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【一会】『銀の匙 12』……それが怖くないって凄いことだよ

      2014/09/18

銀の匙 Silver Spoon 12 (少年サンデーコミックス)

 遅くなりましたが『銀の匙』12巻を読了したので書き留めておきます。
 まさかのハチ(八軒)の下宿爆発からスタートの12巻。てっきり下宿を追い出されるかと思いきや、そこは大丈夫だった様子。
 それはともかくとして、今巻では各人の視点がザッピングで描かれていきます。そして中盤からは徐々に物語内の時間も加速していくことに。

 ハチたちの2年進級を控え、馬術部に若干の新入生(定着したのは「~っス」口調な女の子。名前は未出の模様)が入ったりしますが、ストーリーの中心はやはり、ハチの立ち上げつつある農業ビジネスの行方。相変わらず父親に企画書を送ってはボツの繰り返しでなかなか会社立ち上げとはいかないようですが、ここで起爆剤的な役割を果たしてくれるのは、下宿爆発の遠因を作った人でもある馬術部OBの大川先輩。ここのところちょっと困った人な立ち位置でしたが、今回は久々に先輩らしい言動でハチを引っ張って(背中を押して)くれます。
 彼らの目下の事業としては、その大川先輩発の放牧豚ビジネスを軸に、牛の蹄耕法(耕作放棄地再生と廃牛の食味アップを同時に行う)も関連してきそう、というところ。主にハチのお父さんのせいで周囲に怪しい会社と思われたりで会社ができる前から株価低迷が懸念されますが、稲田先輩のバイト先の放牧豚牧場を視察したりと、実態としては動き始めます。
 この稲田先輩の「農業なんて、/不自然な密度で/人間に都合のいい/動植物を投入する/事業だもん。/自然破壊だろ」という台詞は印象的でした。自分は農業とは縁もゆかりもない人生なので、農業というとどこか“自然と一体”という意識を持ってしまいますが、実際には「畑は最初の工場」(『茄子』[100夜100漫第1夜])ですからね。

 ハチたちの事業の他にも、チーズっ娘の吉野のフランス留学(ちょっと専門とはちがったみたいだけど)とか、アキとハチとの受験勉強と相変わらずの恋愛未満っぷりとか、相変わらずといえば南九条あやめさんの相変わらずの迂闊っぷりとか、豚の精液宅配とか自生するトリカブトとか、まさかのジャガイモ擬人化(艦娘ならぬ芋娘?)とか、家の都合で野球も学校も辞めた一郎も何かに向けて歩き出したこととか、色々印象的だったことは色々あるんですが、今巻で最も自分の心に残ったのは、一郎がハチについて云ったこの台詞です。
 「…次から次へと/未知の世界に/踏み込んでって/怖くねーのか。」
 作者ご自身も袖のコメントに書いていますが、高校生で会社を立ち上げて新規事業を始めるって相当大変だし、リスクを考えたら恐ろしくもあります。もちろん、ハチが未熟でそういう怖さを知らないから、という面はあると思うけど、“知らない”ということはむしろ恐怖につながることの方が多いんじゃないかと思います。少なくとも自分自身はそう感じることの方が多いかと。そういう不安を振り払って、しかも明るく仕事を始めようとすることができるのが、彼の何より凄いところじゃないでしょうか。
 で、そう思いつつ、「自分はもういい大人だし、そんなことできなくてもしょうがないよね」とか思っていたら、豚舎管理の富士先生がまさかの決断を。「年齢とか立場とか、関係ないから」って、作者に先回りして釘を刺された気持ちで読みました。農業や畜産の結果得られる作物の美味しそうな様子にお腹が減るのは、この漫画を読んでいてよくあることですが、今巻はそれ以上に「自分がやって楽しい仕事をしよう」という気持ちを注入された気がします。

 そして、気がつけば月日は流れ流れ、今巻終了時点でハチたちが3年生の6月に。今後どうなるのか気になる人も幾人かいますし、もちろんハチの事業も気になります。作者の荒川先生のご家族が体調不良のため、しばし不定期連載となる本作ですが、どうぞご家族第一で、その上でじっくりと描き継いで貰えればと思います。次巻の刊行予定は2015年とのことですが、楽しみにしつつ続刊を気長に待ちたいと思います。

 - 一画一会, 随意散漫 , , , ,

 

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