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【一会】『いぬやしき 7』……殺戮のさなか、再びの邂逅

      2018/07/21

いぬやしき(7)【電子限定おまけ付き】 (イブニングコミックス)

 エイリアンと思しき存在が引き起こしたアクシデントにより、人智を超えたスペックのアンドロイドとなってしまった初老の犬屋敷壱郎(いぬやしき・いちろう)と、高校生の獅子神皓(ししがみ・ひろ)。彼らの活躍あるいは暴走を描いた『いぬやしき』の、前巻の予告からして嫌な予感しかしない7巻が8月下旬に刊行されました。だいぶ時間が経ってしまいましたが概要と感想を記します。

 今巻は、日本全体に対して宣戦布告した皓の力によって引き起こされるパニックの様子がメインといえるでしょう。「宣戦布告」という言葉は、戦争状態に入るという宣言ですが、皓の能力が現在の地球人類のそれを大きく上回っていますので、繰り広げられるのは戦争ですらない、一方的な虐殺に他なりません。
 皓がとった攻撃手段は、電波でした。原理は不明ですが、まずは新宿周辺を中心とした地域に、スマホを介して所持者を殺傷する力が猛威を振るいます。当然、被害は拡大していきます。某フリーアナウンサーを思わせるミヤノも、その攻撃対象から逃れることはできません。
 皓の幼馴染ながら壱郎に協力する安堂直行(あんどう・なおゆき)の機転により、スマホを介しての虐殺は一応、防御されることになりますが、それで終わるはずもなく。すぐさま次の一手を打って、皓は明日から1日に1000人を殺す、と何だか日本神話のイザナミのようなことを云い放ちます。

 皓が作り出した絶望的な状況の中、これに対抗する存在――すなわちヒーローがいるという指摘が、ネットを中心に浮かび上がってきます。もちろんこれは、これまでも自分が得た力で人々を救ってきた壱郎さんのことですね。今や多くの人の希望となりつつある壱郎ですが、やっぱり彼が一番気にしているのは自分の家族のことではないでしょうか。このあたりの場面での、壱郎や皓が置かれた状況を全く知らない家族と、全て知っていて家族に黙っている壱郎を対比するかのような画面構成が印象的でした。
 翌日、犬屋敷家も暮らす東京に、再び皓の凶気は横溢していきます。その直前に皓は、かつて一緒に平穏な時間を過ごした渡辺しおん(わたなべ・――)と会話を交わしたりもしているのですが、彼女の制止も今の彼の心には届かない様子。
 皓は決然と死を振り撒き始めます。都心の空に木の葉のように舞う旅客機群という画面は、写実的に描かれながらも作り物のようにリアリティが無いのですが、そのリアリティの無さが逆に恐ろしさを助長するのではないでしょうか。
 さらに、久方ぶりに帰京する女性の視点を借りて機内の状況も描かれていきます。結構な紙幅を取って、それまでの平穏なフライトを描写しているためか、突如としてパニックになるくだりの臨場感が際立っているように思います。

 皓の心がここまで荒んだ原因には、彼を取り巻く状況の間の悪さもあると自分は思っています。やっていること自体は明確に極悪なのですが、僅かに同情もできるか、と。
 ただ、それでもやはり、彼はこの漫画の主人公ではないのでしょう。それを改めて明確にしているのが、壱郎が多少なりと皓の凶行を防いだ直後の、2人の直接対面の場面だと思います。
 彼らが直接に顔を合わせるのは2回目でしょうか。皓の「俺が悪役で……/じじいが…ヒーロー」と途方に暮れる表情、そして直後に遠隔攻撃である「ばんっ」ではなく肉弾戦を仕掛けてきたところに、彼の余裕のなさが伺えます。
 一方、彼らの対面とほぼ同時に、壱郎の娘・麻里(まり)にも危機が。友人と訪れていた東京都庁に旅客機がぶつかり、炎上する高層階に閉じ込められてしまったのです。麻里の友人の「なんとかっなるよ/飛び降りても」という言葉と表情にパニックの恐ろしさを感じます。最優先で麻里の元に駆け付けたい壱郎ですが、皓との対峙はそう簡単に終わらなさそう。そんな局面で今巻は幕切れを迎え、彼らの窮地は次巻へと続きます。

 単純計算では、次巻8巻は今年の年末から年始の刊行になるでしょう。今巻の電子版限定で巻末に付された、ANIMAREAL(アニマリアル;アニメキャラクターをリアルに再現するプロジェクト)による壱郎と皓のビジュアルのリアルさを堪能しつつ、物語の変転が予感される次巻を心待ちにしたいと思います。

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