100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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【一会】『いぬやしき 6』……地上で、宇宙で、迫る破滅の時

      2018/07/21

いぬやしき(6) (イブニングコミックス)

 エイリアンと思しき存在による事故に巻き込まれたため、超ハイスペックなアンドロイドとなってしまった初老の会社員・犬屋敷壱郎(いぬやしき・いちろう)と高校生の獅子神皓(ししがみ・ひろ)。銃をものともしない戦闘能力と、難病すら完治させる治療能力を有する彼らそれぞれの、“生きている感じ”を求めての活躍と暴走を描いた『いぬやしき』。先月22日に6巻が刊行されました。読みましたので概要と感想を綴ります。

 凶悪連続殺人犯として指名手配を受けながらも、クラスメイトの渡辺しおんという理解者に匿われることで、少しばかり人間性を取り戻しつつあった皓。しかし、彼らが寝静まったところに忍び寄る影――といったところで、前巻は幕切れだったかと思います。今巻はその直後から始まり、多くの読者が危惧したであろう、皓の再びの暴走へと繋がっていきます。
 悪者や嫌われ者が、ごく少数の理解者を得て一時は心休まるものの、その理解者を喪失することでより強い憎しみをつのらせる、という図式は昔からのものです(自分は『ダイの大冒険』[100夜100漫第90夜]の竜騎将バランを思い出しました)。が、黄金パターンだけに引き込まれます。

 母を失い、今また理解者を失ったことで、皓は明確な復讐心を持って警察に戦いを挑んでいくことに。かつて壱郎が暴力団を相手に戦った(3巻;当該記事)のを彷彿とさせる戦いぶりが展開されますが、ここは皓の心に注目したいと思います。
 これまで、“生きている感じ”を得るために何となく人を殺めてきたのが皓というキャラクターでした。しかしここに至っては、自分が“大切だ”と感じていた人物たちに危害が及んだことに怒るという、単純な回路で動いているように見えます。やっていることは虐殺なので全く共感できませんが、その心情については、生の実感を求めていた頃よりも、よほど共感できるように自分は感じました。

 それにしても、皓に対する警察の手加減の無さが、また恐ろしいです。もちろん皓は凶悪連続殺人犯で警察署を襲撃するような存在ですから手加減無しでいいのですが、法治国家であっても、激烈な暴力に対しては暴力でしか対応できないということが突き付けられているようで、その“余裕の無さ”自体に震えがきました。
 それ程になりふり構わない警察と皓の“戦い”と並行して、作中では巨大な小惑星が近づいているという報道もなされています。しかし、多くの人々は、皓にも小惑星にも“自分たちとは直接関係ない”という様子。その危機感の無さがリアルでもあるのですが、そんな不感症な作品世界の中で、壱郎たちの人を救おうとする好意と、拠り所を無くした皓の敵意だけが、読者には鮮烈に響くでしょう。

 近づいてくる小惑星は、壱郎と皓が強大な力を持つに至った切っ掛けが異星人だったことを思い出させてくれます。『PSYCHO+(サイコプラス)』(100夜100漫第81夜)では、世界に特殊な力を持った人たちが存在する理由として、大規模な天体災害が登場したと思いますが、この漫画ではどうなるでしょうか。
 現状、地球最強の存在は壱郎と皓ですが、彼らが協力して(現状あまり考えられませんが)小惑星をどうにかするのか、あるいは小惑星自体が異星人による何らかのツールなのか。いずれにせよ、これからの物語に絡んでくるものに違いないでしょう。

 地上で宇宙で、大変なことが起こりつつありますが、一方で壱郎の娘・麻理の物語も進行していきます。犬屋敷家の隣(というか“表側”)に豪邸を構える売れっ子漫画家の息子で同級生の織田君をライバル視して漫画家になろうと奮起した彼女。美大への進学も考えたりしているようですが、街中でふと壱郎と安堂君が一緒に歩いているところを見つけ、後を尾けていきます。
 麻理が壱郎と安堂君の関係を色々と邪推するところは、今巻(むしろこの漫画全体でも?)唯一のギャグシーンと云えるかもしれません。それはともかく、壱郎さん達がやっていることを垣間見た彼女の心境に少し変化が生まれたようです。壱郎と皓が織り成す展開の中に、彼女がどういう役割を果たすのかは、まだ今ひとつ解りませんが、小惑星と並び、こちらも気になるところです。

 そして、ついに皓は日本と国民全員に対して宣戦を布告。絶望的な予告を残し、次巻へと続きます。
 単純計算では今年の秋口と予測される7巻を、慄きながら楽しみに待とうと思います。

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