第6夜 生者への冥い欲求と暗鬱の中で閃く生命の光刃…『武装錬金』
2018/06/27
「死んでもやっちゃいけないコトと、死んでもやらなきゃいけないコトがあるんだ!!」
『武装錬金』和月伸宏 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(2003年6月~2005年4月)
高校2年の武藤(むとう)カズキは私立銀成(ぎんなり)学園の寄宿生。ある夜、怪物に襲われていた少女、津村斗貴子(つむら・ときこ)を救うために致命傷を負うが、翌朝なにごとも無かったかのように目覚める。
しかし、彼は既に一度死に、錬金術の粋を結集して作られた“核鉄(かくがね)”を使って蘇生されていた。同時にそれは、“核鉄”により自己の本質を顕在化した特殊な武器“武装錬金”を駆り、斗貴子が戦っていた人喰いの怪物――ホムンクルスと過酷な戦いを繰り広げる“錬金の戦士”としての条件を満たすことを意味していた。
「日常に還れ」と斗貴子は云う。しかしカズキは葛藤の末、戦いへと身を投じていく。自らの守るべき日常と、傷だらけで戦う、斗貴子という少女のために。
暗黒に彩られたボーイミーツガール
少年が特別な力や任務をもった少女と出会い、少女を案内人としてその世界に身を投じていくという話は、恐らく数多の類型がある。源流は、藤子・F・不二雄の『T・Pぼん』あたりだろうか(特に調べていないので、適当である)。普通は胸躍る出会いだろうが、本作の出会いおよびその後の展開は、ギャグシーンがありつつも暗く打ち沈んでいると云わざるを得ない。これは、作者の前作『るろうに剣心』でもそう感じたのだが、明るい笑いのシーンがありつつも、この作者の本領は死が吹き荒ぶ荒野の象なのだろう。
生への執着と生きることの終着点
錬金術の起源は諸説あると思うが、1つには永遠の命を得るため、という説がある。命を巡っての描写は本作でも主題として取り上げられていると思う。主人公のカズキは錬金術によって蘇るし、奇妙な敵役として終盤まで出番のあるパピヨンこと蝶野攻爵(ちょうの・こうしゃく)は生来の病弱さゆえに、錬金術による新たな命を渇望する。それは反対に云えば死を主題にしているということであり、そう考えると斗貴子を始め血生臭い過去を持つ登場人物は多い。その中で、学園シーンの人物達の明るさや、後半でカズキが採る選択が、暗いトーンになりがちな本作を救っている。闇に肉薄すればするほど、光輝く強さを発揮するということを描いた点において、本作は人間賛歌であると云えよう。
ところで、余談かもしれないが、斗貴子の「エロスはほどほどにしときなさい」は、男の性を優しくたしなめる永遠の年上の女生徒の名台詞として、ネット上で永く拡散し続けるだろう。それは偏に、本作が多くの人に愛されたからだと思う。エロスはタナトス(死)と並んで、強力な概念であることを、作者は感覚的に理解していたのかもしれない。
*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.4 x 11.4cm)、全10巻。作者によるキャラクター制作秘話あり。電子書籍化済み。
☆文庫版…全5巻。カバーイラスト描き下ろし。全巻に描き下ろし番外編「アフターアフター」収録。