【一会】『いぬやしき 1』……最終兵器っぽくなった初老の男性の行く先は?
2018/07/21
気が付けば『GANTZ』の終了からはや1年近くが過ぎた先月下旬に、奥浩哉先生の新作である『いぬやしき』1巻が刊行となりました。
事前情報ではお爺さんが主人公ということだけが明かされていたので、前作から一転して日常を描いたものになるのかなー、と何となく思っておりましたが、冒頭こそそんな匂いを出しつつも、やはりハードなことになってます。最初に抱いた印象としては、やはり高橋しん『最終兵器彼女』なのですが、あれはやはり、ちせが可憐な女子高生だからこそ生じる壮絶さや辛さや癒される感じがあったんだろうと、いま思い返すと感じます。
そこへ行くと、この漫画の主人公は犬屋敷壱郎(いぬやしき・いちろう)というお爺さん(御年58歳ですからそう表現して差し支えないんですが、子どもたちがまだ家にいるので厳密にはお父さんですね…)です。家族や世の中に対して不満は色々ありますが、もはや老い先短いですし、諦めの境地に至っていても不思議はない状況と云えるでしょう。
そんな人が突然いままでの人間ではなくなってしまったことへの戸惑いと、陰惨な暴力を己の力でねじ伏せた先にやってきた感情の奔流。その辺りが今巻のハイライトじゃないかなと思います。
それはそれとして、表紙にも描かれていますが、やはりこの壱郎さんの顔がいいです。半世紀以上、積み重ねてきたであろう苦楽が、特に目元に表れているように感じられる描かれ方は、写実派の奥先生ならではといったところかと。物語の展開はもちろん気になりますが、この壱郎さんの色々な表情を堪能できることもまた、この漫画の魅力になっていくのではないですかね。
1巻終盤では壱郎さんと同じく人間でなくなった高校生、獅子神晧(ししがみ・ひろ)も登場します。この作品に登場する若者は全体的に荒んでいるんですが、晧も例に漏れず日常に倦んだ感じの少年ですね。壱郎さんと邂逅した時、敵対するのか協力関係になるのか、気になります。
そして、最後に特筆しておきたいのが獅子神君の友達でちょっと引きこもり気味の安堂君。なんと『GANTZ』の大ファンです。奥先生は彼を“『GANTZ』信者”にしたことについて、「できるだけ現実にあるものを出していきたくて」(「コミックナタリー」特集記事『奥浩哉「いぬやしき」×久慈進之介「PACT」特集、異なる作風のSF作家対談』)と仰ってます。
それにしても、作中人物に自作を酷評させるというのは確かに『GANTZ』完結時の反響に鑑みるとリアルですが、かなり大胆な所業には違いないかと。作中に作者の過去作品を実名で登場させる手法は藤田和日郎『月光条例』で効果的に用いられたのが記憶に新しいですが、ここでも旧作品が虚構であることを強調するのと引き換えに、今作が現実であることを示す効果を表しています。そうして強化されたリアルを、作者はどう扱っていくのか。物語と作画に加えて、その辺にも注意しながら続きを楽しみたいところです。