【一会】『3×3EYES(サザンアイズ) 幻獣の森の遭難者 3』……龍皇顕現。さらに思惑は絡み合う
2018/07/21
アジアン・オカルティックバトルを繰り広げつつ、バブル期からゼロ年代という日本の精神性の変容を背景に置いて描かれた伝奇ロマン『3×3EYES』(100夜100漫第100夜)。12年ぶりの発表となった正統的続編『3×3EYES 幻獣の森の遭難者』の3巻が先ごろ刊行となりました(このところ、何だか講談社のバトルものについてばかり書いている気がしますが、タイミングの関係で他意はありません^^;)。
獣魔の卵がパリにある、という情報を得て渡仏した八雲たち。それは、八雲の不死性を狙って捕獲しようとする、ベナレスの元配下ノルマルテと彼に命を助けられた甲子美智瑠(きのえね・みちる)ら日本の女子高生たち、同じくベナレスの元配下ながらノルマルテ達とは別の狙いを持ったゲゲネイス・ウコバクといった者たちの罠でした。しかし、ゲゲネイスの策謀によって“獣魔の女王”エキドナが呼び寄せられ、それに興味を持った現・鬼眼王(カイヤンワン)のカーリー達も地上にやってくるなど事態は予想外の方向に。ノルマルテの云う「世界の崩壊」の真意が明らかになりつつも、まだ謎を残し、ゲゲネイスの暴走を止めようと八雲が追いすがる――という辺りまでが、前巻までの話だったかと思います。
葉子たちの加勢をしようとパリを目指すも、まだ仁川にいる思念獣使いの神山依子の様子から始まる(ちなみに彼女の出番は今巻ここだけ)今巻。しかし視点は早々に八雲とゲゲネイスの戦いへと移ります。
自分の感情が欠落していることを気に病んでいた八雲ですが、ゲゲネイスとエキドナによる実害をまずはどうにかしなければなりません(僅かですが、スティーブ龍と鈴鈴さんが獣魔と戦う場面も久々に描かれています)。地上の混乱が続けば、12年前の戦いで散々苦しめられ、次に戦えば敗北必至なカーリーの无(ウー)・ベナレスまでも月からやって来るかもしれません。八雲としてはそれが最も避けたい事態ですが、ゲゲネイスは意に介さず、自分はベナレスに対しても「勝算」があると云い放ちます。
その「勝算」のため、ゲゲネイスはある提案を八雲とノルマルテに持ち掛けますが、それを受けた時の八雲の苦笑(p31最下段)が何とも渋いです。不老不死の身ではありますが、12年という時間は、彼にも確実に何がしか痕跡を残したのでしょう。
ゲゲネイスの勝算とは、ずばり獣魔の女王エキドナ自体を使役獣魔として契約してしまうということでした。契約と云っても、エキドナが必要とする精(ジン;この漫画における生命エネルギーのようなもの)の提供元は无である八雲ですから、ゲゲネイスにとっては無償でエキドナの能力だけが使えるようなものです。
契約を終えたゲゲネイスは、カーリーがベナレスを呼ぶよう仕向けます。カーリーと云えば、前作では相当はねっ返りな性格として描かれていましたが、ここでは自分がベナレスの役に立てていないことを気に病むというしおらしさを見せています。三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)も无と同様、若々しい容姿を保ち長命な種族。彼女はそのクローンですが、やはり歳月はそんな存在に対しても変化をもたらした、と云えそうですね。
そんなカーリーにベナレスを呼ばせまいと、葉子とセツが彼女を守ろうとしますが、カーリーはハーンのピンチを指摘、本性をあらわしたウコバクに追い詰められたハーンと舞鬼(ウーカイ)は葉子たちによって救われます。しかし、ここでウコバクを介したゲゲネイスの攻撃にカーリーが晒されたことにより、ついに“龍皇”ベナレスがパリに現れることに。
もとは上司と部下の関係だったベナレスと葉子ですが、ベナレスが現れた際の葉子の言葉が、袂を分かっていながらも相変わらず礼儀正しく、いい感じです。ベナレスもまた、元部下がカーリーを守ろうとしたことに恩義を感じているようですし。
