【一会】『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 3(完)』……原子炉建屋へ。そして一旦の中締め
2018/07/20
2月発刊の2巻から8か月。この10月に竜田一人先生の『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』のとりあえずの最終巻となる3巻が刊行となりました。前巻について書いた時は、発刊予告があまりアテにならないかも、と書きましたが、思いがけず予告通りのリリースでした。
作中の内容が現実に追いついてしまったため、この漫画はひとまず今巻で中締めとのこと。そんな今巻は、2014年の夏と秋の1Fの1号機および3号機の原子炉建屋での作業の様子をメインに据えた内容となっています。
とはいえ、それらは全体の半分ほどの分量で、残りの半分は、この漫画を描き出したところから連載中の反響とか、取材に応じた話とか、仕事の待機期間中のエピソードなんかに割かれています。
各社に原稿を持ち込む辺りの駆け引きや、『モーニング』掲載後に福一の関係者と思しき人から編集部に電話がかかってくるなど、この漫画の舞台裏をかなり思い切って出している印象ですが、一方でメキシコのレスラー、ドス・カラスのマスクを被って取材を受ける辺り、演歌と歌謡曲の愛好家であることも考え合わせると竜田先生の守備範囲ってかなりすごいんじゃないか、とか余計なことを思いました。
また、これは今に始まったことでもなく前巻の途中あたりからそうなのですが、時系列がかなり入り乱れています。それに、取材と執筆が同時並行的に行われたために、この漫画の中で“この漫画を描いている描写”があったりもして、なんだか幻惑されたりもします。もし今後、仕切り直しをする機会があったら、出来事を時系列順に整理したバージョンも読んでみたいところです。
それはそうと、今巻の見せ場である原子炉建屋での作業についても触れておきましょう。2014年の夏と秋、2度にわたって竜田先生が従事したのは、1号機および3号機の原子炉建屋で働くロボットの“お世話”。発進準備や収容作業をしたり、階段を上れないロボットを持ち上げたり、ホースに入ったケーブルを引っかからないように管理したりという作業です。
2巻で描かれた2012年の廃棄物処理建屋での作業よりも、原子炉建屋の空間線量率は高めと思われますが、そこでもフットワーク軽く働く男たちの様子が頼もしいです。被曝を心配する川治さんがそれ故の機転で被曝時間の低減に貢献したり、全員の打合せで敢えて高線量の場所から素早く搬入して線量低減に成功したりという相応にドラマチックな展開も、ひとまずの最終巻に相応しいのではないでしょうか。
最終巻だから書いてしまいますが、正直なところ、1Fで働くことの安全性についての竜田先生の見解には完全には同意できないところがあります(川治さんの云った「いまいち信用できないんだよなぁ…」という考え方が一番近そうです)。
しかし、先生の行動力とタフネスとネアカぶりは素晴らしいですし、震災後の1Fで働く人々の苦労も悲哀もやりがいも娯楽も一緒くたに描いたこの漫画の重要性は、それで損なわれるわけもないでしょう。何らかの形で、再び竜田先生と福島をめぐる漫画が読める日を待ちたいと思います。
竜田先生、お疲れ様でした。次回作もどうぞご安全に。