【一会】『七つの大罪 28』……良くも悪くも、因果は巡る
2018/07/20
多種族による7人だけの騎士団〈七つの大罪〉と、世を滅ぼそうとする魔神族の戦い、そしてその背後にある魔神族と女神族という対立する二種族間に芽生えた愛の悲劇を描く『七つの大罪』。過日に引き続き、昨年10月刊行の28巻について語ります。
ちなみに今巻の限定版はキラキラ缶バッジ付き。うーん、こういうのは自分はあまり興味がなく、今回は通常版にしました。
城塞都市コランドへの道中、移動する新〈豚の帽子〉亭の中ではエレインを囲みエリザベス、ディアンヌのガールズトークに花が咲きます。3000年前から転生したというエリザベスが忘れてしまっていることを思い出せるよう、ディアンヌはエールを送りますが…。
そのエリザベスを思うメリオダス、そして命の灯が消えようとしているエレインを思うバンの気持ちもまた、すれ違います。バンとエレインも過酷な運命を生きていますが、メリオダスとエリザベスの運命も、辛いものなのかもしれません。
エリザベスの記憶の回復は唐突に訪れます。そしてメリオダスが明かした2人の真実。それは、3000年の旅路の発端となった残酷な呪いの物語でした。
女神族と魔神族。交わらないはずの両者が手を取り合ったがゆえに生じた、永遠の生と永劫の輪廻。それは当然の報いだったと云うべきでしょうか。
エリザベスの境遇からは、自分は安直に「女神転生」という字面を思い出します。もちろん某RPGシリーズ『女神転生』が念頭にあるわけですが、あのシリーズも、直接的に“女神”の“転生”が示唆されていたのは、初期の作品(原作小説の続編的な位置付けでした)だけだったような気もします。
しかし、エリザベスは見事な“女神”の“転生”を果たし続けている様子。有限の生を生きていた者がそういう状態になって、幸福であろうはずもないでしょう。
けれど、今は2人の呪いをどうすることもできません。〈七つの大罪〉は、キャメロット解放のため、次元のひずみの大元である城塞都市コランドへ向かう途上で、今はその目的を果たすために動くしかないのです。
コランドには急がなくてはなりませんが、ここで前巻でゴウセルが云っていた「寄り道」のエピソードが挟まれます。かつてゴウセルがアーマンドと名を偽って身を寄せていたオーダンの村での、村長の息子ペリオとの再会は、荒んでいたり悲しかったりするエピソードが多かったこの頃の本作で、久しぶりに清々しいものでした。
やがて到着した城塞都市コランド。待っていたのは、予想通り、十戒〈敬神〉のゼルドリスと、かつてバンに倒された〈信仰〉のメラスキュラでした。
出会うや否や、ゼルドリスとメリオダスが激突。凄まじい力でゼルドリスを圧倒するかに見えたメリオダスでしたが、メラスキュラスの“暗澹の繭”に閉じ込められる恰好に。メリオダスの破壊衝動は外の仲間達に対する死霊たちの力に変換され、結果的に〈七つの大罪〉の同士討ちの様相を呈してきます。死霊に身体を乗っ取られた団員の紅い目と血涙が痛々しいです。
コランドはかつて虐殺のあった街。それゆえ死霊の恨みがつのっているわけですが、それを行なったのは、かつて聖騎士のヘッドとして〈七つの大罪〉と敵対し、今はキングの兜に精神を遺しているヘルブラムでした。やはり因果はめぐるものなのでしょう。かつて悪行をなした者がその報いを受けるのは至当とも思われますが、改心した現在を知っていると複雑な気持ちになります。
ヘルブラムの贖罪は戦いを終わらせることにはなりませんでしたが、時間を稼ぐことにはなったようです。窮地を救ったのは、自分も辛いはずのエリザベスとエレインでした。この辺りのエピソードに付けられたサブタイトルは「愛は乙女の力」。月並みな言葉ではありますが、無償の優しさは、やっぱり人の心を打ちます。
それはそうと、エリザベスはマーリンの幼い頃を知っているようで。照れるマーリンというレアな場面は、彼女大好きなエスカノールでなくとも、今巻のポイントの1つでしょう。
本性らしき姿に変態したメラスキュラ。しかし彼女よりも、魔神の力を引き出し過ぎ、暴走して殲滅状態(アサルトモード)になったメリオダスの方がヤバそうです。メラスキュラは皆の連携で何とか打倒したものの、完全に理性を失った〈七つの大罪〉団長殿は、ちょっとやそっとでは抑えられなさそうです。
正午間近、闘級11万を超えたエスカノールが暴走するメリオダスと対峙しますが、やはり劣勢気味。これは打つ手無しなのでは?――というところで今巻はおしまい。巻末の「番外編/祭壇の王⑦」でも不穏な印象を残しつつ、物語は次巻へと続きます。