【一会】『月光条例 28』……いまはまだ、泣くべき刻じゃないぜ
2018/07/20
26巻から毎月連続刊行されている『月光条例』。今巻で28巻となりました。このまま最終巻まで行くのでしょうか。
さて、“月の客”と戦いも佳境のおもむき。とはいえ、決して月光たちは有利ではありません。無傷のままの人物なんて、もはや誰もいないんじゃないでしょうか。今巻でも『青い鳥』のミチルと青い鳥や、一寸法師、“長靴をはいた猫”ことイデヤ・ペローといった、月打された「おとぎばなし」のキャラクターたちが命をかけた奮戦をみせてくれます。
まずは月光と因縁浅からぬ『青い鳥』のキャラクターたち。かつてチルチルを偽装していた時の姿で再登場のミチル(登場時のぶち抜きコマが、なんだか必要以上に艶かしいです)と、なんだかんだと世話焼き役を引き受けてくれていた青い鳥が、ここで重要な役割を担います。あの台詞をやっと聞けた青い鳥は、傷だらけだけど満足げですね。月光の心中はいかばかりでしょうか。
活躍という意味では、今回もっともスケールが大きいのが一寸法師でしょう。なーんとなく、いままで小物っぽいイメージだった彼ですが、終盤にきて急に“漢”になりました。そこに気付いて声をかける天童と、すかさず応じる一寸のやり取りが熱いです。そんな一寸法師の闘いを支えてくれるのは、幾つもの「おとぎばなし」からの力たち。作中に描き出されなくても、おびただしいサクシャがこれまで紡いできた全ての「おとぎばなし」が、この“「ものがたり」を護る戦い”に身を投じていることが分かります。
一寸法師の小物感と同じように、これまでどうも鼻持ちならないヤツだったイデヤも、ここに来て心情を吐露します。「俺は月光に、あやまらなきゃなァ…」と語る、この「なァ…」が、もうズルいです。その言葉と表情に込められた悔恨のような詠嘆のような感情が、他人に素直に憧れることのできない意地っ張りさん(自分のことです)な読者の心には、とても迫ります。。「マペティカ(融合強力化)」でイデヤと一体化して戦う工藤サンに、ついに「はじめて頼りになるように思えた」と云わしめて、もはやわだかまり無しの心境で、ラストバトルに挑みます。
一方で敵方の親玉オオイミにも少しだけスポットが当たります。彼の言い分は前作『からくりサーカス』(100夜100漫第27夜)のラスボスの考え方とも近いですよね。自らを正義と信じているラスボスを、どうすれば主人公たちは破ったと云えるのでしょうか。。
そして。黒髪ロングのツンデレ才媛、月光たちの解説役として、ブレーンとして活躍してきた彼女、工藤伽耶(くどう・かや)にも、戦うべき時がやってきます。といっても、もちろん肉弾戦ではありませんけれど。
こういう時、勘が働いたり頭がよかったり、そして正義感の強い人は辛いですよね。その状況での最善手を打つ。それが自己保存に反するものであっても。
エンゲキブとトショイイン。対になるかのような2人のヒロインは、実のところ大きく違った役どころを担っていたわけで。そんな2人がまた笑いあうところが、自分は無性にみたくなったのでした。
帯には「次巻完結」とありますが、巻末の月光によれば「まだ わかんねーだろ」とのこと。どうなるかわかりませんが、いずれにせよ残された時間は多くはないはず。
自分の闘いを遂げて次々に退場していくキャラクターたちに目頭が熱くなることも多いですが、月光と同じように、ぐっとこらえて前を見据えたいです。「さいごまでおおさわぎでもりあげてまいりますぞ!」。そう、藤田先生も仰ってますしね。