舞鬼も元ベナレスの部下ですが、言葉が出ない様子。巻末でセツが訊ねている「葉子と舞鬼のどっちが強いか」について、一つの答えが示されているようにも思えます。
ベナレスの登場により、戦いの構図は、八雲・ゲゲネイス・ノルマルテVSベナレスという感じに変容します。なんだか混乱しますが、各人の思考は以下のような感じでしょうか。
ゲゲネイス:退屈から逃れるため、再び戦乱を起こしたい。
ノルマルテ:ミチルたちを守りたい。
八雲:この騒動を治めたい。
ベナレス:八雲への「カリ」を返したい&うるさい奴らを黙らせたい。
直接的な戦闘は、まずはベナレスとゲゲネイスの間で行われます。ここで注意を引かれたのは、単純な戦闘狂と思われたゲゲネイスが、自分の勝利を前提としつつも意外な提案をベナレスに持ちかけたことです。詳細はぼやかしますが、かつてアドバイスをくれたノルマルテに対する彼なりの誠意なのでしょう。もしも前作、八雲たちとベナレスとの戦い真っ最中に、共にベナレスの部下として彼らが出会っていたら、割と良いコンビになっていたのかもしれません。
エキドナとの契約で使えるようになった、エキドナの息(ブレス)がかかった獣魔術でゲゲネイスはベナレスに対抗します。“獣魔の女王”エキドナに対し他の獣魔は頭が上がらないようで、ベナレスの獣魔術は無効化されますが、そこは最強の无、即座に獣魔術以外の術に切り替え、ゲゲネイスは圧倒されていきます。
そんなゲゲネイスを助けることがノルマルテを救うことになるならばと、ミチルはベナレスと戦うことを決意します。しかしベナレスに敵うとも思えず。周囲からは反対意見が噴出します。
ここで覚醒したのが、もう1人のパイ、三只眼(さんじやん)。彼女はノルマルテが未だ伏せている事実もお見通しのようです。「「似非」は白日のもとを/「真実」は闇の中を好むでな……/……「虚構」が不誠実であるとは限らん」とは意味深長な言葉ですが、この漫画のサブタイトルが「幻獣の森の遭難者」であることと恐らくは関連しているのでしょう。「真実」が明かされる時が楽しみなような怖いような気がしています。
三只眼としては、ミチルたちにもベナレスと戦ってもらいたいようですが、八雲は彼女らを巻き込みたくないとし、ピンチのゲゲネイスに代わってベナレスと交戦を開始します。
どんな能力も吸収するという“人喰い影法師(カニバル・シャドウ)”状態となったベナレスに対して一歩も引かず、呪力と体術が融合した激闘を見せる八雲はさすが歴戦の主人公といったところ。しかし、それでも力およばず。ついに力尽きた八雲を救おうと、ノルマルテが瀕死の身体に鞭打って駆けつけますが、エキドナに精を吸われ続けている八雲の回復はすぐには無理のようです。
一方、ベナレスにはゲゲネイスが再び対峙しますが、ベナレスに加勢しようとしたカーリーに危険が迫ったために、彼女の无であるベナレスには無限の力が湧くことになります。エキドナはベナレスの力で増殖を始め、猛威を振るい出し、さらにベナレスは三只眼とミチルのもとに転移してきて、まさにチェックメイト状態に。
せめてエキドナがどうにかなれば、というこの状況。頼りは地下でエキドナを還す魔方陣を整えるハーンと葉子、セツたちの一家(と舞鬼)です。戦えないことは、イコール無力じゃないと語りバックアップ役に徹する彼の言葉と行動に心打たれるのは、セツや葉子だけではないでしょう。
どうにか術式を発動するのとほぼ同時に、ベナレスは「茶番を終わらせてやる」とミチルに覚悟を迫ります。恐らく彼も「真実」に気付いているのでしょう。読者たる自分は、違和感は感じながらも「真実」にはまだ気付けぬまま、今巻は幕となります。
八雲の同窓会(本人は欠席)を描いたちょっとビターな「星に願いを」、いつものノリの巻末与太番外「ドキドキ最強伝説」とカバー下のあらすじ&人物紹介&4コマ&「あとがきのようなもの」で一息入れて、気になる続きをウェブ連載(3×3EYES<サザンアイズ> 幻獣の森の遭難者 第62話から)で追いつつ、次巻を待望したいと思います。