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【一会】『せっかち伯爵と時間どろぼう 6(完)』……それは、歳々に還る魂のような

      2018/07/20

せっかち伯爵と時間どろぼう(6)

 終わるという噂通り、本当に新年最初の『マガジン』で完結した『せっかち伯爵と時間どろぼう』。最終巻となる6巻が発刊になりました。時計仕掛けの狂騒劇は、果たしてどんな結末を迎えたのでしょうか――。

 前巻の途中から、いつもの時事ネタや下ネタの色合いは薄れて、入れ替わるように始まった伯爵の“2周目”。それは最愛の妹を時命(伯爵たち上人類の寿命)による死から救おうとする故の行動でした。しかし、時を遡った影響か、いつしか“2周目”の物語は並行世界へと突入してしまい、大きく分けて7つあるとされるバッドエンド(打ち切り)を1つずつ潰さなければ元の世界に戻れないということに。並行世界の夕仏真心(ゆぶつ・まごころ)の、キリコの絵画「街の神秘と憂鬱」のような登場の仕方に不安がいや増します。

 終わっては覆り、終わっては覆るという物語の狂奔に、読む側は思わず翻弄されますが、そんな中ずっと気になっていた伏線が微妙に回収されていたりも。伯爵の長い頭、小手川君のコテカ、そして一応の主人公(?)冗人類の時只卓(ときただ・すぐる)が第1話で積んでいた絵本と、やたら長い(高い)ものが出てきたこの漫画ですが、その理由がついに明かされます。しかも風嵐区美浦(ふらんく・みうら。舞台となっている場所の地名です…)の外れに穿たれている縦穴までも含んだ形で。まあ、某チェーンのパン屋に気を使って○ンジェルマンという名を捨てチルチル伯爵になってまで実行したそれすらも徒労なわけですが…。

 そうこうしているうちに伯爵自身の時命もまた、近づいてきます。上人類は時間軸上に飛び飛びに存在できる代わりに、トータルの寿命(時命)はたった1年間。この漫画の連載もほぼ1年ですし、ある意味では計算通りなのです。伯爵は自分がとった最後の行動を「くだらないこと」と表現していますが、読んだ人はどう思われるでしょう。自分としては、確かにくだらないことだと思うけれど画期的、それこそ上人類の持ち味を生かした選択だったんじゃないでしょうか。

 かくて、彼らの生と死はお盆の期間のように曖昧になって、真心の嫉妬はほぼ一生続き、つまり狂騒は終わらない、ということになりそうです。子どもの頃、漫画やアニメの最終回って親しんだ人物がいなくなってしまう≒死みたいな認識でけっこう悲しかったのですが、こんな形なら、悲しむ暇もなさそうです。
 久米田先生、お疲れ様でした。また新しい狂騒とネタで楽しめる日をお待ちしています。

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