり発破をかけたりもしません。ただ、軽くこれからのことを打ち合わせるのみ。「ボンクラ同士」、もう随分と長いことコンビを組んできた八雲とハーンには、こういう呼吸で充分なのでしょう。

 「エディアカラ」の異常を把握し、大統領が性急な対応を決めた頃、同じ合衆国ミネソタ州ミネアポリスでは、いかにもギーク(≒ネット系の技術ヲタク)といった感じの青年アレックスが転落し、ウロボロスにスカウトされていました。これでエディアカラには、何らかの形で戦争や諍いに関わった若い男女が、喜一を含めて7人、集まったことになります。

 そして東京では、依子のマンション(ハーン家の完全なる居候ではなく、いちおう自前の住まいがあったんですね…あるいはハーン家が半壊したため、新たに借りたのかも)に八雲、舞鬼(ウーカイ)、ゲゲネイス(と、それとムゲロ)が緊急訪問。もちろん、前述の三只眼探索のためなのですが、まぁ妙齢の女性の部屋ですし、あらかじめ「今から行くから」くらいの連絡は入れておいた方が良かったかと^^;
 かくして敢行された地球全体への呪的ソナー。それはスキウロスも想定していたところだった模様。世界を平和にする方法で喧々諤々する若者たちの前に、八雲と依子の思念体が現れ…というところで今巻は幕、次巻へと続きます。

 次なる3巻も、本年7月に刊行済み。既に確保しているので、このまま読み進めたいと思います。

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