100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

*

【一会】『アルテ 4』……想いを残し、新天地へ

      2018/07/21

アルテ 4 (ゼノンコミックス)

 16世紀初頭のフィレンツェを舞台に、貴族出身ながら画家を志望する元気少女アルテの修行の様子と、師匠であるレオへの淡い恋心、当時の人々の生活描写がそれぞれに興味深い『アルテ』。先ごろ4巻が発刊されましたので、書き留めておきましょう。

 前巻では重労働のフレスコ画の助手を何とかこなし、男社会である工房の同業組合に認められたアルテですが、今巻もまた変化の予感が漂っています。それをもたらしたのは、やはり前巻のラストで登場した貴族らしき青年でした。名門ファリエル家のユーリと名乗った彼は、自身の地元であるヴェネツィアへとアルテを連れて行きたいと申し出ます。名目はファリエル家の肖像画家、兼、彼の姪っ子の家庭教師。アルテを誘う理由は「女」で「貴族」出身だから、と、この辺りも予想通りですね。
 一度は断ったものの、結局アルテはユーリの誘いを受け、レオのもとを一時離れることに。レオとお供の人たちと一緒に、陸路と海路を乗り継いでヴェネツィアに到着、というところまでが今巻本編の内容ですが、そのプロセスにはやはり、仕事と女性をめぐるエピソードが配置されておりました。

 願ってもない話が舞い込んで困惑するアルテに、レオは冷静に接しますが、「お前が誠実に自分の技術を磨き続けていれば/またいずれ機会が必ず来る」という彼の言葉は、なんらかの技術を生業とする読者にも響きそうです。
 現実としては、運・不運とかタイミングとか、仕事において技術以外の要素はけっこう大きいと自分は思います。が、逆にだからこそ、焦らずに研鑽を積むというのは、簡単なようでなかなか難しいことと云えるのではないでしょうか。たゆまず技術を磨き続けることが武器になることは間違いないですし、ストイックなレオを体現するかのような言葉と云えるでしょう。

 一方、レオの師の娘ルザンナの登場によって、当時の寡婦に対する婚家の扱いの悪さが描かれます。女性にとっての結婚とお金についての話は、アルテの母から始まって、アンジェロの妹たち、針子のダーチャなど、これまでも色々な形で語られていますね。そこから唯一逸脱した存在として、高級娼婦(コルティジャーナ)のヴェロニカが置かれたりしていますが。この辺りがやはり、この漫画の大テーマの1つと云えるでしょう。
 ルザンナとレオの関係は、レオにとっては“弟子と、師匠の娘”に違いないようですが、ルザンナがレオに抱いていた心配には、“父の弟子”に抱く感情以上でありながら、単なる恋情よりももっと深い思いが込もっているような感じを受けました。あっけらかんと「レオさんに恋してる」と口に出すアルテが、意識してしまうのも無理はないというところでしょうか。

 そしてやってくる、フィレンツェとのしばしの別れ。「半年で帰ってくるから!」と連呼するアルテですが、なんだか云えば云うほど、一筋縄ではいかない困難がヴェネツィアで待ち受けている予感がしてきます。
 別れ際、師として、レオは冷たいように思えることをアルテに云いますが、それも先達として真剣にアルテの将来を思ってのことなのでしょう。直後にユーリに向けた「そいつを頼みました」という言葉からも、それが分かります。
 ただ、久々に静かになった工房で過ごす彼の後ろ姿には、フェアに徹したが故の寂しさも感じます。不器用というか真面目過ぎる彼に、アルテのいない日々は何をもたらすでしょうか。

 巻末の特別編「アルテの一日」を読み終えつつ、水の都ヴェネツィアのアルテを待つお仕事や、フィレンツェの友人たちや師レオの挿話などを十分に妄想して、次巻を楽しみに待ちたいと思います。5巻は来年2016年6月20日に刊行予定とのことです。

 - 一画一会, 随意散漫 , , , , , ,

広告

広告

広告

広告

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

  関連しそうな記述