【一会】『いぬやしき 3』……完全なるか、勧善懲悪
2018/07/21
ふとしたきっかけから超強力な戦闘能力を有する改造人間(というよりほぼロボット?)となってしまった初老男性の犬屋敷壱郎(いぬやしき・いちろう)と男子高校生の獅子神晧(ししがみ・ひろ)。そんな2人それぞれの「生きてる感じ」を味わうための行動を対比して描く、奥浩哉先生の『いぬやしき』。先月下旬に3巻の刊行となりました。
今巻はダークヒーロー獅子神君はお休みで、壱郎さんサイドの物語に終始。ノンストップで一気読みする類の巻だと思います。
小さな幸せを育む若い男女を突如として襲う不条理な人為的凶事、追い詰められる彼ら、ギリギリで間に合う壱郎、そしてバトル。と、煎じ詰めてしまえばそんな風に要約できてしまう巻です。
しかしそれだけに、シーンの解釈に頭を使うこともなく、若い2人に感情移入して窮迫していく恐怖と、壱郎さんの登場と奮戦によるカタルシスを矢継ぎ早に味わうことができます。
生身時代はケンカもろくにできなかっただろう壱郎さんの戦いは、これが正味3度目くらい。戦いぶりはまだまだ拙い感じです。
相変わらず、その辺りの“慣れてなさ”が写実的な画風とあいまって巧みなんですが、一方で戦う相手は確実にグレードアップ。今回の相手はいわゆる“本職”の方々です。なので暴力をふるい慣れているし、ためらいなく銃の引き金を引きます。まあ、対する壱郎さんはまさにチート(TVゲームなどにおける不正なデータ改竄、いんちき)レベルの戦闘力なので、心配は要らないとは思いますが…。
それにしても、ここでちょっと思ったのは、壱郎さんは自身のやっていることを正義と考えているのか? ということ。壱郎さんは悪を憎み弱者を助けようとする性格ですし、今巻の展開は勧善懲悪と云えるでしょう。しかし、『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』(100夜100漫第90夜)で勇者ダイと大魔王バーンの最後の戦いが示したように、例え正義のためであっても、力で悪に対する時、正義を謳う者にはその過程で葛藤があるんじゃないかと思うのです。
まあ、エンターテイメントとしては、“正義が力で悪を倒してハッピーエンド”で何も問題ないと自分は思います。ただ、SFのフリをして現代の日常に潜む正義と悪についての考察を描いている感のあるこの漫画において、壱郎さんはそういう点を考えるのか、考えないのか、あるいは既に考えて結論を出しているのか、という点は気になるところ。それは、最後に控えているだろう獅子神晧との対峙とその後に関わってくることでもあるでしょう。そういう意味で、壱郎さんの意識については今後も注目したいと思います。
といったところでエピソードの結末を次巻に譲り、今巻は幕切れ。これまでから類推して、次巻は6月下旬くらいの刊行でしょうか。獅子神サイドの物語も気になりつつ、楽しみに待ちたいと思います。