【一会】『3×3EYES(サザンアイズ) 鬼籍の闇の契約者 1』……暗黒の“神”は何を望む
2018/07/21
80年代の終わりからゼロ年代はじめに連載された伝奇活劇漫画『3×3EYES』(100夜100漫第100夜)。そのラストから12年後の出来事を描いた「幻獣の森の遭難者」が昨年完結しましたが、そのさらなる続篇「鬼籍の闇の契約者」の1巻が、去る6月に刊行されました。かなり遅くなって恐縮至極ですが、概要と思ったことなどを書こうと思います。
今巻のスタートは、時間軸的には恐らく「幻獣の森」の直後から。身体を何かに侵襲された青年による、「木星を消滅させたら」という不吉なモノローグが語られつつ、物語は始まります。
冒頭の舞台は南インド洋上に浮かぶ海上基地(というか一種のプラント?)「エディアカラ」。『3×3EYES』本編の最終章の舞台となったサンハーラ神殿の直上にあるこの施設で、八雲は新たな敵・スキウロスと相まみえます。
インドの派手目なおじさん的外見(冒頭アイキャッチ画像の右上参照)に似合わずお姉言葉で話すスキウロス。彼(でいいのだろうか?)の野望を一言で説明すれば、それは人類と鬼眼王との同士討ちということになろうかと。鬼眼王と云えば、かつては八雲たちと激しく戦い、一応の決着を見た今は月の裏側に立つ龍皇城に住まう三只眼吽迦羅の覇王です。直に手を出すことは実力的に困難なので、人間をそそのかすという搦め手を使おうということでしょう。
彼が「エディアカラ」に取り入ったのもその一手だと思われますが、どうもこの手は奏功しなかったようです。それは八雲の活躍というよりも、他の何かによるようで。その後の分析によれば、サンハーラは海水から電子を分離し、何かを生み出したとされています。ハーンは「暗黒物質ダークマター」と云っていますが、果たして実態は何なのでしょう。
だいたい時を同じくして、三只眼(さんじやん)たちの居る東京でも異変が巻き起こります(ちなみに本来「三只眼」とは三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)という種族のことで作中に複数の個体が存在しますが、単にこう書いた時は、八雲のパートナーであるパイことパールヴァティ四世が第3の眼を開いている時の人格を指します。ややこしいのですが…)。
さて、騒動の中心にいるのは、自撮り系の動画配信青年・鳥谷喜一(とりたに・きいち)。よくある(!)ネット上の炎上騒ぎを発端に、彼の意識には正体不明な存在が融合、ただの高校生から一気に「最強のモンストルム」へと変貌します(その容姿から、冒頭の物騒なモノローグは彼によるものと察せられます)。三只眼が出張って接触を試みますが、強力な転移の力でその場から離脱、八雲の帰国を待って事態の把握に乗り出すことに。
喜一が転移した先は、冒頭に出て来た南インド洋上の「エディアカラ」。彼の意識に融合しているのは、サンハーラによって生み出された「サンハーラの闇」で、それによって喜一は『神』的存在となった。そう彼に教えたのは、ここで待ち伏せていたスキウロスです。喜一に融合することは想定外だったようですが、これを好材料と見たのか、彼は大胆にも月に居る鬼眼王の襲撃を企てます。
喜一を伴ったスキウロスは速やかに鬼眼王を襲撃したようで、八雲に加勢を求めた現鬼眼王カーリーが東京に飛来、それを追った喜一とスキウロスも転移してきます。八雲、水妖の力を持つ葉子、思念獣使いの依子、そして三只眼が応戦しますが、奏功しません。どころか、力を使おうとした三只眼は昏倒し、スキウロスらの手に落ちてしまいました。
三只眼が目覚めたのは、やはり「エディエカラ」でした。拘束具を着けた三只眼を前に、喜一は語ります。自らに憑いた「サンハーラの闇」を「ウロボロス」と名付け、円環の蛇の名を冠したその力で平和な世界を作る、と。しかし、喜一自身はともかく、そう語る彼を使おうとしているスキウロスからは、胡散臭いものしか感じません。
一方、三只眼を奪われ反省しきりの八雲に、今はカーリーに統合されている鬼眼王シヴァの人格が声をかけます。本編ではラスボスだった彼は、過去の自らの野望を「失敗」として、八雲にあの“闇”を滅せよと云います。
八雲の脳裏に蘇るのは、ウロボロスが伝えてきた言葉、「世界にちらばれし“闇”の統合」。喜一の考え、スキウロスの思惑を超えて、ウロボロスは何かを成そうとしています。
…といった感じの1巻ですが、上記で書きこぼしたことを少し書き足しておきます。まず今後のストーリーにも大きく関わってくるであろう、三只眼が葉子だけに明かした秘密です。
三只眼吽迦羅という種族は、長命ではあるものの、長く生きればそれだけ精神は劣化し、無感動・無関心になっていく。一部の人格分裂型三只眼は、それを回避するために本来よりも若い人格を新たに創り出すが、それによってやがては自我の崩壊が訪れる――。『3×3EYES』本編では、パイ達が二重人格であることを、そう説明していたかと思います。
いま彼女の意識を脅かす原因こそ正反対ではありますが、至るところは同じ自我の崩壊でしょう。これをどう回避し、同時にウロボロスやスキウロスを退け、更には鬼眼王陣営とどうバランスを取るか。その辺りが今作のポイントになると思われます。
また、ひとり三只眼の秘密を知るところとなった葉子が、八雲に三只眼を気遣うよう語った言葉も印象的でした。愛は想像力。しばしば『刃牙』(100夜100漫第14夜)シリーズなどでも闘争と愛を対比して語られていることですが、相手が何を考えて欲しているかを考えることは、恋人や対戦相手に限らず、仕事や交渉ごとでも重要なんじゃないかと思います。
たぶん自分は、本編から通じて葉子が一番好きなんですが、それは多分、この想像力(もっとこなれた云い方をすれば「気遣い」)がとても細やかな人物だからではないかと思います。本編でも彼女には衝撃的なことがありましたし、元はベナレスの部下で今は人間の妻という難しい立場ですし、今度は三只眼の秘密を唯一知る者となった彼女には、その重さにくじけず頑張って貰いたいです。今は家族がいるから大丈夫でしょうか。
そして、細かいことながらもう1点。喜一に攻撃を受けた月面の龍皇城では、前作「幻獣の森の遭難者」の登場人物であるゲゲネイスとノルマルテも再登場していたりします。
彼らが本当にベナレス配下の九頭龍将となったのにも驚きましたが、一時は敵対していた2人が割と仲良さそうなのも意外な気がしました。特にノルマルテがゲゲネイスを「ゲゲさん」とか読んでいるあたり、微笑ましくて気に入りました。
巻末に配された、パイと、葉子の娘セツのバレンタインチョコ作りな与太番外「チョコレート・ボムボム。。」で一息入れて、“闇”の同行が気になる次巻を待ちます。もう1巻が出て結構経ちますが(自分が書くのが遅いのですね)、2巻の刊行予定は12月下旬とのこと。イー★ヤングマガジンでの連載は、もうずいぶん進んでいますし、そちらを追いながら刊行を待ちたいと思います。