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【一会】『少女終末旅行 2』……希望が潰えた時に浮かぶもの

      2018/07/21

少女終末旅行 2 (BUNCH COMICS)

 先日、話題の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(公式サイト)を観てきました(高性能サブウーファーを新規導入した立川シネマシティの「極上爆音上映」は確かにすごかったです)。過激に恰好いい世界観と、人間の誇りを謳うストーリーがとても面白かったのですが、あの映画が描く遠未来に勝るとも劣らない世界を現出していると自分が思う漫画、つくみず氏『少女終末旅行』の2巻が刊行されていましたので、書きます。

 とはいえ、『マッドマックス』のように人々が争い合うような“爆音”な物語ではありません。むしろ支配しているのは、主に静寂です。
 登場する人物もごく僅かです。黒髪黒瞳、本好きだけどツッコミは意外と容赦ない運転担当のちーちゃん(チト)と、金髪碧眼、食べたり寝たりが好きでマイペースな銃器担当のユー(ユーリ)。基本的にはこの2人の女の子だけです。その他、1巻では地図を描いているカナザワが、今巻ではイシイという人物がゲスト的に登場します。
 彼女たちがドイツ製の履帯式牽引車両ケッテンクラート(キャタピラと荷台のある大型バイクのようなもの)で行くのは、未来的ではあるものの生物がほぼ存在しない廃墟。恐らくは、過去に食糧か土地かあるいはそれ以外の何らかの事情で始まった戦争は、物語の始まるずっと以前に、戦闘を遂行する人員が誰もいなくなったことで自然に消滅したものと思われます。

参考:1/32 Sd.Kfz.2 Kettenkrad (ケッテンクラート)
参考:造形村SWS 1/32 Sd.Kfz.2 Kettenkrad (ケッテンクラート)

 2人がどこを目指すか、というのは明確ではありませんが、今巻の末尾にある「これまでのみちのり」(2人がどう移動してきてどういうエピソードがあったかが図示されています)を見ると、彼女たちは食糧や燃料を入手するために、この多層構造型都市の廃墟を上方に向かっているようです。そんな切羽詰まった旅でありながらも、2人のやり取りに漂う弛緩した雰囲気が、「ほのぼのディストピア」(1巻帯)とか「新感覚日常」(2巻帯)と表現される所以なのでしょう。

 旅路の中、カナザワから貰ったカメラをいじったり、太古の寺院跡で神や死というものを思ったり、快適な住処を思い描いたり、魚の夢や雨だれの響きに触れたりといった各話が収録されている今巻ですが、やはり印象的なのは巻の後半、飛行機を飛ばそうとしているイシイとのエピソードかと。
 この漫画を読んで自分が連想するのは、やはり人類の黄昏の時代を悲観でなく楽観的な視線で描いた『ヨコハマ買い出し紀行』(100夜100漫第91夜)ですが、このイシイと飛行機のエピソードは『ヨコハマ買い出し紀行』における同様のエピソードとよく重なるように思います。両者に共通しているのは、“これが最後であること”を悲しむのではなく誇らしく思う気持ちと云えるでしょうか。イシイの「歴史の末端に刻む飛行だ」という言葉には、それが強く表れていると思います。
 しかし、自分にとってより強烈だったのは、その「歴史」とか「最後」という“力み”ではなく、それを緩ませた幕切れの方です。「もうダメだ」という時に、ぽかりと表れてきた大らかな気持ちは、決して自棄や捨て鉢という言葉で表されるものではなくて、意外と希望と云われるものに近いんじゃないかと考えました。

 ページ数の都合か、1巻にあった次巻予告は今巻にはありませんが、1巻から2巻の刊行までの時間から考えると、来年の春頃には3巻を読むことができるかと思います。『くらげバンチ』でのウェブ連載(作品トップページ)を追いつつ、その頃を楽しみに待ちたいと思います。

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