【一会】『せっかち伯爵と時間どろぼう 4』……「ありのー♪」だけで分かる
2018/07/20
意外にダメな人が多い人類の上位存在、上人類の生態と、相変わらずの時事ネタ弄りで飛ばすこの漫画『せっかち伯爵と時間どろぼう』も、はや4巻となりました。刊行日で云えばその間わずか2か月。…まあ、タイミングによっては毎月単行本を刊行する場合もあるようだしいいのか。
今回は少し趣向を変えて、ギャグのネタではなく、各話で登場するSF・オカルト的モチーフに焦点を絞ってみようかと。と云うのも、この漫画は各話ごとに“既存のモチーフを下敷きに、時事ネタギャグ・下ネタをこってりと盛る”という構造(そしてこれは、作者の得意とするところだと推察される)を持っているように思えるのだけど、今巻ではその既存のモチーフにSF&オカルティックを感じたためです。というか、「せっかち伯爵(=サンジェルマン伯爵)」というモチーフ自体が既に、澁澤龍彥的というか学研の『ムー』的というか、要するにオカルトとSFとの狭間の範疇に含まれるものでしょうし。
というわけで、目についたものを挙げていきます。
まずはオーパーツ。発見された時代・地域では、まず実現不可能な技術で作られた品物のことですね。今巻では3Dプリンタと下ネタ(やはり)とともに、残念な展開に…。子孫が残せなければ、人類滅亡の危機です(意味深)。
次にUMA。Unidentified Mysterious Animalすなわち未確認動物のことで、古くはネッシーとかビッグフットとか、最近だと吸血動物チュパカブラとかでしょうか。まあ今巻の中では、ゆるキャラと組み合されて最終的には組同士の全面抗争に発展することになっていますが。
この辺りは『ケロロ軍曹』の日向冬樹の守備範囲であることを考えるとオカルト的と云ってよさそうです。
次の2つ、サブリミナル効果とタイムパラドクスは、どちらかというとSF作品でよく見聞きするものですかね。前者は、映像の中に人間が知覚不能なほど短い別の映像を挟むことで無意識に働きかけて視聴者を誘導できるとされている効果のことで、後者はタイムトラベルによる矛盾(現在の自分が過去の自分に邂逅することで矛盾が生じる等)のこと。サブリミナルの方は黒奥様(クロックマダム)のアパートのCMとして絶大なる効果をもたらしつつ、憔悴した加トちゃんなど痛ましいネタを挟み、タイムパラドクスはドッペルゲンガー(自分とそっくりの姿をした分身、見たら死ぬ)と結びついて何故か○ッキーマウスはすごいという結論に。
そして、定番の心霊写真も、上人類の5分病(普通の人類でいう五月病)によるものと解釈されて登場。いちおうヒロイン枠なのにマゴ(夕仏真心[ゆぶつ・まごころ])の扱いは前作(100夜100漫第36夜)の木津千里さん的なものになりそうです…。
ここまで書いて改めて思うのは、SFとかオカルトに限らず、“ある事物の新解釈をしてみせる”ところが久米田作品の根源的な魅力じゃないかということ。時事ネタは単行本化する間にどうしても古くなってしまうけれど、この“新解釈”についてはそれほど鮮度は問題にならないだろうし、今後も楽しませて頂けると思います。
と、そういいつつも今巻で一番笑って心動かされたのは、帯にも書いてある「ありのー♪」。この記号含めてたった5文字で、何のことか解るのが凄い(もちろんアレです)。もちろんたった5文字ですから、JA○R○C申請なんてできません。この風刺。この反骨。ある意味では励みにすらなります。
その他、人類世界で人気子役「あしだ なま」として活躍する葦姫の登場とか、同性しか好きにならないはずのホムンクルスのホムン君が人間の少女に恋慕して、それを吹っ切るために“男活”に励むおまけ漫画「アブノーマル・アクティビティ」とか、あとがきになぜか載ってる短編小説「巻末コメントゴーストライター翔人×2(ショートショート)」とか、今回のカバー下は、1~3巻までの解答だったりとか、隅の方まで色々と詰まった感のある4巻。再読しつつ、次巻を待ちます。