第10夜 超古代遺跡を護る闘いに見い出す人の偉大さ…『スプリガン』
2018/06/27
「どーせ死ぬなら最後まで納得いくまで戦って死んでやる!!/自分の行動に後悔だけはしたくねー!!」
『スプリガン』たかしげ宙 原作、皆川亮二 作画、小学館『週刊少年サンデー』→『週刊少年サンデー増刊号』掲載(1989年2月~1996年1月)
かつて地球上にはいくつもの超古代文明が存在し、滅びた。なぜ滅びなければなかなかったのか。それは進みすぎた技術の故に自滅したためである。その時代の人間が遺した“伝言板”は伝える。「われらと同じ道は決して歩んではならぬ――」。
御神苗優(おみなえ・ゆう)は、そんな古代人からの言づてを守り、世界各地の遺跡に眠る超技術を、よこしまな思いで発掘しようとする者たちから守護する組織“アーカム”の腕利きエージェント。現役高校生ながら卓越した能力で任務を遂行していく。赴く先には各国の特殊部隊がそれぞれの国益のためにしのぎを削る闇の戦場が常に広がる。鍛え上げられた肉体に現代科学技術の結晶である兵装A・M(アーマード・マッスル)スーツをまとい、同僚のジャンや朧(おぼろ)らとともに死闘は続く。
御神苗優はためらわない
主人公の御神苗優は、敵の腕を極めれば即座に折る、照準が合ったらすぐさま引き金を引く(でないと自分が死ぬ)、という世界に生きている。彼に任務で関わった人間のうち、半分は死んでいるのではないだろうか。高校に登校し、クラスメイトとはしゃぐ場面でも、戦場で自分の命が失われることがほぼ確実な行動をとろうとする時にも、ためらったりはしない。自分がやることをやるだけ、というシンプルな回路で動いている。この面で、御神苗は戦士として完成されている。その彼が常にダッシュボタンを押しっ放しであるかのような疾走感で任務に向かい、戦い、人質を救出し、窮地から脱出する様は痛快である。
彼がスーツを脱ぐ時
しかし、そんな御神苗も人間としては未完成である。彼にはある引け目がある。その引け目の屈折した表象とも考えられるのが、彼が着用しているA・Mスーツではないか。精神に感応し、通常の30倍もの身体能力を発揮できるこの超科学的な装備は、滅びていった超古代文明の技術力とシンクロする、という考えは曲解し過ぎだろうか。
終盤、ある人物との戦いにより、御神苗は自分が固執していた考えから自由になり、人間としての成長を見せる。超古代文明の遺跡は変わらず世界中に存在するが、これに対する現代人の誰もが御神苗のような心ばえであることができれば、古代人の憂慮は杞憂に終わると思わせてくれる。
超古代文明に限らず、人が制御しきれない技術は現代文明にもあるだろう。誰もがそうしたことを考えなければならない今日、本作を読む意味は大きいだろう。
*書誌情報*
☆通常版…B6判(18 x 12.8cm)、全11巻。絶版。
☆保存版…A5判(21 x 14.6cm)、全8巻。特別編「FIRST MISSION」「GOLD RUSH」収録。電子書籍化済み(紙媒体は絶版)。
☆文庫版…文庫判(15 x 10.6cm)、全8巻。
☆コンビニ版…B6判(18 x 12.6cm)、全5巻。絶版。